【令和2年度若手研究者表彰奨学金 受賞記念講演要旨】Association of aberrant ASNS imprinting with asparaginase sensitivity and chromosomal abnormality in childhood BCP-ALL
概要
iv
令和 2 年度若手研究者表彰奨学金 受賞記念講演要旨
Association of aberrant ASNS imprinting with asparaginase sensitivity and
chromosomal abnormality in childhood BCP-ALL
渡邊 敦
山梨大学医学部 小児科学講座
【要旨】
後因子のひとつであるが,その薬理学的な背景
L- アスパラギナーゼ(L-Asp)は小児 B 前
は長らく不明であった。今回,北欧小児白血病
駆細胞型急性リンパ性白血病(BCP-ALL)に
研究グループが公開した BCP-ALL 臨床検体の
対する多剤併用化学療法の根幹をなす薬剤の 1
メチロームデータの解析を通じて,ASNS 遺伝
つであり,アスパラギンを分解する酵素製剤で
子は予後良好な核型の群で高メチル状態を,予
ある。正常の血球細胞がアスパラギン合成酵
後不良な核型の群で低メチル状態を呈するこ
素(ASNS)によってアスパラギンを再合成し
とが示された。これらの解析を通じて,小児
生存するのに対して,BCP-ALL 細胞では何ら
BCP-ALL において核型ごとに異なる治療反応
かの理由でアスパラギンを再合成できず抗腫瘍
性の背景因子の一つに L-Asp 感受性の相違が
効果がもたらされることが知られていた。今回
浮かび上がった。
の研究では,山梨大学小児科が有する世界的に
それでは,白血病細胞に特異的にみられる
も類を見ない大規模な BCP-ALL 細胞株パネル
ASNS 遺伝子のアリル特異的な異常メチル化は
を用いて in vitro での L-Asp 感受性解析を実施
何に起因するのであろうか。ASNS 遺伝子は太
した。併せて次世代シーケンサーを用いたメチ
古に哺乳類が胎盤を形成できるようになった過
ル化解析を行ったところ,BCP-ALL 細胞株で
程で獲得したウイルス由来遺伝子(PEG10)と
は ASNS 遺伝子の発現調整領域が多様なレベル
近接しており,PEG10 が制御しているゲノムイ
でメチル化されており,高メチル群では L-Asp
ンプリンティングが BCP-ALL における ASNS
に強い感受性を持つのに対して,低メチル群で
遺伝子の異常メチル化に影響を与えていた。
は L-Asp に抵抗性を示すことが明らかとなっ
日々の臨床のなかで生まれた着想を突き詰め
た。すなわち,ASNS 遺伝子のメチル化状態が
ていった結果,哺乳類の進化や発生過程に直結
L-Asp 感受性の強力なバイオマーカーであるこ
する現象にたどり着いた。将来的には ASNS 遺
とが見いだされた。
伝子のメチル化状態に基づく BCP-ALL の個別
また,BCP-ALL において核型は古典的な予
化医療の確立に貢献したい。 ...