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大学・研究所にある論文を検索できる 「Simulation training is useful for shortening the decision-to-delivery interval in cases of emergent cesarean section」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Simulation training is useful for shortening the decision-to-delivery interval in cases of emergent cesarean section

飯谷, 友佳子 名古屋大学

2021.10.26

概要

【緒言】
母体や胎児に緊急事態が発生した場合には、速やかに分娩を実施する必要がある。日本やアメリカ、イギリスなどでは、三次医療機関で緊急帝王切開を行う場合、分娩決定から娩出までの時間(DDI : decision-to-delivery interval)を30分以内にすることが推奨されている。しかし、DDIの短縮は多くの病院で課題となっている。帝王切開を開始するためには、手術室への移動、尿道カテーテルの留置などの手術前処置、母体の十分な麻酔など、多くの手順が必要になる。近年、医療従事者間のコミュニケーション能力がDDIに影響を与えることが報告されており、シミュレーション教育により、スタッフ間のコミュニケーション能力を向上させることができれば、DDIを短縮することができると考えられている。
我々は、母体および胎児の予後を改善することを目的に、2014年3月から、DDIを短縮するためのシミュレーション教育を導入し、定期的に繰り返している。本研究では、シミュレーション教育がDDIに与える影響と、母体および新生児の予後に与える影響を検討した。

【対象及び方法】
2011年11月から2016年8月の間に、名古屋大学医学部附属病院で超緊急帝王切開術を受けた患者全例(50名)を対象とした。2014年3月に関連部署のスタッフが参加する第1回シミュレーション教育を実施したため、2011年11月から2014年3月をシミュレーション前群(15名)、2014年4月から2016年8月までをシミュレーション後群(35名)とした。母体および新生児の臨床的背景と、超緊急帝王切開決定から娩出までに要した時間、母体の術中・術後合併症を、患者の病歴から抽出した。本研究では、患者を「可逆的な症例」と「不可逆的な症例」の2群に分けた。「可逆的な症例」とは、超緊急帝王切開を必要とした理由が、臍帯圧迫などの可逆的なものと定義した。「不可逆な症例」は、胎盤剥離、子宮破裂、臍帯潰瘍(胎児貧血)など、進行性のものと定義した。

【結果】
患者の臨床的背景を表1に示した。母体および新生児の背景、超緊急帝王切開を必要とした理由について、両群間で差は認めなかった。
DDIを表2に示した。DDIはシミュレーション後群で有意に短縮した(15.9分vs.22.7分、p=0.009)。シミュレーション後の82.9%(29/35)の症例で、DDIは20分以内であった。DDIを、超緊急帝王切開決定から手術室入室時間、手術室入室から執刀開始時間、執刀開始から娩出時間に分類すると、決定から手術室に入室するまでの時間が、シミュレーション後群で有意に短縮した(6.7分vs.10.9分、p=0.003)。
臍帯動脈の血液ガスデータを図1に示した。臍帯動脈血pHは、シミュレーション後群で有意に良好であった(7.27vs.7.15;p=0.019)。患者を「可逆的な症例」と「不可逆的な症例」に大別したところ、「不可逆的な症例」の場合のみ、シミュレーション教育によって臍帯動脈血pHが有意に改善した(7.27vs.7.08;p=0.012)。母体の術中・術後合併症を表3に示した。手術時間、出血量、輸血率、帝王切開後1日目の採血データ、術後合併症は、シミュレーション前後で差を認めなかった。

【考察】
本研究は、超緊急帝王切開におけるシミュレーション教育が、DDIの短縮や臍帯動脈血pHの改善をもたらし、母児に有益な効果があることを明らかにした。しかし、30分以内に娩出すれば必ずしも新生児の予後が保証されるものではなく、スタンダードなDDIは存在しない。だが、母児に緊急事態が発生した場合、より短いDDIが望ましいことは疑いがなく、DDIを短くするための努力が重要であることを本研究では強調した。
本研究の結果より、DDIを短縮するためには、手術室への入室までの時間を短縮することが最も重要であると考えられた。そのため、患者を手術室に搬送するための最短ルートを特定することが重要である。最適な搬送ルートを定めて、シミュレーション教育を繰り返し行った結果、エレベーターのボタンを素早く押すことがDDI短縮に重要な動作であることもわかった。これは今回の研究で、新しく、ユニークな点である。
臍帯動脈血pHは、「不可逆的な症例」において、シミュレーション教育により有意に改善したが、「可逆的な症例」では改善を認めなかった。胎児心音異常をきたす原因の中で、臍帯圧迫や過強陣痛など、一過性の現象で可逆的と考えられるものについては、娩出を遅らせることができた可能性がある。一方、胎盤剥離、子宮破裂、臍帯潰瘍による胎児出血などの「不可逆的な症例」では、DDIの延長は新生児の転帰の悪化に直結するため、DDIを短縮するシミュレーション教育が新生児の転帰の改善に寄与したと考えられた。
シミュレーション教育によりDDIが短縮したが、母体の転帰に差を認めなかった。超緊急帝王切開を行う際には、引き続き母体の合併症に注意を払う必要がある。
本研究には以下の四点の限界がある。第一に、本研究は後方視的観察研究である。第二に、母体の麻酔方法がDDIに大きく影響する。本研究では、両群ともに全例、全身麻酔で超緊急帝王切開を施行したが、肥満や高血圧症の母体にとっては、全身麻酔が母体合併症の増加に繋がるリスクがある。そのため、各病院の産科医と麻酔科医が麻酔方法について話し合うことが重要である。本研究では、全身麻酔に関連した母体の合併症は認めなかったが、今後の研究が必要である。第三に、新生児の罹患率や死亡率を予測するDDIのカットオフ値を特定することができていない。第四に、超緊急帝王切開を決定するタイミングは、医師の判断によるため不確実性があり、同じ異常事態でも、同じタイミングで超緊急帝王切開を決定できていない点が挙げられる。

【結論】
シミュレーション教育を導入することで、DDIを大幅に短縮することが可能であった。また、「不可逆的な症例」において、母体の有害事象を増加させることなく、臍帯動脈血pHに対して有益な効果があることが示唆された。

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