Ligand Design and Exploration of Electronic Properties Based on Dinuclear Platinum Complexes
概要
学位論文の要約
題目
Ligand Design and Exploration of Electronic Properties Based on Dinuclear Platinum
Complexes
(白金二核錯体を基盤とした配位子設計と電子物性の探索)
氏名
森山隼人
序論
金属錯体は中心の金属イオンとそれを取り囲む配位子からなり、構成要素の置換による
高い設計性が特徴の一つに挙げられる。適切な配位子設計により、様々な次元性、構造、
置換基による機能化を実現することが可能となる。ジチオカルボン酸は、遷移金属錯体、
特に高電導性混合原子価一次元鎖状化合物である一次元ハロゲン架橋複核金属錯体
(MMX-chain)の構成要素である白金二核(Pt ダイマー)錯体の配位子として利用されてきた。
置換基を導入したジチオカルボン酸配位子を用いることで、Pt ダイマー錯体間に置換基由
来の相互作用が生じ、新規の構造や電子物性の発現が期待される。しかしながら、そのよ
うな Pt ダイマー錯体の報告例はない。本研究では、(1)置換基を有するジチオカルボン酸の
合理的な合成法の開発、(2)ジチオカルボン酸配位子に置換基を有する Pt ダイマー錯体の合
成、(3)MMX-chain の電子物性に対する配位子効果の検討を目的とした。
異なる配位能を有するジチオカルボン酸の合成
末端にメチルエステル基やカルボキシ基を有するジチオカルボン酸の合理的な合成法を
初めて開発した。Lawesson 試薬のエステルおよびチオエステルに対する反応性の違いを利
用することで、末端メチルエステル基を有するチオエステルから、対応するジチオエステ
ルが得られ、その後の加水分解により目的のジチオカルボン酸が得られる。このような配
位能の異なる置換基をジチオカルボン酸に導入することで、異なる金属イオンへの選択的
な配位が可能となり、高次の構造を有する金属錯体の実現が期待される。
官能基化されたジチオカルボン酸配位子を有する白金二核錯体の合成
溶媒熱合成法や電解合成法を用いることで、シアノ基が付与されたジチオカルボン酸配
位子を有する Pt ダイマー錯体を初めて合成し、単結晶 X 線構造解析からその構造を明らか
にした。Raman および電子吸収スペクトル測定から、Pt ダイマー構造に由来する特徴的な
振動モードおよび電子吸収帯を観測し、密度汎関数法を用いた理論計算からも確認した。
導入された置換基は新たな分子間相互作用を生み出し、結晶構造の構築に大きく寄与して
いることが明らかとなった。
一次元ハロゲン架橋複核金属錯体(MMX-chain)の電子物性に対する配位子効果
末端メチルエステル基が付与された嵩高いジチオカルボン酸配位子を有する MMX-chain
を初めて合成し、単結晶 X 線構造解析からその一次元鎖構造を明らかにした。温度可変の
電気伝導度および磁化率測定から、従来の MMX-chain と比較して非常に低い電気伝導性と
非磁性であることが観測された。これらの結果から、電子状態は交互電荷分極(ACP)相(–
Pt2+–Pt3+–I−–Pt3+–Pt2+–I−–)に帰属され、室温での純粋な ACP 相が初めて実証された。嵩高
い置換基による立体障害は、その一次元鎖内に歪みを誘発して鎖内の Pt ダイマー間の Pt–Pt
距離を伸長させ、その結果、Pt ダイマーの dσ*軌道とヨウ素の pz 軌道の重なりが減少し、電
気伝導性が大幅に低下したと考えられる。このような配位子設計は、低次元物質において
構造歪みを伴った新たな電子物性を開拓する指針となると期待される。 ...