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大学・研究所にある論文を検索できる 「ゲノム編集による機能獲得型p53変異細胞の樹立とヌクレオシドアナログの抗腫瘍効果にp53ステータスがおよぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ゲノム編集による機能獲得型p53変異細胞の樹立とヌクレオシドアナログの抗腫瘍効果にp53ステータスがおよぼす影響

若狹, 武司 WAKASA, Takeshi ワカサ, タケシ 九州大学

2022.09.22

概要

日本では、毎年 100 万人以上が新たに癌と診断されることが報告されており、その対策は依然として急務である。癌治療においては、化学療法、手術療法、放射線療法及び免疫療法は、重要な役割を担う方法である。これらの治療法で使われる薬剤は、主に内服や注射によって血液中に入り全身に運ぶことができ、癌細胞の特徴的な生物学的プロセスに作用する薬剤は様々な癌腫に対して適応されている。癌細胞に対して、DNA 複製プロセスを撹乱させること(例:材料の枯渇、ポリメラーゼ阻害、DNA クロスリンク、アダクト及び損傷)により、DNA 複製ストレスを誘導して抗腫瘍効果を発揮している証拠から、複製を遅延または阻害する DNA 複製ストレス誘導は現在も重要な癌治療戦略の一つとして活用されている。そこで、DNA 複製ストレスを誘導するヌクレオシドアナログ系の薬剤であるトリフルリジン(FTD)に着目した。

FTD はロンサーフ(FTD/TPI)の抗がん剤(Effector)である。ロンサーフは、FTD と FTD の分解を防ぐ TPI(modulator)との経口抗がん剤の配合剤であり、標準化学療法に抵抗性を示す転移性大腸癌患者を対象とした国際多施設共同無作為化二重盲検第 III 相試験(RECOURSE 試験)において、ロンサーフはプラセボと比較して全生存期間を有意に延長し、現在世界で使用されている薬剤である。FTD は、癌細胞の核酸代謝経路にのせて染色体 DNA に誤挿入させることで DNA dysfunction による抗腫瘍効果を発揮する。具体的には、FTD は Pol 複製進行に阻害的に働き、細胞内ヌクレオチドプール dTTP 量を低下させ、競合的にかつ優位に DNA に取り込まれる dTTP が減少することで、代わりに FTD-TP が DNA に取り込まれ複製フォーク進行遅延を誘導することが報告されている。この FTD 誘導性 DNA 複製ストレスを癌細胞に与えると、p53野生型 HCT116 ではサイクリン B1 のタンパク質分解と有糸分裂期のスキップ、さらに G1 期への細胞周期停止および SA- β -Gal 活性の増加と細胞老化様の表現型を示し、一方で、 CRISPR/Cas9 システムにより樹立した p53 ノックアウト HCT116 では、サイクリン B1 分解および有糸分裂期スキップが起こらずに有糸分裂期に進行して、有糸分裂期後期に染色体ブリッジを伴った染色体分配異常が観察され、アポトーシス依存的な細胞死が誘導される明確な違いが報告されたことからから、FTD に対する細胞応答において p53 が主要な制御因子であると考えられた。

p53 をコードする TP53 遺伝子はヒトのがんで変異が最も高頻度に見られ、その変異の中で最も多いのはミスセンス変異である 。p53 ミスセンス変異は腫瘍抑制機能を無効にし、がんを促進する機能獲得(GOF)をもたらす。p53 は様々な細胞ストレスに応答する機構があり、その細胞ストレスの一つが DNA 複製ストレスである。過剰な増殖シグナルや DNA 損傷など様々な要因で DNA 複製進行が滞り、発がん過程におけるゲノム不安定性の誘因となるが、癌化学療法で用いる抗がん剤によっても DNA 複製ストレスが惹起され、がんに対して治療効果を発揮している。がん細胞周期における DNA 複製ストレスは、複製フォークの遅延・停止・崩壊、さらに DNA損傷や未成熟な有糸分裂など、多岐にわたる要因で発生していると考えられる。

本研究では、機能獲得型 p53 ミスセンス変異細胞に対する FTD の抗腫瘍効果を明らかにすることを目的とした。p53 野生型である大腸がん細胞株 HCT116 を親株としたゲノム編集 CRISPR/Cas9 システムを用いて機能獲得型変異として知られる DNA contact mutation R248Qと structural mutation R175H の p53 ミスセンス変異ノックイン細胞を樹立することで、p53 野生型、欠失型、機能獲得変異型のアイソジェニックなモデル細胞株を揃えることに成功した。これらのモデル細胞株を用いて、RNA seq 法により遺伝子発現プロファイルを比較し、ライブセルイメージングによる解析法を駆使することにより FTD に対する細胞応答を観察した。さらに、 3D sphere モデルおよびマウス Xenograft モデルにより抗腫瘍効果を検証した。

p53 ミスセンス変異では、FTD 誘導性DNA 複製ストレスによりp53 野生型同様にp53 は蓄積し、 p53 ノックアウト同様に p21 の誘導は認められない結果であった。FTD は p53 活性に依存して異なる作用機序で細胞増殖抑制を示した。p53 野生型細胞では FTD 誘導性 DNA 複製ストレスによる p53-p21 の活性化によって有糸分裂期スキップと細胞老化様の G1 期停止を示すことが報告されているが、一方で正常な p53 機能が損なわれたノックアウトおよび p53 機能獲得変異細胞はそれぞれ p53 野生型と比べ遺伝子発現プロファイルが大きく異なるにも関わらず、両者とも有糸分裂期に進行して異常な染色体分配が誘導され、その後アポトーシス依存的な細胞死が誘導された。FTD は 3D sphere モデルおよびマウス Xenograft モデルにおいても p53 ステータスに依存しない抗腫瘍効果を示した。以上の結果、FTD は機能喪失あるいは機能獲得変異 p53 によるゲノムワイドな遺伝子発現の変化を乗り越えてp53 ステータスに依存しない抗腫瘍効果を発揮する抗がん剤であることが明らかとなった。

参考文献

1). Matsuoka K, Iimori M, Niimi S, Tsukihara H, Watanabe S, Kiyonari S, et al. Trifluridine Induces p53-Dependent Sustained G2 Phase Arrest with Its Massive Misincorporation into DNA and Few DNA Strand Breaks. Mol Cancer Ther. 2015;14(4):1004-13.

2). Kataoka Y, Iimori M, Fujisawa R, Morikawa-Ichinose T, Niimi S, Wakasa T, et al. DNA Replication Stress Induced by Trifluridine Determines Tumor Cell Fate According to p53 Status. Mol Cancer Res. 2020;18(9):1354-66.

3). Zhu J, Sammons MA, Donahue G, Dou Z, Vedadi M, Getlik M, et al. Gain-of-function p53 mutants co-opt chromatin pathways to drive cancer growth. Nature. 2015;525(7568):206-11.

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