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大学・研究所にある論文を検索できる 「内視鏡的粘膜下層剥離術に用いる食道狭窄防止材料及び投与デバイスの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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内視鏡的粘膜下層剥離術に用いる食道狭窄防止材料及び投与デバイスの開発

戚, 蟠 東京大学 DOI:10.15083/0002004990

2022.06.22

概要

第1章序論
食道がんは日本で年間約1万人、世界中約10万人が死亡するがんで、再発しやすく治療が困難と言われている。食道がんの治療法は手術、内視鏡治療、化学療法、放射線療法の4つに大きく分けられる。特にがんが粘膜内に限局する早期食道がんでは、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が普及しつつある。ところが、ESD後に生じる狭窄が問題となり、特に食道3/4周(亜全周)以上の切除は術後狭窄発生率が高い。ESD後の食道狭窄の予防と治療にはステロイド局注術、バルーン拡張術及びステント留置術などの方法が検討されている一方、臨床における効果はまだ十分とは言えず、また複数回施術必要があるため患者のQOLの低下を引き起こしてしまう。さらに、ESD後に狭窄防止材料を使用する場合、シート状の材料は検討されてきたが、長さ1m、内径3.2mmの内視鏡チャンネルを通じて患部までデリバリーするには、高度な技術と長い施術時間が必要になるため、術者側は大きく負担を感じる。そのため、術後の食道狭窄のリスクを減らす簡便かつ効果的な予防法の開発が必要である。

そこで本博士論文では、短時間で簡便に使用できるスプレー材料に着目し、内視鏡チャンネル経由で散布できる材料とデバイスの開発を目指した。また、ESD起因の狭窄に近いラット食道狭窄モデルを開発し、insituで架橋できるハイドロゲル及び粉体材料の食道狭窄防止効果を評価した。さらに、ブタのESD実験によって粉体材料とデバイスの評価を行った。

第2章ラット食道狭窄モデルの開発
本章はESD起因の狭窄に近いラット食道狭窄モデルの開発を試みた。今まで食道狭窄を模擬する小動物モデルは水酸化ナトリウムを用いるラットの食道熱傷モデルがある。このモデルは胃酸逆流による逆流性食道炎や、組織傷害性物質の誤飲による腐食性食道炎などによって引き起こされる狭窄を模擬する小動物モデルであるため、ESD起因の狭窄とはメカニズムが異なる可能性が考えられる。また、現在ESD後食道狭窄の研究において既存の動物モデルは大型動物しかなく、コストの面と手技の面から考慮し、適切な小動物モデルを開発する必要がある。まずはラット食道で狭窄モデルを作製する適性を検討するため、消化管サイズと解剖学的特徴がヒトと近いブタの食道を用いて、ラットの食道と比較した。次に既存のラット食道熱傷モデルを作製し、ESD起因の狭窄と病理特徴が異なることを検証した。ESDを模擬するため、カテラン針やヤスリを用いてスクラブ方法を検討した結果、小動物用内視鏡で観察しながら、ヤスリとトリプシン・EDTAを併用することで、ラット食道の粘膜下層まで剥離するモデルの作製に成功した。この食道狭窄モデルの病理特徴はESD後の狭窄と極めて似ていることが確認できた。このモデルを用いて、ESD後に起きる狭窄の進行度が評価できるため、狭窄防止材料の設計や薬剤の開発への道を拓くものだと考えられる。

第3章Insitu架橋ハイドロゲルによる食道狭窄防止効果の検討
本章はESD後の粘膜下層と正常の粘膜層への接着性を有するinsituで架橋できるハイドロゲルの開発を検討した。ゼラチン(Gela)はコラーゲンを変性させたものであり、37℃ではゾル状になるため、分子の共有結合によって架橋することで、その強度を向上させる必要がある。トランスグルタミナーゼ(TG)はタンパク質に含まれるグルタミン残基とリジン残基を結合させる酵素であり、Gelaと混合しハイドロゲルを作成することができる。また、ESD後の粘膜下層にはコラーゲンが豊富でTGによって架橋されることで、材料が創傷部位に接着することが期待できる。アルギン酸(Alg)はCa2+の存在下でゲル化する。また、マレイミド(Mal)官能基はマイケル付加反応を介して、タンパク質表面に存在するシステイン残基に対する高い反応性を持っているため、マレイミド修飾アルギン酸(Alg-Mal)を用いて、チオール-マレイミド反応によって正常食道粘膜内に存在しているシステインと結合し、正常食道粘膜への接着性を向上させることが期待できる。

Alg-Malを合成し、TGの酵素反応条件を検討した後、粘膜下層への接着性を持つGela/TG、及び正常粘膜接着性を持つAlg-Mal/Ca2+からなるハイドロゲルのゲル化時間、力学的強度及び分解挙動を測定した。また、ブタ食道を用いて組織接着性を評価し、粘膜下層及び正常粘膜には10日以上の材料接着が検証された。最後に第2章で開発したラットモデルにおける食道狭窄防止効果の評価を行った。Gela/TG単体投与の場合、狭窄予防効果が見られ、Alg-Mal/Ca2+とGela/TGの混合材料はAlg/Ca2+とGela/TGの混合材料と比べると、ラットの体重減少、α-SMA発現量の差が見られなかったが、再上皮化を促進し、コラーゲン蓄積を抑制する効果が観察された。また、混合材料はControlより高い食道開存率を示したため、これらのハイドロゲルはinsituで架橋できる食道狭窄防止材料としての使用が期待できる。

