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HPLC-MS/MSを用いた特徴的な構造を有する脂質の吸収代謝の評価

高橋 巧 東北大学

2022.03.25

概要

脂質は生命活動にとって必須な分子の一つであり、化学構造の違いによってリン脂質や中性脂質等に分類される。ヒトは食事を介してこれらの脂質を摂取しており、その多様な機能性(例えば、生理活性物質やエネルギー源等としての働き)を日々享受している[1]。他方、脂質が機能性を発揮するためには腸管での吸収・代謝の過程が必須であり、この理解を深めることは、食事による健康保持・増進を図るうえで重要である。そこで本研究では、特徴的な機能性や構造を有する脂質の吸収代謝を評価し、その理解を深めることを目指した。

プラズマローゲン(Pls)は、グリセロール骨格の sn-1 位に脂肪族アルコールを、sn- 2 位に脂肪酸を有するリン脂質の一種である[2]。Pls は塩基構造の違いによりエタノールアミン型(PE-Pls)やコリン型(PC-Pls)に分類される(Fig. 1)。このうち PE-Pls は海産物中(貝類およびホヤ等)に多く含まれ[3]、その摂取は多様な疾病(アルツハイマー型認知症等[4])のリスクを低減させることから、PE-Pls の機能性(抗酸化作用等[5])について多くの関心が寄せられてきた。一方で、摂取した PE-Pls がその作用を発揮するまでに、どのように腸管から吸収され、どのような形態をとるかについては研究報告が少なく、未だ不明な点が多い。限られた報告の中で、2011 年および 2015 年に西向らは、ラットの胃に PE-Pls を投与すると、その後のリンパ液中には PE-Pls に加えて PC- Pls が含まれることや、それらの sn-2 位にはアラキドン酸(AA)が主に組み込まれていることを報告した[6, 7]。したがって、生体内での Pls の構造変換(PE-Pls から PC-Pls への塩基変換、sn-2 位への優先的な AA 再エステル化)の可能性が示唆された。他方、Plsの生理作用は構造によって異なる(例えば、PE-Pls はアルツハイマー型認知症に[4]、PC- Pls は動脈硬化症に関連する[8])と推察されており、このことを踏まえると、吸収過程における構造変換は、食事由来 Pls の生理作用を決定づける重要な機構であると考えられる。しかしながら、我々の知る限り、本現象を支持する報告は 2015 年以降無く、吸収過程のどこで Pls の構造変換が起こるか等の詳細は未解明である。したがって、Pls の機能性を最大限に活用するためにも、精密構造解析に基づいた更なる吸収代謝の評価が求められている。

トリアシルグリセロール(TG)は、グリセロール骨格に 3 つの脂肪酸がエステル結合した構造を示す中性脂質の一種である[1]。TG はその構造上、熱や光等による酸化を受け易く、過酸化脂質の一種である TG ヒドロペルオキシド(TGOOH)を生じる(Fig. 2)。食品に含まれる脂質の大部分は TG であるため[9]、ヒトは食事を通じて TGOOH を日常的に摂取していると考えられる。他方、生体において TGOOH のような過酸化脂質は、多様な疾病(心血管疾患等)の発症・進行に関わると推察されている[10]。これらのことから、食事として摂取した TGOOH が生体内でどのように吸収代謝されるかに関して理解が求められてきた。その中で、TGOOH の吸収代謝を調べた過去の報告はわずかに存在するものの、TGOOH は吸収の過程で分解・還元されるという学説と[11-13]、一部はそのまま吸収されるという学説があり[14, 15]、未だに統一した見解が得られていない。その理由の一つとして、従来の分析法(紫外[11]、化学発光[12]、シングル質量分析[13]および比色法[14, 15]等)では TGOOH を詳細に解析することが困難な点があげられる。したがって、TGOOH の精密分析に基づいた更なる吸収代謝の評価が求められている。

こうした状況の中、近年の分析技術の発達により、これまで困難とされた多くの化合物の精密分析が可能となり始めてきた。とくに我々は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とタンデム質量分析(MS/MS)を組み合わせた HPLC-MS/MS 法を用い、多様な脂質の分析に取り組んできた。その中で、Pls や TGOOH を HPLC-MS/MS で分析する際にナトリウムを添加することで、構造解析に有用であるフラグメントイオンが生じることを見出し、fmol レベルでの高感度・高選択的な分析を可能とした[16-18]。そのため、本法を活用することで、これまで評価が困難であった Pls や TGOOH の吸収代謝について、有益な知見が得られると考えた。

以上より、本研究では、ラットを用いた種々の吸収代謝試験を行い、回収した生体試料を HPLC-MS/MS により分析することで、Pls や TGOOH の吸収代謝の詳細を明らかにすることを目指した。

参考文献

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