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大学・研究所にある論文を検索できる 「各種加水分解酵素活性の検出に基づくがん蛍光イメージングプローブの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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各種加水分解酵素活性の検出に基づくがん蛍光イメージングプローブの開発

山本, 恭子 東京大学 DOI:10.15083/0002002353

2021.10.13

概要

臨床において利用されている様々ながんイメージング技術のうち、蛍光を利用した手法は特定の環境下でプローブのシグナル特性を変化させる activatable 化が可能という特徴がある。Activatable 型のプローブを利用することにより、常にシグナルを発している Always-on 型のプローブと比べ、より高いT/B (tumor-to-background)比でのイメージングが実現できると期待される。

本論文では、がん細胞に発現する様々な加水分解酵素を蛍光活性化の標的として利用したがん蛍光イメージングプローブの開発を行った。具体的には、第一章にて臨床におけるがんイメージング技術について概説し、第二章では糖タンパク質によるがんターゲティング技術とリソソーム内のアミノペプチダーゼ・グリコシダーゼ活性検出蛍光プローブを組み合わせたアビジン-蛍光プローブ複合体の開発について、第三章では prostate specific membrane antigen (PSMA)のグルタミン酸カルボキシペプチダーゼ活性を標的とした細胞膜透過性蛍光プローブの開発について、それぞれ検討を行った。

1. リソソーム内の加水分解酵素活性を標的としたアビジン-蛍光プローブ複合体の開発
高い感度と特異性をもってがんをイメージングするための手法として、がん部位への集積性をもつ大分子 (抗体、糖タンパク質、ポリマーなど)に小分子の蛍光色素や消光剤をラベル化した複合体を利用する方法がある。当研究室の浅沼らはこの手法を利用し、リソソーム内の酸性pH を検出する蛍光プローブを抗 HER2 抗体にラベル化したHerceptin- DiEtNBDP を開発し、担がんモデルマウスを用いた HER2 発現がんのイメージングに成功した。Hereptin-DiEtNBDP はがん抗体による高い特異性を持つ一方で、リソソーム内の pH5-6 程度の酸性条件では蛍光活性化が不十分であり、シグナル強度や activation 効率の面で改善の余地を残している。そこで、本研究ではリソソーム内のプロテアーゼ・グリコシダーゼ活性に着目し、その活性を検出して不可逆的に蛍光活性化されるプローブを利用することで、シグナル強度の改善を試みた。当研究室で開発された Hydroxymethyl Rhodamine Green (HMRG)を骨格とするアミノペプチダーゼ・グリコシダーゼ活性検出蛍光プローブは、分子内スピロ環化平衡を蛍光制御原理としており、生理条件下では無 色・無蛍光性だが標的酵素との反応により不可逆的に蛍光性を示す構造へと変換される。 HMRG を骨格とするプローブを、ガレクチン発現がん細胞に選択的に取り込まれること が知られているアビジンにラベル化した複合体 (Avidin-Probe 複合体)を作製し、そのがんイメージングプローブとしての有用性を評価した。

リソソーム内の標的酵素としてロイシンアミノペプチダーゼ (LAP)と酸性β-ガラクトシダーゼを選択し、その活性を検出するLeu-HMRG 及び βGal-HMRG をアビジンにラベル化したAvidin-Leu-HMRG, Avidin-βGal-HMRG を作製した。ラベル化には、プローブに導入したアジド基と 8 員環アルキンによるCu-free click chemistry を利用した。Avidin- Leu-HMRG, Avidin-βGal-HMRG の吸光度変化から算出した、分子内スピロ環化の平衡定数 (pKcycl)は 4 程度となり、がんイメージングに適した値を示した。また、Avidin-Leu- HMRG, Avidin-βGal-HMRG はマウスの血清や腹水中で蛍光上昇を示さず、安定であることが明らかとなった。

次に、Avidin-Probe 複合体を用いてガレクチン発現細胞であるSHIN3 細胞の生細胞イメージングを行った。比較対象として、Always-on 型プローブであるAvidin-HMRG 及 び、既存のpH-activatable 型プローブであるAvidin-DiEtNBDP を用いた。プローブ添加から 5 時間後における細胞内外の蛍光強度を測定したところ、Avidin-Leu-HMRG は細胞外の蛍光が低く抑えられていた一方で、リソソームから強い蛍光を発し、他のプローブと比べて高い S/N (signal-to-noise)比を示した。

続いて、SHIN3 細胞を腹膜播種した担がんモデルマウスにAvidin-Probe 複合体を投与し、1 時間後に ex vivo イメージングを行った。Avidin-HMRG やAvidin-DiEtNBDP を用いた場合にはがん部位の同定が不可能であったが、Avidin-Leu-HMRG を用いた場合はがん部位からのみ強い蛍光が観測され、がん部位選択的な蛍光イメージングに成功した。

