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大学・研究所にある論文を検索できる 「Newly emerged immunogenic neoantigens in established tumors enable hosts to regain immunosurveillance in a T cell-dependent manner」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Newly emerged immunogenic neoantigens in established tumors enable hosts to regain immunosurveillance in a T cell-dependent manner

Muramatsu, Tomoaki 村松, 知昭 名古屋大学

2020.11.10

概要

【緒言】
 ネオアンチゲンは、抗腫瘍 T 細胞免疫応答を誘発することにより腫瘍の増殖を制御する上で重要な役割を果たしている。一方、腫瘍は、増殖する過程で抗腫瘍免疫応答を抑制するために、免疫抑制機能を持つ細胞の誘導や、PD-1/PD-L1 などの免疫抑制分子の発現の増強などの免疫逃避機構を獲得する。免疫チェックポイント阻害薬(ICB; immune checkpoint blockade)は、例えば PD-1/PD-L1 の働きを阻害し、抗腫瘍 T 細胞応答を再活性化させることで腫瘍の増殖を制御する。ICB は、様々ながんに対する抗腫瘍効果を示し、実臨床における癌治療の中心を担っているが、半数以上の症例では、 ICB の効果がみられないのも事実である。今後、効果的ながん免疫治療戦略を展開していくためにも、より詳細ながん免疫応答の解析が必要であると考えられる。
 がん免疫編集の考えに基づけば、がんの発生・進展の過程では、免疫逃避機構の獲得に加えて、免疫原性の低いネオアンチゲンを持つ腫瘍細胞が選択される。したがって、臨床診断されたがんでは、免疫原性の低いネオアンチゲンが多いと予想され、強力な抗腫瘍 T 細胞応答を適切に誘導することが困難となる。さらに、T 細胞は腫瘍抗原との慢性的な刺激により、機能不全の状態に陥り、ICB に対する応答も制限されると考えられる。これらのことから、PD-1/PD-L1 の遮断を行っても、効果的な抗腫瘍 T細胞免疫を誘導することができないと推測される。本研究では、免疫逃避機構を獲得した腫瘍に免疫原性の高いネオアンチゲンを新たに誘導することで、腫瘍増殖の抑制効果が高まるか検討を行った。

【方法】
 ドキシサイクリン(DOX;doxycycline)により誘導される遺伝子発現制御システムを利用して、がん細胞に免疫原性の高いネオアンチゲンであるオボアルブミン(OVA; ovalbumin)や NY-ESO-1 を誘導し、新しい腫瘍モデルを構築して検討を行った。具体的には、BALB/c マウス由来の大腸がん細胞 CT26 と C57BL/6 マウス由来のメラノーマ細胞 B16-F1 に NY-ESO-1 を、C57BL/6 マウス由来の大腸がん細胞 MC38 に OVA を導入し、それぞれ CT26-iESO、B16-iESO、MC38-iOVA の細胞株を作成した。
 それぞれの細胞株で in vitro、in vivo ともに DOX 存在下、非存在下で導入された NY- ESO-1、OVA の発現を flowcytometry、免疫染色、qPCR を用いて確認した。OVA を特異的に認識する T 細胞レセプターを強制発現した OT-1 マウスの CD8+T 細胞と DOX存在下と非存在下で MC38-iOVA と培養し、IFN-γ と TNF-α の発現を flowcytometry にて確認した。それぞれの細胞株とその親株をマウスの背中に 2 x 106 細胞数を皮下注射し、DOX を与える群と control 群で腫瘍増殖を観察した。さらに、抗 PD-1 抗体もしくは抗 PD-L1 抗体の ICB と DOX の併用群、DOX 群、ICB 単剤投与群、control 群で腫瘍増殖を観察した。DOX 群は 5%スクロースを混ぜた蒸留水に DOX 2 mg/ml を混ぜて、control 群は 5%スクロースの蒸留水を担癌後 6 日目から経口投与で与えた。ICBは 200 μg/mouse で担癌後 10、13、16 日目の 3 回腹腔内投与で与えた。さらに各群の CT26-iESO 担癌マウスから腫瘍浸潤リンパ球(TIL;tumor infiltrating lymphocyte)を抽出し、CD8+T 細胞、CD4+CD25−T 細胞、CD4+CD25+細胞を flowcytometry にて評価した。また、NY-ESO-1 特異的な CD8+T 細胞ならびに CD8+T 細胞から産生される IFN-γ と TNF-α の発現を flowcytometry にて評価した。なお、抗 CD4 抗体と抗 CD8 抗体は、500 μg/mouse で、担癌 1 日前から 5 日ごとに担癌後 19 日まで計 5 回投与した。

