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大学・研究所にある論文を検索できる 「自治体における児の皮膚状態と母の育児ストレスに対する小児遠隔健康医療相談の有用性の検証 : ランダム化比較試験を用いて」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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自治体における児の皮膚状態と母の育児ストレスに対する小児遠隔健康医療相談の有用性の検証 : ランダム化比較試験を用いて

安藤, 友久 東京大学 DOI:10.15083/0002005088

2022.06.22

概要

近年遠隔医療の中でも特に医師—患者間(Doctorto Patient, DtoP)の遠隔医療のサービスが増加しているが,その医学的な有用性の報告は限定的である。DtoPの遠隔医療の有用性の検証は喫緊の課題であると考え,本研究はそれを主題とすることとした。遠隔医療は妊娠出産をする世代の女性と相性が良いとされ,世界的には周産期・小児期の課題に対し活用され始めている。しかし,日本における報告は胎児診断や母子手帳の電子化等に関する少数に限られ,本研究では特に周産期・小児期のDtoPの遠隔医療に焦点を当てることとした。

周産期・小児期の遠隔医療で解決すべき問題として,まず子の観点から,多くの乳児が発症する湿疹に着目した。近年では湿疹・アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,以下AD)は他のアレルギー疾患の発症リスクを上げるとされ,発症予防が注目されている。ADに関する遠隔医療の報告は治療に限られ,発症予防の報告はない。そこで本研究では乳児のAD発症予防に小児科医が行うDtoPの遠隔医療が有用であるか検証することを第一の目的とした。

次に母の観点から,産後のメンタルヘルスに着目した。厚生労働省の「健やか親子21」で重要課題とされるも,最終評価報告では関連指標の改善が乏しく,その後の実態調査では母の産後不安の解消に必要な育児相談や子どもの発達・発育チェックに対する支援が不十分であることが示唆された。そこで,母がより支援を受けやすい可能性があるDtoPの遠隔医療という方法で,小児科医がより積極的に育児や子どもの健康・発達について相談に応じることで,産後のメンタルヘルスの中でも特に子どもに関する要因を含む育児ストレスの軽減に寄与することが期待できるのではないかと考え,その有用性の検証を第2の目的とした。

本研究は,神奈川県横浜市栄区(以下,栄区)において,非盲検無作為化並行群間比較試験として,国立成育医療研究センター政策科学研究部,栄区役所,株式会社Kids Publicの三者で連携して実施された。経費は役割に応じそれぞれが負担した。本研究は大学病院医療情報ネットワーク臨床試験登録(University Hospital Medical Information;IDUMIN000029774)に登録されている。

研究参加者の選択基準は,2017年11月1日から2018年5月31日に栄区に出生連絡票を提出した母とその児とした。除外基準は,母の同意が得られない場合,栄区職員が母子に不利益であると判断した場合,母が日本語によりコミュニケーションを取れない場合,早産の場合,過期産の場合,多胎の場合,新生児期に集中治療を要した場合とした。出生連絡票を提出した母は,研究用ウェブサイト上で除外基準に該当しないか確認され,研究計画の説明を受け,研究参加の同意手続きを行なった。

研究参加者は,登録順にオンライン上のシステムで自動的に,介入群と対照群の2群に1対1の比率でランダム化割付けされた。割付は研究参加者と介入実施者に対しては介入の性質上盲検化されなかったが,評価者に対しては盲検化された。

介入は,介入群は研究参加時から生後4か月0日まで遠隔健康医療相談サービス「小児科オンライン」を何度でも無料で利用できる環境を提供することとした。同サービスは株式会社Kids Publicが運営するオンライン相談サービスで,利用者はウェブサイトで事前に予約し,平日18時から22時にLINE(メッセージ,音声通話,ビデオ通話)または電話で,1回につき10分間小児科医と直接相談することができる。また,子どもの健康や子育てに関するメールマガジンも配信された。

評価は栄区の4か月時健康診査時に実施した。主要評価項目は児のAD有症率及び母の育児ストレスとした。ADの診断は,評価者(筆者,小児科専門医)が全研究参加者を直接診察し,U.K. Working Partyの診断基準に基づき行った。育児ストレスの評価にはParenting Stress Index- Short Form(以下,PSI-SF)を用いた。同時に,中長期的なメンタルヘルスの指標として精神的健康度についてGeneralHealthQuestionnaire-12(以下,GHQ-12)を用いて評価し,4点以上を不良とした。副次評価項目は児の遠城寺式乳幼児分析的発達検査表に基づく発達指数(Developmental Quotient,以下,DQ)及び母乳栄養の割合とした。

