リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Development of Annulative π-Extension Reactions Toward Programmed Synthesis of Polycyclic Arenes」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Development of Annulative π-Extension Reactions Toward Programmed Synthesis of Polycyclic Arenes

松岡, 和 名古屋大学

2021.06.23

概要

多環芳香族炭化水素(PAH)やナノグラフェンに代表される多環芳香族化合物は、広いπ平面に由来する特異な性質を有することから、材料科学や生物化学など幅広い分野での応用が期待される重要な化合物群である。電子的性質や安定性・自己集積能をはじめとした多環芳香族化合物の特性は、その分子構造に大きく依存することが知られている。したがって、多環芳香族化合物の構造物性相関の解明や目的の構造を精密合成する方法論は、応用研究の発展に必要不可欠である。しかしながら、従来の多環芳香族化合物の合成法では、全ての構造を作り分けることは極めて困難である。これは、従来の合成法が目的の構造に応じて都度適した合成戦略を考案する必要のある「標的指向型」の合成法であることに由来する。多環芳香族化合物は、芳香環の数や種類、縮環様式に応じて莫大な構造多様性を有するため、これら各々に対して適切な合成戦略を考案することは現実的に不可能である。したがって、あらゆる構造の多環芳香族化合物に対して、普遍的に適用可能な新たな合成方法論が求められる。

申請者は、このような問題点を解決する合成方法論として、PAHの縮環π拡張反応(APEX反応)による多環芳香族化合物のプログラム合成を着想した。APEX反応とは、官能基化されていない芳香族化合物を出発物質(テンプレート)として、その周辺部位に縮環芳香環を構築する反応である。PAHテンプレートの有する7種類の周辺構造(K, L, M, bay, beach, cove, fjord領域)を識別し、それぞれの領域を選択的にπ拡張するAPEX反応を開発できれば、多環芳香族化合物の自在合成が可能となる。すなわち、入手容易なPAHを出発物質とし、適切な位置でのAPEX反応を繰り返すことにより、目的の多環芳香族化合物をプログラムされた形式で合成することが可能となる。このプログラム合成法を実現するため、申請者は新規APEX反応の開発に取り組んだ。本論文は三章構成である。

第一章では、2,2′-ジヨードビアリールをπ拡張剤として用いるK領域選択的APEX反応(K-APEX)について論じている。申請者の所属する研究室では、パラジウム触媒とo-クロラニル、ジベンゾシロールを用いるK-APEX反応を報告していた。しかしながら、この反応は反応効率や基質適用範囲の面で課題を抱えていた。そこで申請者は、鍵中間体であるカチオン性のアリールパラジウム種を別の手法で発生させることで、温和な条件でのAPEX反応が実現できると考えた。検討の結果、パラジウム触媒と銀塩の存在下、2,2′-ジヨードビアリールをπ拡張剤として用いることでPAHやヘテロ芳香環に対するAPEX反応が進行することを見出した。期待通り、本手法は既存のK-APEX反応に比べ高収率で目的物を与え、さらにこれまで適用不可能であった電子豊富な芳香環テンプレートもπ拡張可能であった。また申請者は、開発したK-APEX反応と脱水素環化反応を組み合わせ、K領域とそれに隣接するbay領域やbeach領域をπ拡張するK,bay-APEX、K,beach-APEX反応も開発した。本反応は、PAHテンプレートの多数のC–H結合を一挙に変換し、高度に縮環したナノグラフェンを一段階で合成する極めて効率的な手法である。

第二章では、PAHのM領域選択的APEX反応(M-APEX)とナフタレンのL領域選択的APEX反応(L-APEX)について論じている。アセン状部分骨格の末端部位であるM領域は、前述のK領域などに比べて芳香族性が高く反応性が乏しいため、実用的なM-APEX反応は未開発であった。申請者は、脱芳香族的縮環π拡張反応(DAPEX)という新たな合成概念に基づいてM-APEX反応の開発を行った。PAHテンプレートに対して、強力な求ジエン体であるN-メチルトリアゾリンジオンを作用させることで、脱芳香族化を伴うDiels–Alder反応が進行し、M領域が活性な二重結合へと変換された環化付加体が得られる。この環化付加体に対し二重結合部位での環化反応による骨格構築と逆Diels–Alder反応による再芳香族化を行えば、M-APEX反応を達成できる。検討の結果、環化付加体に対して鉄触媒の存在下でGrignard反応剤を作用させることで、二重結合部位での環化反応が進行することや、得られた生成物が容易に芳香族化され、目的のM-APEX生成物へと誘導可能であることを見出した。本反応は種々のPAHに加え、有機半導体材料として知られるルブレンに対しても適用可能であり、既存の機能性分子の修飾法としても有用であることが示された。さらに申請者は、DAPEXの反応概念を応用してナフタレンのL領域選択的APEX反応(L-APEX)を開発した。前述の環化付加体に対し、パラジウム触媒の存在下でGrignard反応剤を作用させることで、アリル位置換反応が進行する。得られた生成物に対して閉環反応と芳香族化反応を連続的に行うことで目的のL-APEX生成物が得られた。

第三章では、APEX反応によるナノグラフェンの多様性指向型合成法について論じている。ナノグラフェンは有機電子材料として注目を集める一方で、その構造と物性の相関は未解明な点を多く残している。これは、既存の標的指向型合成法では構造物性相関の解明に必要不可欠なナノグラフェンライブラリの構築が困難なためである。申請者は、PAHテンプレートに対し、開発した位置選択的APEX反応を連続的に行うことにより、ナノグラフェンの多様性指向型合成が実現できることを明らかにした。PAHテンプレートやAPEX反応の順番を変えるだけで多様なナノグラフェンを合成することが可能であり、わずか4工程以内で17種類ものナノグラフェンの合成に成功した。

以上、申請者は多環芳香族化合物のプログラム合成法の確立を目指して、新規APEX反応とナノグラフェンの多様性指向型合成法の開発を行った。これらの手法は、多環芳香族化合物の効率的かつ系統的な合成を実現し、新たなケミカルスペースの開拓を可能とする。したがって多環芳香族化合物のライブラリ構築を通じて、構造物性相関の解明や材料科学・生物学分野における応用研究への多大な貢献が期待できる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る