【結果】
 CT26-iESO の細胞株で、in vitro、in vivo ともに DOX 存在下でのみ NY-ESO-1 の発現が確認された(図 1A、B)。さらにメス BALB/c マウスに皮下注射した腫瘍は、DOX群で有意差を持って、腫瘍縮小を認めた(図 1C)。そして、抗 CD8 抗体投与群では、腫瘍増大が進行したが、反対に抗 CD4 抗体投与群では、DOX の存在にかかわらず、腫瘍増大が抑制された(図 1C)。DOX 投与群と control 群の担癌後 17 日目と 20 日目の TIL中の CD8+T 細胞は有意差を持って、増加していたが、CD4+T 細胞は CD25 の発現にかかわらず変化を認めなかった(図 1D,E)。また、親株を担癌させたマウスでは、DOX の存在にかかわらず腫瘍の大きさに違いはなかった(図 1F)。MC38-iOVA においても、 DOX 存在下で OVA の発現が確認され、H2-Kb 上の OVA エピトープの発現も確認された(図 2A-C)。そしてメス C57BL/6 マウスに皮下注射した腫瘍は、CT26-iESO と同様に DOX 存在下では腫瘍縮小効果を認め、その効果は抗 CD8 抗体を投与すると消失した (図 2D)。さらに、B16-iESO でも DOX 存在下で NY-ESO-1 の発現、腫瘍縮小効果が同様に確認された(図 2E、F)。そしてそれぞれの親株は DOX の存在にかかわらず腫瘍の大きさに違いを認めなかった(図 2G、H)。
 DOX と抗 PD-L1 抗体との併用療法をした CT26-iESO はさらに腫瘍縮小効果が増大していた(図 3A)。同様に MC38-iOVA においても DOX と抗 PD-1 抗体を併用した群で、腫瘍縮小効果が増大していた(図 3B)。B16-iESO では抗 PD-1抗体単独では全く効果を認めなかったが、DOX と併用した群では、DOX 群で認めた腫瘍縮小効果がさらに増大した(図 3C)。CT26-iESO を担癌してから 20 日目のマウスの TIL 中の NY-ESO- 1 特異的な CD8+T 細胞は、DOX 群で認めており、抗 PD-L1 抗体を投与された群ではさらに増加していた(図 4A)。CD8+T 細胞が産生する IFN-γ と TNF-α も DOX 群で増加し、抗 PD-L1 抗体投与群ではさらに増加していた(図 4B)。

【考察】
 本研究では、免疫逃避能を獲得した腫瘍に新たに免疫原性の高いネオアンチゲンを誘導することで、腫瘍増大が抑制されることを明らかにした。さらに、PD-1/PD-L1の阻害薬と併用することで、新たに出現したネオアンチゲンに対する CD8+T 細胞応答の抗腫瘍効果が増強された。これらの結果から、既存のネオアンチゲンの慢性的な刺激により機能不全に陥った T 細胞に代わって、新たに出現したネオアンチゲンに対する CD8+T 細胞応答が、効果的ながん治療につながることが示唆された。既存のネオアンチゲンに対する T 細胞応答の再活性化による抗腫瘍効果の報告は散見されるが、今回、新たに出現したネオアンチゲンを導入することで、耐久性のある T 細胞応答を引き出し、がん免疫療法奏効後の長期生存につながると考えられた。
 本研究で使用したネオアンチゲンは非常に免疫原性が高く、免疫抑制の腫瘍環境での抗原提示細胞の障害により制限された強刺激シグナルを補って、T 細胞レセプターを介したシグナルを提供するのに十分であった。さらに、抗 CD4 抗体によって、抗腫瘍免疫を損なうことはなかったことから、新たに出現した免疫原性の高いネオアンチゲンは、CD4+T 細胞の役割を補って、効果的な抗腫瘍 CD8+T 細胞応答を引き出すことが考えられた。今後、免疫原性の高いネオアンチゲンを、免疫逃避能を獲得した腫瘍に新たに出現させる方法が重要であるが、化学療法や放射線療法による細胞破壊は、ネオアンチゲンや DAMPs(damage-associated molecular patterns)を放出させ、また治療誘発性の DNA 損傷による新たなネオアンチゲンを産生することで、抗原提示細胞の抗原提示能の回復につながるものと考えられた。さらに、これらの治療と PD-1/PD-L1の阻害薬を併用することで、抗腫瘍 T 細胞応答が増強すると考えられる。ただ、これらの新しいネオアンチゲンが信頼性の高い T 細胞標的であるかどうか、また、実臨床において、PD-1/PD-L1 阻害によりがん患者の T 細胞応答が増強されるかなどは今後の検討課題である。

【結語】
 種々のマウス腫瘍モデルにて、免疫逃避能を獲得した腫瘍に新たに出現した免疫原性の高いネオアンチゲンを導入することで、CD8+T 細胞依存性に免疫監視機構を回復し、強力な抗腫瘍 CD8+T 細胞応答を誘導することを明らかにした。新たに出現した免疫原性の高いネオアンチゲンを利用した免疫療法の併用は、現在の ICB 療法の有効性を向上させる可能性が示唆された。

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