2. PSMA のグルタミン酸カルボキシペプチダーゼ活性を標的とした前立腺がん蛍光イメージングプローブの開発
PSMA は、ペプチドC 末端のグルタミン酸を加水分解するグルタミン酸カルボキシペプチダーゼであり、前立腺がん細胞や乳がん、脳腫瘍などの新生血管において高発現していることが知られている。特に前立腺がんにおいては、PSMA の発現量と悪性度や予後との間に相関があるとされており、診断や治療の標的分子として注目を集めている。当研究室の河谷らは、PSMA がアゾホルミル基を介してベンゼン環に導入したグルタミン酸を切断することを見出し、この加水分解反応を利用した世界初のPSMA 活性検出蛍光プローブ 5GluAF-Fluorescein を開発した。5GluAF-Fluorescein はd-PeT (donor-excited PeT)により消光しているが、PSMA によってグルタミン酸が切断されると、続いて脱炭酸・脱窒素反応が起こり、強蛍光性のフルオレセインが放出される。河谷らは 5GluAF-Fluoresceinを用いてPSMA 発現細胞の検出に成功しているが、フルオレセインの高い水溶性のために細胞内を蛍光染色することは難しかった。しかし、がん部位のイメージングを目的とした場合は、酵素反応によって生じた蛍光色素ががん細胞内に取り込まれ、がん部位を染色できることが望ましく、本研究では色素骨格をより脂溶性の高い構造へ変換することで細胞膜透過型のPSMA 活性検出プローブの開発を目指した。

より脂溶性の高い構造として、色素骨格を HMRG, 2Me-TokyoGreen (2MeTG), Fluorescein methyl ester (FM)に変換した 5GluAF-HMRG, 5GluAF-2MeTG, 5GluAF- FM を合成し、蛍光量子収率を測定したところ、全てのプローブがd-PeT により消光していた。次に、精製PSMA 酵素や前立腺がん由来培養細胞から作製したライセートとの反応性について検討を行い、5GluAF-HMRG については PSMA との反応が非常に遅いことから PSMA プローブとして不適切と判断した。

続いて前立腺がん細胞のイメージングを行った。5GluAF-Fluorescein と 5GluAF- 2MeTG は PSMA 高発現の LNCaP 細胞とのみ反応し蛍光上昇を示し、PSMA 阻害剤の添加により蛍光上昇は抑制された。5GluAF-Fluorescein は細胞外で蛍光上昇を示したのに対し、5GluAF-2MeTG は細胞内で顕著な蛍光上昇を示し、色素骨格の変換により膜透過性の向上が認められた。一方で 5GluAF-FM は、培養細胞とはほとんど反応せず、LC- MS による細胞外液の分析からアゾホルミル基がヒドラジド構造に還元された 5GluHD- FM が検出されたことから、生細胞のPSMA 活性を検出する用途に適さないと判断された。

以上の検討で最も優れた性質を示した 5GluAF-2MeTG を用いて、前立腺がん手術検体のイメージングを行った。さらに病理組織染色やPSMA 免疫染色を行い、イメージング実験の結果とがん部位の有無やPSMA 発現を照らし合わせたところ、概ねがん部位を含みかつ PSMA 発現の強い場所が蛍光を示しており、5GluAF-2MeTG を前立腺がんイメージングプローブとして利用できる可能性が示唆された。

3. 結語
本研究において、蛍光活性化の標的として① リソソーム内のアミノペプチダーゼ・グリコシダーゼ活性及び、② PSMA のグルタミン酸カルボキシペプチダーゼ活性を利用する 2 種類のがんイメージングプローブの開発を行った。① リソソーム内の加水分解酵素活性を利用したプローブ開発においては、開発したAvidin-Leu-HMRG を用いてがん部位選択的な蛍光イメージングを行い、既存のpH-activatable 型プローブに比べ、高い T/B 比かつ短いタイムスケールでのイメージングに成功した。② PSMA 活性を利用したプローブ開発においては、既存の 5GluAF-Fluorescein の色素骨格を様々な脂溶性色素に変更した誘導体を合成した。精製酵素や前立腺がん由来培養細胞を用いた検討を行い、最も優れた性質を示した 5GluAF-2MeTG を用いて、ヒト前立腺がん手術検体のイメージング及び病理組織染色を行ったところ、蛍光を示した部位とPSMA を発現するがん部位は概ね一致し、PSMA 活性を指標として臨床検体内の前立腺がん部位を蛍光可視化することに、世界で初めて成功した。