第4章Insitu架橋粉体による食道狭窄防止効果の検討
粘度の高いゲルは長さ1m、直径3.2mmの内視鏡鉗子孔チャンネルを通して投与する時に圧損が高く、時に手の力で押し出せない問題がある。粉体を使用する際にはこのような懸念がなくなるため、本章では、内視鏡下での操作性を考慮し、内視鏡チャンネル経由で散布できるinsitu架橋粉体を開発した。粉体を濡れた食道表面に散布し、組織表面に付着した粉体の上から液体架橋剤をかけることで、粘膜下層のコラーゲンと架橋され、さらに長時間の接着が期待できる。本章の実験として、先ずはAlgとGela粉体の粒子サイズを測定し、吸水膨潤を観察した。次に粉体接着量及び必要架橋剤の量を測定した。また、Alg/Gela粉体による止血効果も見られ、止血剤としての応用も期待できる。さらに、ブタ食道を用いて組織接着性を評価し、正常粘膜には約10日間、粘膜下層には2週間ほどの材料接着が検証された。

最後に、ラットモデルにおける食道狭窄防止効果の評価を行った。Gela/TG単体投与の場合、2週間評価の時に材料の残存が見られたが、再上皮化速度はControl群より遅く、食道開通率はControl群と有意差がなかった。Alg/Ca2+単体投与群とAlg/Ca2++Gela/TGの混合材料群の食道開通率はControl群よりが高かったが、両群の間に有意差は見られなかった。Alg/Ca2++Gela/TGの混合材料は再上皮化を促進し、コラーゲン蓄積を抑制する効果が見られた。ただし、Alg/Ca2+単体投与群と比べると、α-SMA発現量の有意差が見られなかった。これらの結果からはESD後の食道の狭窄を完全に防止したとは言えないが、狭窄の重症度を軽減することができたと考えられる。また、炎症系細胞や各種サイトカインの産生量を評価した結果、混合材料を使用した場合は初期の炎症やTGF-βの発現が抑えられた。

第5章内視鏡用粉体散布デバイスの開発及びブタESD実験による食道狭窄防止効果の検討
本章は医療現場で使用されるシチュエーションを考慮し、内視鏡の鉗子口からデバイスを挿入し、細長い内視鏡鉗子孔チャンネルを通して粉体材料を散布するデバイスを設計と作製した。まずは散布チューブを選定し粉体噴出試験を行った。また、粉体の飛行方向をコントロールするため、3DCADソフトでアプリケーターの先端ノズルをデザインし、3Dプリンターを用いて作製した。先端ノズルの形を設計することによって、散布した粉体が食道壁側に接着し、患部への材料付着率が増加した。そして、粉体散布用チューブの内径、試薬瓶のGas/Solid比、ガス流速などを制御することで粉体散布の条件を最適化した。

さらに、臨床用の内視鏡を挿入するために、成体の消化管サイズと解剖学的特徴がヒトと近い動物として、ブタを用いて材料とデバイスの評価を行った。本章で開発したデバイスを用いて粉体を散布することで、材料がESD部位に満遍なく且つ効率的に付着させることに成功した。2週間評価する時に材料が残存している検体の食道開存率が高くなり、食道開存率の低い検体にはより高い再上皮化率を持っていることから、再上皮化速度が早ければ狭窄も予防できるという考え方は必ずしも正しいとは限らないことがわかった。また、検体のMassonTrichrome染色の結果から、線維化浸潤の厚さや食道の狭窄率は内輪筋の萎縮率との関係性は見られなかった。そして、α-SMA発現量の評価はControl群内でも個体差が見られたが、材料残存している検体と術後1週間評価した個体ではより低いα-SMA発現率を示している、狭窄率と内輪筋萎縮率の高い検体にはより高いα-SMA発現率が観察された。

第6章結言と将来の展望
本博士論文では、新規食道狭窄防止材料を開発するにあたって、内視鏡下での操作性を考慮し、スプレーで投与可能な材料に着目した。ESD後の創傷面に接着可能且つinsituで架橋できるハイドロゲルまたは粉体を用いた食道狭窄予防材料の開発に取り組んだ。また、食道狭窄防止材料を開発するにあたって、適切な小型動物モデルが存在しなかったが、ラット食道に機械的侵襲とトリプシン処理を併用し、ESD起因狭窄に極めて近いラット食道狭窄モデルの開発に成功した。このモデルを用いることで、ESD後食道狭窄の予防または治療するために薬剤や材料設計への道が拓かれた。今後はさらに材料設計の最適化を追求していく上で、治療シーケンスの改良または薬剤担持の可能性が考えられる。将来的には、革新的再生医療への応用展開が期待される。