造血幹細胞移植における心理社会的因子の評価尺度の開発と移植後結果との関連の検討
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名原島 沙季
本 研 究 は 、 移 植 候 補 者 専 用 の 心 理 社 会 的 因 子 の 評 価 尺 度 で あ る Psychosocial
Assessment of Candidates for Transplantation scale(PACT)の日本語版を開発したも
のである。移植候補者専用の心理社会的因子の評価尺度の日本語版はこれまで開発されて
おらず、造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplant: HSCT)患者における PACT
の併存的妥当性や予測的妥当性に関する知見は世界的にも乏しい。移植前の心理社会的因
子の評価尺度の信頼性、妥当性を明らかにすることは、移植前の心理社会的評価の過程の
標準化のために重要である。そこで、本研究では、バックトランスレーション法により日
本語版 PACT を作成し、同種 HSCT 患者を対象に信頼性、妥当性の検討を行い、以下の
結果を得ている。
1.同種 HSCT 患者 70 人を対象として、各患者につき 2 人の評価者が後向きの診療録調
査により PACT の評価を行い、評価者間信頼性の検討を行ったところ、Fleiss-Kohen
の重み付けκ係数が 0.53~0.93 と中等度以上の評価者間信頼性が確認された。
2.併存的妥当性の検討のための外的基準として移植前に施行した自記式質問紙である
Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)
、Profile of Mood States(POMS)
を用い、これらの下位尺度と PACT の各項目間の相関を検討したところ、PACT の
「精神病理」および「最終評価」と HADS の不安、抑うつに中等度の負の相関を認め
た。また、PACT の「支援の安定度」と HADS の抑うつ、POMS の怒り、疲労、混
乱、PACT の「支援の利用可能性」と POMS の怒り、PACT の「生活様式」
、
「薬物・
アルコール使用」と POMS の混乱に各々中等度の負の相関を認め、併存的妥当性が
示唆された。
3.同種 HSCT 患者 119 人を対象として予測的妥当性を後向きに検討したところ、主要評
価項目である全生存期間についての多変量解析において、PACT の不良な「治療遵守」
が不良な全生存期間と有意な関連を示し、PACT の不良な「精神病理」、「生活様式」
、
「知識」は統計学的に有意ではなかったが不良な全生存期間と関連する傾向を示した。
4.急性移植片宿主病(graft-versus-host disease: GVHD)についての予測的妥当性の検討で
は、多変量解析において PACT の不良な「支援の安定度」、「支援の利用可能性」と急
性 GVHD 発症リスク上昇に有意な関連を認めた。
5.慢性 GVHD についての予測的妥当性の検討では、PACT の不良な「生活様式」と慢性
GVHD 発症リスク上昇に有意な関連を認めた。
6.好中球生着についての予測的妥当性の検討では、PACT と好中球生着に有意な関連は
認めなかった
以上、本論文は、PACT の日本語版を開発し、同種 HSCT 患者を対象として日本語版
PACT が一定の信頼性、妥当性を備えた尺度であることを明らかにした。信頼性および妥
当性が確認された日本語版 PACT を用いて HSCT 患者の心理社会的因子の評価を行うこ
とで、移植前の心理社会的評価の過程の標準化に重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。