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大学・研究所にある論文を検索できる 「細胞内滞留型in vivoがん蛍光イメージングプローブの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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細胞内滞留型in vivoがん蛍光イメージングプローブの開発

小原, 塁 東京大学 DOI:10.15083/0002004987

2022.06.22

概要

【背景】
γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)は多くのがん種において発現の亢進が認められる酵素であり、当研究室ではこれまでにGGTを標的とした蛍光プローブgGlu-HMRGを開発した。gGlu-HMRGは生理的条件下で無色・無蛍光性であるが、GGTとの酵素反応により強蛍光性のHMRGへと変換され、1mm以下の微小がんを数分以内で検出することが可能である。一方で、HMRGは細胞内滞留性が低く、洗浄操作や固定操作、さらに1細胞レベルでの酵素活性検出には適していないことが予想された。

一方当研究室では、キノンメチド化学を分子設計に取り入れることで、細胞内滞留型βgalactosidase活性検出蛍光プローブSPiDER-βGalを開発してきた。SPiDER-βGalは、β-galactosidaseによって加水分解を受けるとキノンメチド活性中間体を産生し、それが細胞内タンパク質などの求核種と共有結合を形成することによって、細胞内滞留性を獲得する。

そこで本論文では、SPiDER-βGalの細胞内滞留性獲得機構を分子設計に取り入れることで、細胞内滞留型GGT活性検出蛍光プローブ4-CH2F-HMDiEtR-gGlu及び4-CH2FHMDER-OBn-gGluを新たに設計・開発した。

【4-CH2F-HMDiEtR-gGluの開発(第二章)】
本章では、蛍光制御原理として分子内スピロ環化平衡を、細胞内滞留性獲得原理としてアザキノンメチド化学を用いた4-CH2F-HMDiEtR-gGluを設計した。具体的には、蛍光母核として分子内スピロ環化平衡を示すHMDiEtRを選定し、キサンテン環4位に脱離基としてfluoromethyl基を、酵素基質部位として-glutamyl基を導入した。4-CH2FHMDiEtR-gGluは、GGTとの反応に伴い自発的にフッ素基が脱離して活性の高いアザキノンメチド中間体を生成し、それが細胞内成分から求核付加攻撃を受けることで、細胞内滞留性を獲得すると予想した。

4-CH2F-HMDiEtR-gGluの光学特性・GGTとの反応性の評価したところ、生理的条件下において無蛍光性であるが、GGTとの反応により蛍光強度が増大することを確認した。また、SDS-PAGE解析の結果から、モデルとしてBSAを共存させることで、BSAにラベル化されることが示された。これらの結果から、4-CH2F-HMDiEtR-gGluはGGTと反応後にアザキノンメチド中間体を経てタンパク質などの求核分子と結合することが明らかになった。

次に、ヒト卵巣がん細胞であるSHIN3細胞を用いて細胞内滞留性の評価を行った。gGlu-HMRGを添加した細胞では、洗浄・固定操作することで細胞内の蛍光シグナルが低下したのに対し、4-CH2F-HMDiEtR-gGluを添加した細胞では固定操作後も細胞内に蛍光シグナルが強く保持されていた。しかしながら、GGT発現が低いSKOV3細胞に適用した場合にも、僅かに蛍光シグナルが検出された。次に、SHIN3細胞とSKOV3細胞をculture-insertを用いて共培養した系に適用したところ、SKOV3細胞でわずかに蛍光シグナルが検出されるものの、SHIN3細胞の方が蛍光シグナルが大きく、両細胞を識別することが可能であった。一方でgGlu-HMRGを用いた場合には両細胞共に同程度の蛍光シグナルが検出され、識別することが困難であった。

次に、スフェロイドを用いた評価を行った。その結果、SHIN3細胞スフェロイドに適用した場合には蛍光シグナルが検出されたが、SKOV3細胞のスフェロイドに適用した場合には蛍光シグナルが検出されず、GGT活性を反映した蛍光シグナルを示すことが明らかとなった。さらに、固定操作後における蛍光シグナルの強度を評価したところ、gGluHMRGでは蛍光シグナルが減弱したのに対して、4-CH2F-HMDiEtR-gGluでは固定操作前と同程度の蛍光シグナルが保持されることが示された。

続いて卵巣がん腹膜播種モデルマウスを用いてinvivoにおける滞留性の評価を行った。gGlu-HMRG,4-CH2F-HMDiEtR-gGluを腹腔内投与した後、開腹して腸間膜を取り出して蛍光イメージングを行った。両プローブ共に固定前はがん選択的な蛍光シグナルを示したが、ホルマリン固定を施すとgGlu-HMRGでは蛍光シグナルが消失するのに対して、4-CH2F-HMDiEtR-gGluでは保持されることが明らかとなった。

