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大学・研究所にある論文を検索できる 「物性制御可能なハイドロゲルを用いた内視鏡切除後消化管潰瘍の創部保護に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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物性制御可能なハイドロゲルを用いた内視鏡切除後消化管潰瘍の創部保護に関する検討

三浦, 裕子 東京大学 DOI:10.15083/0002005035

2022.06.22

概要

消化管上皮性腫瘍に対する治療として、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)を中心とする内視鏡治療の役割は非常に大きくなってきている。一方で内視鏡治療後偶発症として出血・穿孔などが挙げられ、これらの予防法の確立は非常に重要な課題である。現在確立されている予防法では十分に偶発症を予防できておらず、新規の方法の開発が求められている。その中で、潰瘍底を被覆して保護する被覆剤が注目されている。内視鏡治療後創部保護のための被覆剤として既に臨床応用されているものはポリグリコール酸(Polyglycolic acid: PGA)シートとフィブリン糊を併用した被覆法であるが、潰瘍底を完全に被覆するのが技術的に極めて困難であるという問題点がある。近年では生体内軟組織と類似した構造を有し、新たな医療用マテリアルとして注目を集めているハイドロゲルを用いて、どの施設でも施行可能な簡便さをもつ被覆剤の開発が試みられている。しかし既存のハイドロゲルはゲル化時間や、弾性率などの物性制御が困難であり被覆材として十分に機能しない可能性がある。そこで我々は本学工学部で開発され、極めて均一な網目構造を有することから、細かな物性制御が可能なTetra-PEG(Polyethylenglycol)ゲルに注目した。Tetra-PEGゲルを用いることにより、これまでの問題点を一挙に解決できる理想的な被覆剤が開発できる可能性がある。そのため、本研究ではTetra-PEGゲルを用いた内視鏡切除後潰瘍に対する被覆材の開発を最終目標に添え、その初期段階として小動物であるラットに潰瘍を誘導し、その潰瘍を被覆することによる潰瘍保護効果の検証を行うべく以下の検討を行うこととした。

第一の検討では、Tetra-PEGゲルの保護効果と安全性を検証するのに適した大きさと深さを有したラット潰瘍モデルを作成し、その潰瘍へ散布したTetra-PEGゲルの残存性を確認した。ラットには内視鏡を挿入しての潰瘍作成やTetra-PEGゲル散布は困難であるため、胃内の特定の場所に限局した潰瘍を誘導することが可能な酢酸漿膜適用潰瘍を用いた。誘導した潰瘍に対して経口ゾンデを用いて盲目的にTetra-PEGゲルを散布するため、ゲルが貯留しやすい後胃の食道胃接合部直下に潰瘍を誘導した。酢酸漿膜適用潰瘍は、慢性潰瘍モデルとして広く知られているが、用いる酢酸の濃度や塗布面積に関しては条件が定まっておらず様々な報告がある。そのためまずはあらゆる条件での潰瘍誘導を行い、誘導後5日目の潰瘍を観察したところ、①60%酢酸②60秒間塗布③塗布面積:直径8mm④誘導24時間前からの絶食の条件で、Tetra-PEGゲルでの被覆を試みるのに十分な大きさと深度を有した潰瘍を生じさせることを確認した。この条件で誘導した潰瘍の経時的変化を観察したところ、粘膜面から漿膜面に向かって組織障害が生じること、時間経過に伴って組織障害は深くなることが確認され、誘導後36時間の時点では筋層の深部まで障害が及び、肉眼的にも十分な深さ・大きさを有した潰瘍の形成を認めた。誘導後36時間までに潰瘍底に穿孔を生じた個体は認めなかったが、誘導48時間以降では複数の個体で潰瘍底に穿孔を認めた。この結果から、穿孔を生じうる直前のタイミングである潰瘍誘導後36時間の時点で、経口ゾンデを用いてTetra-PEGゲルを散布することとした。また、今回用いた酢酸漿膜適用潰瘍は内視鏡治療後の人工潰瘍とは機序の異なる潰瘍である。しかしながら経時的観察により粘膜面から漿膜面に向かって障害が進行することが確認できており、このことから外的刺激からの暴露の低減による被覆保護効果を検証するには十分な潰瘍モデルであると考えられる。加えて今回の潰瘍モデルは慢性潰瘍モデルとして消化性潰瘍に近い病態を呈しており、将来的に内視鏡治療後の人工潰瘍以外に慢性潰瘍に対する保護効果をも検討できる可能性を有する。

次に、確立した潰瘍モデルに対して経口ゾンデを用いてTetra-PEGゲルを散布し、潰瘍底への残存性を確認した。Tetra-PEGゲルは細胞接着性を有しておらず、潰瘍底の凹凸にