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大学・研究所にある論文を検索できる 「医療ビッグデータを活用した重症小児診療に関するヘルスサービスリサーチ」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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医療ビッグデータを活用した重症小児診療に関するヘルスサービスリサーチ

城戸, 崇裕 筑波大学

2021.07.28

概要

目的:
日本では近年、重症な小児の診療について、先進諸外国に倣って特定の施設への集約化を推進されてきた。しかし集約化が患者の予後の改善につながっているのか評価をした研究は乏しいため、医療ビッグデータを用いた評価を行うのが本研究の目的である。本研究では以下2つの課題を設定した。①集約化による拠点での経験値の確保は、患者の生存率、神経学的予後に関係するか②集約拠点において、時間外診療は患者の生存率、神経学的予後に関係するか。

対象と方法:
課題①では、日本の入院診療費請求データベースである、DPCデータベースを用いた。予後が非常に悪いにも関わらず、集約化が進んでいない小児の院外心停止患者に着目した。小児の人工呼吸器管理の経験数が多い病院は、少ない病院と比較して、院外心停止の蘇生後管理の成績が良いという仮説を立て検証した。2010-2017年度のデータを用い、心停止を示す病名が入院時病名として入力されており、かつ蘇生後に集中治療管理(侵襲的陽圧換気または持続カテコラミン投与)が行われたものを対象とした。施設ごとの小児の人工呼吸器管理の年間平均件数に応じて、均等に4群に分け、これを曝露因子とした。アウトカムとして死亡退院と、神経機能悪化の指標として不良な転帰(死亡または医療的ケア依存状態での退院)を定義した。交絡因子を多変量回帰分析で調整し、各群におけるアウトカム発生に関するオッズ比を算出した。

課題②では、日本国内の重症小児診療レジストリであるJaRPACデータベースを用いた。本レジストリは重症小児集約拠点の集中治療室のみで構成され、入室患者の全例登録であることから、集約拠点での時間外診療を評価するのに適する。2013-2018年の全登録症例の内、緊急入室を解析対象、”時間外”の入室を曝露因子とし、予後の悪化と関連するか検討を行った。”時間内”とは平日日勤帯、それ以外は全て”時間外”と定義した。アウトカムは集中治療室からの死亡退室、および退室時の神経機能スコアの悪化とし、曝露によるアウトカム発生リスク増加のオッズ比を算出した。小児は重症であっても死亡や神経機能悪化のアウトカム発生が稀であり、サンプルサイズ不足により通常の多変量回帰で多くの交絡因子は調整できないと予想されたため、本検討では交絡因子の調整を2つのモデルで別個に実施して結果を提示した。モデル1は年齢と性別、重症度のみを調整する多変量ロジスティック回帰、モデル2は多くの背景因子を用いて”時間外”入室を予測する傾向スコアを算出し、この傾向スコアのみを調整する多変量ロジスティック回帰である。いずれのモデルも、病院レベルのランダム効果を予想した混合効果モデルとした。

結果:
課題①では、2,540件の院外心停止の小児が解析対象となった。入院施設の年間人工呼吸器管理件数に基づき、解析対象を“少”群(0-48件/年)、“やや少”群(48-101)、“やや多”群(101-164)、“多”群(164-)の4群に分けた。人工呼吸器管理件数がより多い群ほど、院内死亡と不良な転帰の発生割合は低くなる傾向が見られた。”少”群と比べた各群の院内死亡の粗オッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ、“やや少”群.069(0.55-0.88)、“やや多”群0.70(0.56-0.89)、“多”群0.58(0.46-0.73)であった。各群の院内死亡の交絡因子調整済みオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ、“やや少”群0.63(0.40-1.01)、“やや多”群0.67(0.42-1.05)、“多”群0.46(0.31-0.76)であった。同様に不良な転帰の調整済みオッズ比(95%信頼区間)は、”少“群と比較して各群でそれぞれ、“やや少”群0.93(0.55-1.57)、“やや多”群0.95(0.63-1.43)、“多”群0.67(0.46-0.96)であった。

課題②では、2,502件の緊急入室が対象となった。”時間内”757件(30.3%)、”時間外”1,745件(69.7%)であった。ICU内死亡の割合はそれぞれ、”時間内”群で2.4%(18/757)、”時間外”群で1.9%(34/1,745)であった。神経機能悪化の発生割合はそれぞれ、”時間内”群で8.5%(64/757)、”時間外”群で6.9%(121/1,745)であった。”時間外”を”時間内”と比較したICU内死亡のオッズ比(95%信頼区間)は、単変量解析、多変量モデル1、多変量モデル2でそれぞれ、0.79(0.44-1.41)、0.89(0.46-1.72)、1.03(0.57-1.95)であった。神経機能悪化についてのオッズ比は同様に、0.81(0.59-1.11)、0.90(0.64-1.27)、0.90(0.65-1.25)であった。

考察:
課題①では、小児に対して人工呼吸器管理を多く行っている施設の方が、院外心停止の蘇生後管理の予後が良いという相関が示された。集約化により患者予後を改善できる可能性があり、心停止患者の搬送システムを構築する際に考慮されるべきと思われる。課題②では集約拠点において、小児の集中治療室への時間外入室は時間内と比較して予後悪化と関連しなかった。サンプルサイズ不足に対応するため2つのモデルで交絡因子を調整し、ともに調整後オッズ比は1に漸近した。時間外が単独で予後悪化に及ぼす影響は大きくはないと考える。課題①では、集約化の拠点では、それ以外の施設の施設と比較して診療の質が高いこと、課題②では、集約化拠点において高い診療の質が、経時的に維持されていることが示されたものと考える。

結論:
日本国内の医療ビッグデータを用いた2つの研究により、重症な小児の診療における集約化の効果の評価を行った。重症な小児の診療の集約化により、集約化拠点の診療の質は高まり、また切れ目なく維持されることが示唆された。重症小児の集約化の議論において貴重なエビデンスを提供できたものと考える。また、本研究で得られた経験を基に、今後も重症な小児の診療に貢献する研究を続けていきたい。

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