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大学・研究所にある論文を検索できる 「Studies on physiological functions and regulatory mechanisms of a newly identified murine testis-specific long noncoding RNA, Start [an abstract of entire text]」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Studies on physiological functions and regulatory mechanisms of a newly identified murine testis-specific long noncoding RNA, Start [an abstract of entire text]

大塚, 海 北海道大学

2021.06.30

概要

長鎖非コード RNA(long noncoding RNA, 以下 lncRNA)は、タンパク質に翻訳されずに機能する非コード RNA のうち、全長が 200 塩基以上で構成される分子として定義されている。近年の研究によって、遺伝子発現を様々なレベルで制御することが明らかとなってきており、細胞内での機能の重要性が指摘されてきた。lncRNA が持つ一般的な特徴として、mRNA と比較して組織特異性が高いことが広く知られている。組織間での発現比較によって、とりわけ精巣においてもっとも発現バリエーションが豊富であることが明らかとなったことから、精巣特異的な機能の調節に寄与する可能性が示唆されてきた。しかしながら、これまでに精巣 lncRNA の機能を詳細に明らかにした先行例は非常に少なく、生殖学における大きな課題の一つであった。

 精巣は「精子形成」と「ステロイド合成」という生殖に必須な 2 つの生理機能をもつ、極めて重要な器官である。一方で、これら 2 つの機能が生体内でどのように制御されているのかを説明する分子基盤については、いまだに理解が不十分である。本研究では、先に述べた遺伝子調節因子である lncRNA に着目し、精子形成ならびにステロイド合成に代表される精巣特異的な生理機能の調節に lncRNA が関与する可能性の検証を行った。

 本研究においてモデル領域として利用したマウスの Prss/Tessp 遺伝子座は、精母細胞において特異的に転写活性化されるセリンプロテアーゼ遺伝子がクラスターを形成している領域である。これらのうち Prss42/Tessp-2 および Prss43/Tessp-3 は減数分裂に必須であると報告があることから、精子形成に重要な領域であることが知られている。所属研究室の先行研究によって、本領域から転写される精巣特異的 lncRNA と、遺伝子間領域がもつエンハンサー活性が協働して作用することで Prss42/Tessp-2 の転写を時期特異的に活性化することが明らかとなっており、非コード領域の機能によって減数分裂関連遺伝子が制御されていることが示された。そこで本研究では、当該遺伝子領域から転写される遺伝子間転写産物について、さらに詳細な探索を行うことで、新規精巣特異的 lncRNA である Start の同定に至った。

 本研究で行った性状解析の結果、Start がマウス精巣のライディヒ細胞と生殖細胞において発現すること、加えてそれぞれの細胞種で核と細胞質の両分画に局在を示すことが明らかとなった。また、生後日齢の異なるマウス精巣を用いて定量的 RT-PCR を行ったところ、生後 14 日齢において発現が有意に上昇したことから、精母細胞でなんらかの機能を持つことが示唆された。

 本研究では、Start の機能解析のためにノックアウト(KO)マウスを作製した。はじめに形態学的解析を行うことで、Start の KO 個体では野生型精巣との間に見た目上の差異が見られないこと、また精巣重量や精巣上体における精子数に差が見られないことが確認された。そこで Startの KO によって発現変動を示す遺伝子を探索するために、成体精巣を用いた RNA-seq 解析を行ったところ、Star をはじめとするステロイド合成に関与する遺伝子群の発現量が KO 個体において上昇している傾向が明らかとなり、定量的 RT-PCR によって Star 及び Hsd3b1 という 2 遺伝子が有意に発現上昇していることを確認した。ここで、精巣が産生する主要なステロイドであるテストステロンの濃度を測定したところ、血清濃度及び精巣内合成量の両方において KO 個体で有意な減少を示すことがわかった。