以上の結果より、4-CH2F-HMDiEtR-gGluはgGlu-HMRGよりも細胞内滞留性が高い蛍光プローブであることが明らかとなった。一方で、4-CH2F-HMDiEtR-gGluはGGTとの酵素反応速度が遅いこと、タンパク質へのラベル化率が低いこと、さらにGGT発現の低い細胞でも僅かに蛍光シグナルが検出されることが明らかになった。そこで、次章ではこれらの課題を克服した改良型の細胞内滞留型GGT活性検出蛍光プローブの開発を行った。

【4-CH2F-HMDER-OBn-gGluの開発(第三章)】
第二章の結果を受けて、新たな細胞内滞留型GGT活性検出蛍光プローブの開発を行った。まず、4-CH2F-HMDiEtR-gGluのGGTとの酵素反応が遅い理由として、脱離基として導入したfluoromethyl基が立体的障害となっている可能性を考え、またタンパク質へのラベル化率が低い理由として、酵素反応後に産生するアザキノンメチド中間体の反応性が高くタンパク質にラベル化されるよりも前に水分子と反応する可能性を考えた。そこで、基質であるγ-glutamyl基と蛍光団の間を自己分解性のリンカーで架橋して脱離基との距離を離し、活性中間体としてより安定に存在するキノンメチド中間体を生成する分子を設計した。具体的には、SPiDER-βGalの母核であるHMDERを基本骨格として、ベンジルリンカーを介してγ-glutamyl基を導入した4-CH2F-HMDER-OBn-gGluを設計した。4-CH2F-HMDER-OBn-gGluの光学特性を評価したところ、生理的条件下においては無色・無蛍光性であるのに対し、GGTの添加により蛍光強度が増大した。酵素反応速度は4-CH2F-HMDiEtR-gGluよりも速く、基質部位と蛍光団の距離を離すことにより、酵素反応速度が改善されたことを確認した。

さらに、酵素反応液のUPLC-MS解析を行った結果、求核種として用いたシステインが付加した分子量のピークが、H2O付加体のピークよりも多く検出された。4-CH2FHMDiEtR-gGluでは、H2O付加体の方がシステイン付加体よりも存在量が多かったことから、4-CH2F-HMDER-OBn-gGluの方が求核種と反応しやすいことが示唆された。

続いて4-CH2F-HMDER-OBn-gGluをSHIN3細胞、SKOV3細胞に適用した結果、SHIN3細胞において蛍光シグナルの活性化が見られ、GGT阻害添加した場合やSKOV3細胞では蛍光シグナルが検出されなかった。さらに、SHIN3細胞とSKOV3細胞をculture-insertを用いずに混合して共培養した系に適用した場合にも、SHIN3細胞を1細胞レベルで検出することが可能であった。これは、タンパク質へのラベル化が改善された結果、蛍光性生成物が細胞外へ漏出せず、細胞内に滞留したためであると考えられる。

スフェロイドを用いた実験及び卵巣がん腹膜播種モデルマウスを用いた実験では、4-CH2F-HMDiEtR-gGluと同様の結果が得られ、4-CH2F-HMDER-OBn-gGluは高い細胞内滞留性を示すことを確認した。

以上の結果より、4-CH2F-HMDER-OBn-gGluは4-CH2F-HMDiEtR-gGluと比べて速い酵素反応速度を示し、非特異的なバックグラウンド蛍光を示さずGGT活性に応じた蛍光シグナルを示すことが明らかになった。また、4-CH2F-HMDER-OBn-gGluを用いることより、初めて1細胞レベルでのGGT活性の蛍光検出に成功した。

【結論と今後の展望】
本研究では、新規細胞内滞留型GGT活性検出蛍光プローブ4-CH2F-HMDiEtR-gGlu及び4-CH2F-HMDER-OBn-gGluを開発し、両プローブ共に従来型プローブgGlu-HMRGよりも高い細胞内滞留性を有することを示した。卵巣がん腹膜播種モデルマウスを用いたinvivoイメージングでは、組織固定によりgGlu-HMRGによる蛍光シグナルは消失するのに対し、開発した2つの蛍光プローブでは蛍光シグナルが保持されたことを示した。さらに、4-CH2F-HMDER-OBn-gGluを用いることで1細胞レベルでのGGT活性検出にも成功した。

今後の展望として、GGT以外の様々なペプチダーゼを標的とした細胞内滞留型ペプチダーゼ蛍光プローブの開発が考えられ、様々な病態の解析に貢献できる可能性があると考えている。さらに、4-CH2F-HMDER-OBn-gGluを用いることで1細胞レベルでの酵素活性検出を達成できたことから、今後Circulating Tumor Cells(CTCs)などの検出にも応用できるか検討していきたい。

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