リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「抗がん剤ストレス, エピジェネティクス修飾, 細胞分化刺激による哺乳類ゲノム複製制御」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

抗がん剤ストレス, エピジェネティクス修飾, 細胞分化刺激による哺乳類ゲノム複製制御

早川 琢也 三重大学

2022.05.10

概要

DNA 複製は細胞周期の S 期に行われ,全遺伝情報を娘細胞に継承するため厳密な制御のもとで行われる必要がある。哺乳類細胞では数百万塩基単位で DNA 複製が制御されており,複製起点の活性化を介して各単位の複製される順番(複製タイミング)が決まっているが,複製タイミング制御のメカニズムや意義については未解明な点が多い。この複製タイミングをゲノム網羅的に解析する技法として,近年,複製中の DNA にハロゲン化ヌクレオシドを取り込ませ,その領域を次世代シーケンサー(NGS)で解析する Early and Late replication timing regions analyzed by DNA sequencing, E/L Repli-seq 法が開発された。そこで,本研究では E/L Repli-seq 法を用い,抗がん剤ストレス,エピジェネティクス修飾,細胞分化刺激が複製タイミングに与える影響をゲノム網羅的に解析し,複製タイミング制御のメカニズムや意義を明らかにすることを目指した。

第一章では,抗がん剤ストレスが複製タイミングに及ぼす影響を調べるため,抗がん剤の一種であるカンプトテシンで処理したヒト RPE 細胞の複製タイミングを E/L Repli-seq 法を用いてゲノム網羅的に解析した。その結果,抗がん剤ストレスを与えて複製速度が低下した細胞では,通常使われる染色体上の複製開始場所に加えて,新たな場所からも複製が開始されていることが明らかになった。このことから,抗がん剤ストレスによる複製阻害を補うためのバックアップ機構として新たな複製開始場所が活性化されることが示唆された。また,抗がん剤ストレスに対して特異的な複製タイミング変化が検出されるという結果は,E/L Repli-seq 法を応用して細胞が受けているストレスの種類や程度を推測できる可能性を示した。

第二章では,エピジェネティクス修飾の 1 つである DNA メチル化と複製タイミングの関係について検討した。マウス ES 細胞の DNA メチル基転移酵素遺伝子をノックアウトすることで誘導される DNAの低メチル化が複製タイミングに与える影響について調べるために,E/L Repli-seq によるゲノム網羅的な解析を行った。その結果,複製タイミングが変化したゲノム領域を変異体細胞で多数同定することができた。さらに,この複製タイミングが変化した領域の遺伝子転写活性について調べたところ,複製タイミングが早まった領域では転写活性が上昇し,遅くなった領域では転写活性が低下していた。これらの結果から,エピジェネティクス修飾と複製タイミング制御の密接な関係が明らかになった。

第三章では,細胞分化刺激の複製タイミングへの影響を調べるため,マウス 3T3-L1 細胞株の脂肪細胞分化誘導時に見られる 1-2 回の細胞分裂 (Mitotic Clonal Expansion: MCE) に着目した。この MCE中に起こる DNA 複製は,脂肪細胞分化へのエピゲノム情報の書き換えがおこる重要なステップであると考えられており,この際におこる複製タイミング変化についてゲノム網羅的に調べた。脂肪細胞への分化誘導は細胞集団内で完全に同調して進むわけではないため,従来の E/L Repli-seq 法に加えて,1細胞でゲノム網羅的な解析ができる single-cell DNA replication sequencing, scRepli-seq 法も併用した。得られた NGS データから複製タイミングを求めるために,解析プログラムを確立し,それに従って複製タイミング解析を行った。その結果,未分化の細胞と比較して MCE 中の細胞では,ゲノムの約3%の領域で複製タイミングが変化していることが明らかになった。MCE 中の 1 回目の S 期において,既に複製タイミングが変化する領域が多く存在していることも判明し,これは分化中の個々の細胞における複製タイミング変化の瞬間を捉えた貴重な例である。さらに,複製タイミングが変化した領域の遺伝子転写活性について調べ,複製タイミングが早まった領域では複製タイミングが遅くなった領域と比較して転写活性が上昇する傾向を見出した。この結果から,MCE 中の複製タイミング変化と遺伝子発現制御に関連性がある可能性を示した。

本研究により,抗がん剤ストレス,エピジェネティクス修飾,細胞分化刺激が複製タイミング制御に及ぼす影響が明らかになっただけでなく,複製タイミング変化の意義を考察する上で重要な遺伝子発現との関連性についても手掛かりが得られた。これらの成果は,今後の複製タイミング研究にとって重要な知見となるであろう。