 成体の精巣で観察されたステロイド合成遺伝子群の発現上昇とテストステロン合成量の不一致は、テストステロンの合成を制御するフィードバック経路によって制御されている可能性が考えられた。そこで本研究では、よりフィードバック効果が弱いことが期待される生後 8 日齢マウスを用いてさらなる解析を行った。はじめに精巣の組織学的解析を行うことで、KO 個体においてライディヒ細胞の数の減少が観察された。この結果は、定量的 RT-PCR によるマーカー遺伝子の発現解析と一致することが確認された。また、ステロイド合成遺伝子群の発現を定量比較したところ、KO 個体において有意な減少が確認された。さらに血清テストステロン濃度も、有意な減少を示すことが明らかとなった。さらなる検証のため、本研究では培養細胞における Start の過剰発現実験を行った。その結果、Start 過剰発現によるステロイド合成遺伝子群の発現上昇が観察されたため、Start はライディヒ細胞においてステロイド合成遺伝子群の活性化に寄与する因子である可能性が明らかとなった。

 次に本研究では、培養細胞を用いて Start の作用機序解明を試みた。はじめに、細胞質局在を示す Start がmicroRNA(miRNA)による制御を受けるか検証するレポーター実験を行った。Start の過剰発現と、miRNA 経路の主要なタンパク質である Ago2 のノックダウン実験を含む一連のレポーター実験の結果、Start が miRNA の標的となる可能性が示された。加えて、培養細胞におけるステロイド合成遺伝子群の発現量を解析したところ、Start の過剰発現と Ago2 の過剰発現でそれぞれ拮抗した影響を受けることが明らかとなり、Start が標的遺伝子の制御を miRNA 経路の調整を介して行っている可能性が示された。また、in vitro 転写した標識 Start を用いた沈降実験の結果、Start と相互作用する 3 種類の精巣 miRNA を同定した。これら 3 種類は Start の標的遺伝子として考えられる Star 及び Hsd3b1 の 2 種類の mRNA に対する結合ポテンシャルを持っていたことから、Start はこれらの miRNA を介して標的遺伝子の発現量を制御している可能性が示された。

 最後に本研究では、Start の生殖細胞における機能の解析を試みた。KO 個体の精巣の RNA-seq及び定量的 RT-PCR の結果、Start 配列の欠損が近傍遺伝子である Prss43/Tessp-3 と Prss45 の 2種類の遺伝子の発現減少に繋がることが明らかとなった。そこで BAC から精製した Start を含む遺伝子間領域(BAK5.4kb)がエンハンサーとしての機能をもつか検証したところ、この BAC5.4KB による顕著なエンハンサー活性が確認された。そこで、Start の転写開始点直下に Tet-on プロモーターを挿入することで、Start の転写活性化がエンハンサー活性に影響するか検証したところ、 Start 逆向き配列の過剰発現を含む対照群に対して有意にエンハンサー活性を増強することが示された。この結果に加え、short-hairpin RNA を用いた Start のノックダウンによって、エンハンサー活性の有意な低下が観察されたことから、Start の転写量がエンハンサー活性を制御する因子である可能性が示された。

 本研究では、新規に同定した精巣 lncRNA である Start の生理機能解析と分子基盤解析を試みた。KO マウスと培養細胞を用いた一連の実験の結果として、Start がライディヒ細胞において miRNA 経路を介したステロイド合成遺伝子群の発現上昇を行っている可能性が明らかとなった。生後 8 日齢、2.5 ヶ月齢個体で一貫して観察された血中テストステロンの低下は、Start の KO によって生じた顕著な表現型であると考えられる。また、生殖細胞においては、Start は周辺の遺伝子間領域が持つエンハンサー活性を増強することで、Tessp-3/Prss43 と Prss45 遺伝子の転写活性化に寄与する可能性が示された。Tessp-3/Prss43 遺伝子は減数分裂の進行に必須であることから、Start はその発現量の微調整を行うことでマウス精子形成の正常な進行に寄与している可能性が考えられる。本研究で報告した機能は、解析が遅れている精巣 lncRNA に対する知見を大幅に進歩させるものであり、とりわけこれまで報告のほとんどなかったライディヒ細胞における lncRNA の生理学的機能を明らかにした極めて重要な先行例となる。

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