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大学・研究所にある論文を検索できる 「正常肺組織における点突然変異の蓄積と肺がんリスクの関連の研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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正常肺組織における点突然変異の蓄積と肺がんリスクの関連の研究

久保, 絵美 東京大学 DOI:10.15083/0002002335

2021.10.13

概要

発がんに関連する突然変異やエピジェネティック異常などの遺伝子異常は、各種環境要因や加齢により誘発される。これらの遺伝子異常はがん発生はるか以前から正常組織に蓄積している場合があり、「発がんの場」として知られる。肺がんの場合、発がん要因として最も重要なものは喫煙であり、日本における喫煙者における肺がんのリスクは、非喫煙者と比較した場合、男性では 4.4 倍、女性では 2.8 倍高い。また、健常人における肺がんの発生率(10 万人あたり、男性の場合 124 人女性の場合 54 人)と比較して、肺がん手術歴のある患者における、再発でない異時性の多発癌の発生率(7%)は明らかに高いことから、肺においても発がんの場があることが示唆される。本研究では肺において、喫煙歴に応じて一見正常な組織に異常が蓄積し、発がんの場が形成されていることを明らかとすることを目的とした。

材料として、喫煙歴のない正常肺組織(Group 1:G1)、喫煙歴のある正常肺組織(Group 2:G2)、喫煙歴のある肺がん患者の非がん部組織(Group 3:G3)を収集し た。肺という臓器の性質上、喫煙曝露もなく肺疾患の既往歴もない、全くの正常肺組織の入手は困難であるため、G1、G2 は転移性肺腫瘍により切除された肺の非がん部(肺がんではない患者のがん、例えば大腸がんが肺に転移し手術する場合の非がん部)を使用し た。正常組織におけるジェネティック及びエピジェネティックな異常の蓄積は極めて低頻度である。そこで、特定のドライバー遺伝子の変異(メチル化)ではなく、ゲノム全体のどこに存在するものでもよく、ドライバー異常よりも蓄積量が多いパッセンジャー変異を測定することとした。

まず、既に胃や食道で実績がある 100 コピー法を用いて、低頻度点突然変異の蓄積を 解析した。その結果、G1 群(n= 24)では 1.9 ± 0.5 × 10-5/base(平均 ± SD)、G2 群(n= 19)では 2.2 ± 0.5 × 10-5/base、G3 群(n= 34)では 2.3 ± 1.1 × 10-5/base の頻度で点突然変異が蓄積していることが示された。G1 群と G2 群の比較により、喫煙によりリスクの増加に伴い、超低頻度点突然変異の蓄積量が増加していることが示された(P = 0.039; Welch’s t test)。3 群間のリスクに応じた増加は有意には認められなかった(P = 0.224; Jonckheere-Terpstra trend test)。

そこで、より高精度に低頻度の点突然変異を測定するために分子バーコード(unique molecular indices; UMI)を導入した。鋳型DNA に分子バーコードを接着するために、 Qiagen 社の QIAseq Targeted DNA Panels を用いた。プロトコール通り 20 ng のゲノム DNA を用いてライブラリ作成を開始し、同一の鋳型 DNA がシークエンスされる確率をあげるために、ターゲット部分の増幅の際には 3 ng(約 1000 コピー)分のみを用いた。 single-stranded damage の検出を避けるために、DNA の両鎖に対応する variant が検出された場合のみを変異とした。また、PCR やシークエンスのエラーを避けるために、 1UMI あたり 10 リード以上で決定した variants の中で、反対方向からも variant がある(≥1 リード/UMI)ものを、変異として抽出した。一方、各塩基 position についての UMI(≥10 リード/UMI)数を全塩基 position について合計したものを解析した全体の塩基数 とした。得られた変異の数を、解析した全体の塩基数を分母として除することで、変異頻度を計算した。この系が機能していることは、何も投与していないTK6 lymphoblast と変異原性物質(4NQO)を投与したTK6 lymphoblast から抽出したDNA をサンプルに用いて、変異頻度の上昇、特有の塩基置換(C to A およびC to G)の割合の上昇を検出することで確認できた。

以上の系は、Ion Proton シーケンサーで開発してきたが、低コスト化及び信頼性向上 の目的で、シークエンサーを HiSeq シーケンサーに変更した。それに伴い、シークエンス法がsingle-end 法からpaired-end 法に変更された。single-end 法では両方向から同一の variant が検出された場合、ワトソン鎖とクリック鎖に同じ variant が存在することを確 認できた。一方、paired-end 法ではワトソン鎖、クリック鎖ともに両方向からよまれるので、両方向から同一の variant が検出されたとしてもワトソン鎖とクリック鎖で同一の variant がみられたことは確認できない。そこで、シークエンスリードをmapping 後、 SAMtools を用いて、ワトソン鎖由来のリードとクリック鎖由来のリードとに分けた。その後再度 mapping し、ワトソン鎖またはクリック鎖で 1UMI あたりのリードが 2 以上の variant で、かつ、反対側の鎖で同じ variant が検出されているものを変異とした。さら に、稀な点突然変異と SNP とを区別するために、各塩基 position において variant UMIの頻度が 10%以上であった variant は除去した。一方、全検体において 30 UMI(≥2 リード/UMI)以上得られた塩基 position を抽出し、前述の SNP を疑う塩基 position を除いて解析対象塩基 position とした。解析対象塩基 position における全UMI 数(≥2 リード/UMI)の総和を解析した全体の塩基数とした。なお、サンプル間の解析条件をそろえる目的で解析対象塩基position 数が 300 万未満の症例と 500 万を超える症例は除いた。その 結果、G1 群(n= 11)では 4.3 ± 2.8 × 10-6/base(平均 ± SD)、G2 群(n= 12)では 6.8 ±3.7 × 10-6/base、G3 群(n= 16)では 7.1 ± 3.5 × 10-6/base の頻度で点突然変異が蓄積していることが示された。3 群間のリスクに応じた増加には傾向が認められた(P = 0.097)のみであったが、G1 群と G2+G3 群の比較により喫煙により超低頻度点突然変異の蓄積量が増加していることが示された(P = 0.039)。

最後に、Infinium HumanMethylation450 BeadChip を用いてゲノム網羅的によりDNAメチル化異常の蓄積を測定した。G3 群(n= 2)と G1 群( n= 3 )における DNA メチル化レベルの変化を、 全プローブについてマッピングした結果、 全体で明らかな差は認められなかった。 肺がんにおける発がんの場の形成において、メチル化異常の蓄積は明らかではないと考えられた。

本研究の結果、喫煙により一見正常にみえる肺組織にも低頻度の点突然変異が蓄積していることが強く示唆された。正常肺組織での点突然変異蓄積を実証した初めての研究となる。一方、喫煙によるメチル化異常の蓄積はほとんどなく、これまでに報告がある胃(DNA メチル化異常の方が発がんリスクに関係)や食道(DNA メチル化異常と点突然変異が同等に発がんリスクに関係)と対照的であった。本研究の過程でsingle-stranded damage の検出を避けるように改良を行ったが、シークエンスリード数が十分ではなく変異の検出感度には改良の余地があると考えられる。また、G1 の検体にも既に発がんリスクが蓄積していた可能性、肺では発がんの母地となる細胞は一部で肺組織全体の解析ではリスクの蓄積が観察しにくい可能性は否定できず、今後の課題である。

以上、本研究により、喫煙により一見正常な肺組織にも点突然変異が蓄積していることが強く示唆され、発がんの場を形成していることも示唆された。

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