研究期間中に栄区に提出された出生連絡票は440組で,318組が研究用ウェブサイトにアクセスした。23組が除外基準に該当し,17組が本研究への参加を希望せず,278組(介入群140組,対照群138組)が研究に参加した。転居のため6組が,辞退希望のため5組が,健康診査延期のため2組が脱落し,最終的に265組(介入群138組,対照群127組)が解析対象となった。

研究参加者の特性は,児について(性別,出生体重,出生身長,新生児期の問題),母について(年齢,就労,入院歴または長期間の治療歴,現在の病気,出産回数,妊娠回数,切迫早流産,在胎期間,分娩方法,分娩場所),家族について(父の年齢,父の就労,喫煙者,ADの家族歴,気管支喘息の家族歴)のいずれの項目にも両群で有意差は認められなかった。

相談サービスは介入群の59名がのべ116回利用した。対照群の1名も個人で利用料金を負担し17回利用した。相談内容は皮膚に関する相談が最多だった。メールマガジンは介入群の全参加者138名と対照群の1名に対し全30回配信され,その内容は皮膚に関する内容が28回と最多で,開封率は30〜58%だった。

主要評価項目について,児のAD有症率は介入群が対照群と比較して有意に低かった(20%vs33%, P=.025; relative risk ratio, 0.614 [95% confidence interval [CI], 0.406 to 0.927])。母の育児ストレスは,PSI-SFの総点(difference[d]=1.954; 95% CI-0.346 to 4.254; P=.10),子どもの側面,親の側面,GHQ-12(33% vs 35%, P=.79; relative risk ratio, 0.941 [95%CI, 0.671 to 1.320])のいずれも両群で有意差を認めなかった

副次評価項目の児のDQと母乳栄養の割合はいずれについても両群で有意差を認めなかった。

本研究中,重要な害または意図しない効果は認められなかった。本研究は小児科医による遠隔健康医療相談とメールマガジンの複合サービスが生後4か月時の乳児のAD有症率を低下させることを示した初のランダム化比較試験である。AD有症率が低下した要因について考察すると,まず,最も多く相談された内容が皮膚に関する相談であることが考えられる。皮膚に関して相談した研究参加者は,相談時点で何らかの皮膚トラブルを抱えていた可能性がありAD発症のハイリスクではあるが,その一部が適切な指導や適切な受診勧奨により長引く湿疹とならなかった可能性がある。また,全30回配信されたメールマガジンで最多の28回皮膚に関して言及されたこともAD有症率低下の要因であったと考えられる。研究参加者がスキンケアの重要性を認知した,もしくは,その認知まではされなくとも,皮膚トラブル・湿疹に関する注意が喚起され行動が変容した可能性などが推察される。

本研究は国内一地域で出生した母子全員を対象として行われたため,母子を取りまく環境が類似した国内の他の地域で出生した母子に対しても概ね一般化可能であると考えられる。

本研究の限界としては,まず,脱落者が介入群2名,対照群11名と偏りが認められたことが挙げられるが,補完して検討を行った結果,その影響は限定的であったと考えられる。次に,介入群の方がADの家族歴のある研究参加者の割合が有意差はないもののやや低かったことが挙げられる。ADの家族歴の有無で行なったサブグループ解析では,ADの家族歴のないサブグループの方が介入によりAD有症率が低くなる傾向が認められ,全体としては介入の効果を過大評価している可能性がある。介入は採用したサービスの裁量に委ねられた点,実際の介入内容は相談利用とメールマガジン配信の複合であり個別の影響が不明である点,有症率の評価が単回で経過について不明である点,異なる地域や季節の場合の効果は不明である点なども限界として挙げられる。これらはさらに大規模な研究を実施することで解決できるものと考えられる。両群で有意差が認められなかった母の育児ストレスに関しては,研究参加者のベースライン評価ができなかったことが限界として挙げられる。ベースラインの精神状態に差があり,介入の効果を十分に検証できなかった可能性がある。そしてPSI—SFやGHQ-12は割付を知っている研究参加者自身による自己記入式の質問紙による評価であったことも限界として挙げられる。産後の育児ストレスを評価するための指標や方法についてさらなる知見の集積が望まれる。

今後の展望としては,遠隔健康医療相談をより長期間利用できるようにした場合の検証,周産期・小児期の切れ目のないサポートのために産前から産婦人科医や助産師とも連携した場合の検証,費用対効果分析を含めた経済分析による社会的な意義の検証などを行っていくことで,日本において周産期・小児期の遠隔医療がより確かなエビデンスに基づきながら普及していくことが期待される。

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