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大学・研究所にある論文を検索できる 「沖縄産微細藻類 OPMS30543株の商業生産・事業化に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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沖縄産微細藻類 OPMS30543株の商業生産・事業化に関する研究

金本, 昭彦 カナモト, アキヒコ 神戸大学

2021.03.25

概要

(第 1 章 序論)
筆者が創業したオーピーバイオファクトリー株式会社(OP 社)では、海洋生物資源ライブラリーを構築・販売し、更に、ライブラリーを利用したシーズ探索サービスを提供している。生物資源を利用したビジネスのバリューチェーンを上流、中流、下流に分類する と、素材収集、ライブラリー構築、評価が上流にあたり、生産プロセス検討、原料生産が中流となり、商品企画、調達・製造、マーケティング・プロモーション、商品販売が下流と分類できる。OP 社の事業活動は上流に位置する。中流においては、①生産技術の不足や②生産性の低さから、そこがギャップとなり、物量が確保できず発見された有用シーズの開発が進まないことがしばしば発生する。よって、①および②の問題を解決してバリューチェーンを繋げることが OP 社の今後の事業成長にとって非常に重要な課題であると考えている。そこで、本研究では、これまで生産技術の不足で商業活用できなかった OPMS30543 株(パブロバ)を近年技術革新が著しいフォトバイオリアクター(PBR)を用いて生産、事業化することで、上述の「①生産技術の不足による問題」の解決例として示 し、また、もう一つの問題である「②生産性の低さによる問題」については、近年劇的に技術が進歩している合成生物学的手法をアライアンスによって活用することによる問題解決を実現したいと考えている。この 2 つの問題を解決することによりバリューチェーンをスムーズに繋ぐことができれば、OP 社が保有する多様な未利用生物資源の活用促進につながり、バイオ関連の「ものづくり」に大きく貢献できると考えている。これが、筆者が考えるイノベーション・アイデアである。

(第 2 章 先端研究)
パブロバは、フコキサンチン高生産株として発見された株である。ただ、有望な株であるにも関わらず、コンタミに非常に弱い株で、大量培養が出来ず、研究開発が止まっていた。しかし、PBR を活用することにより大量培養が可能になると考えられたので、基礎培養条件を検討するとともに、ラボスケールにて PBR を用いた培養検討を行なった。

最初に同属別種 2 株と比較したところ、フコキサンチン生産量が有意に高く、フコキサンチン生産株として有望であることが確認された。次に複数種の培地を用いて最適培地を検討したところ、IMK 培地が最適であることが分かった。また、窒素源としては NaNO3 が最適であることが分かった。海水濃度は 25 %-100 %で生育が可能であったが、中でも 50 %濃度が最適であることが確認できた。炭素源は、グルコース、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムを添加すると、バイオマス量が増加することが確認できた。また、グルコース、メタノール、酢酸ナトリウムを添加するとフコキサンチン量が増加することが分かった。

ラボスケールでの培養器の検討においては、アクリルパイプ PBR を用いた場合に、コンタミネーションも無く、オープンタンクよりも多くのバイオマス量が確認され、約 7 倍の差が確認できた。また、一般的な水産餌量生産現場における P.lutheri のオープンタンク培養時のバイオマス量に比較して、外径 60 mm アクリルパイプ PBR 培養におけるパブロバのバイオマス量は約 5.7 倍であることが確認された。また、安定的に培養できることも確認された。よって、結論としてパブロバの生産にはチューブ型の PBR が向いていると判断された。

(第 3 章 技術戦略)
生産スケールの PBR の検討を行なった結果、横型のガラスチューブ製 PBR が適していると判断された。PBR 供給業者としては、英国の Varicon Aqua 社が適していると判断し、沖縄仕様で設計を行ない、2018 年 11 月に培養水量 1,100 L タイプ 2 基、2019 年 2 月に培養水量 7,000 L タイプ 2 基が完成した。その後約 1 年をかけて、計 11 回の培養試験を行った。その結果、夏季のバイオマス生産量は 0.98 g-DCW/L/Day、冬季は 0.80 g- DCW/L/Day という結果が得られた。藻体回収以降の生産フローを構築し、健康補助食品の原料試作を行なった。最終的には、濃縮物凍結品、乾燥パウダー、そしてパウダーをオイルに浸漬してビタミン E を添加した原料の 3 種類が完成した。有効成分であるフコキサンチンは非常に酸化しやすく、常温下での劣化が激しいが、オイルに浸漬することによって酸化を防止ことができ常温保管が可能となった。

パブロバは、かつてのユーグレナと同じく、新規素材で食経験が無いため、安全性試験も行なった。その結果、すべての項目で規制値以下であることが確認され、健康補助食品としての利用が可能であると判断された。

(第 4 章 事業戦略)
健康補助食品業界の外部環境を PEST 分析および 5 フォース分析により分析を行なった。 PEST 分析の結果、健康補助食品としての事業化には追い風状態であると考えられた。次 に、5 フォース分析の結果、OP 社は上流に主軸を置いたポジショニングをとることにより競争優位性を保つことが可能になると考えられた。

内部環境分析については VRIO 分析により分析を行なった結果、OP 社の既存事業およびパブロバ事業ともに企業内部の経営資源に基づく競争優位性は高いと判断された。

実際のパブロバの事業化については、オイル浸漬品を用いたソフトカプセルタイプで販売開始することにした。COVID-19 流行による巣篭もり肥満の解消と健康維持に着目し、フコキサンチン訴求型でダイエットサポートサプリとしての商品設計とした。フコキサンチンについては 1 日当たり 2.4 mg の摂取で、体重減少効果が報告されているので、1 日当たりのフコキサンチン摂取量を 2.4 mg 以上になるようにパブロバの導入量を調製した。商品名はパブロバ・エクササイズ・プラスとした。今回は健康補助食品としての販売であ り、機能性を謳うことができないので、機能とは関係しない成分特性や開発元である OP 社の研究開発能力、沖縄、海といった背景を元に世界観を醸成し、ストーリー性をもって一般消費者をファンとして取り込んでいく販売戦略とした。これはユーグレナが販売初期に取った戦略に近いと考えている。

(第 5 章 知財戦略)
パブロバの開発成果を OP 全社へのプロモーションに活用することを踏まえた特許・意匠・商標戦略を検討した。

OP 社の事業においては、既存事業はバリューチェーンの上流に位置し、パブロバ事業は中流から下流に位置している。特許出願は、パブロバ株の微生物特許およびパブロバの製造法について出願したが、この 2 つは既存事業の開発能力をプロモーションする位置付けとした。なお、パブロバの製造法については、クロロフィラーゼを失活させ、フェオフォルバイドの生成を抑える方法に関する特許で、これはパブロバ藻体を食品として活用する場合必ず通る工程であり、パブロバ事業において最も重要な特許となる。
シード作製用の PBR は筆者が設計・自作した。本技術については、特許出願の要件は満たさないため、意匠出願として、当社の事業に関連する技術アピール用という位置付けとした。

最後に商標については、OP 全体のブランディング、プロモーションにも関わるので、一目で OP 社の製品であることが分かるようなデザインとした。当社の知名度を向上させるために、原料として使ってもらう顧客(企業)には、最終商品に登録した商標を掲載してもらうべく交渉してゆく予定である。

(第 6 章 財務戦略)
パブロバ ・エクササイズ・プラスの原価は、ボトル1本あたり 3,800 円と算出された。定価は原価率 25 %である 15,200 円とした。損益計画を検討したところ、定価販売においては十分収益が確保できる計画となった。しかし、実際の販売局面ではキャンペーン等を活用して販売促進を行うことになるので、現実的には原価率 60 %の 6,300 円〜原価率 40 %の 9,500 円程度の価格で販売することになると考えている。次に、パブロバ事業を企業が買収して、更に生産スケールを 200 トンに向上させて事業を行なったと仮定した場合の事業シミュレーションを行なった。その結果、販売単価 6,300 円とした場合の ROI(投資収益率)は 49 %となり、投資効果が高い事業であると判断された。

次にモデルケースとしてパブロバの開発例を参考に設定した事業の財務計画を立案し た。パブロバの開発においては、シーズ発見後、4 年で商品販売開始まで完了した。よって、4 年を一周期として、開発〜導出スケジュールを設定した。この前提で 20 年事業を継続した場合の損益計画、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書を立案し、更に DCF 法を用いて 20 年目までの事業価値を求めた。その結果、株主資本価値は 7 億 8,250 万円となり、本事業を行う価値は十分にあると考えられた。

パブロバ 事業については、サプリタイプ健康補助食品におけるの実績に基づいて評価したが、現在化粧品原料などの高付加価値品の開発を製薬会社 A 社と共同で実施中である。化粧品原料の開発完了後に価値評価を行った場合、評価額は更に上振れしていくことが予想される。今後、価値評価を行うにあたり十分なデータが得られたところで改めて企業(事業)価値評価を行いたいと考えている。

最後に、考案したイノベーションアイデアについて考察したい。生産技術の不足によるギャップについてはパブロバの事業化の例で解決策を見出したが、バリューチェーン上には生産性の低さが問題となるもう一つの大きなギャップが存在する。これについては神戸大学発ベンチャーのバッカス社と連携して合成生物学的手法を用いて生産性の改善を行うことことによりそのギャップを埋めることができる可能性が向上すると考えている。現在バッカス者との連携方法については検討中である。さらに、下流に強い企業と予めアライアンスを結んでおくことでニーズに沿った開発が可能となり、持続可能で強固なビジネスモデルの構築が完成すると考えている。本研究におけるイノベーション・アイデアで実現するのがこのビジネスモデルとなる。

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参考文献

1)AnalytiCon Discovery press release https://ac-discovery.com/wp-content/uploads/PI_BRAIN_ACD_030714_e.pdf

2)特集 カロテノイド 健康産業新聞 第 1210 号(2007)

3)A. Fleming (1929) On the antibacterial action of cultures of a penicillium, with special reference to their use in the isolation of B. influenzae. Br J Exp Pathol, 10, 226-236

4)David J. Newman,Gordon M. Cragg (2016) Natural Products as Sources of New Drugs from 1981 to 2014.J. Nat. Prod. 79, 3, 629–661

5)Yu MJ, Kishi Y, Littlefield BA (2011) Discovery of E7389, a fully synthetic macrocyclic ketone analogue of halichondrin B. Anticancer Agents from Natural Products, Second Edition, 317-346

6)味の素株式会社 Web ページ うま味発見から商品化への軌跡-池田菊苗物語https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/features/fact/008.html

7)奇才が引き出す技術力 “夢の糖”トレハロース《戦うNo.1技術》東洋経済オンライン(2011)https://toyokeizai.net/articles/-/4362

8)foodnavigator-usa(2018) https://www.foodnavigator-usa.com/#

9)株式会社ユーグレナ IR ライブラリー https://www.euglena.jp/ir/library/

10)株式会社シェアードリサーチ リサーチレポート https://sharedresearch.jp/ja/2931

11)事業構想大学院大学(2018)「事業構想」2 月号 https://www.projectdesign.jp/201802/media-strategy/004538.php

12)NEDO「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発プロジェクトキックオフシンポジウム」蓮沼教授プレゼン資料

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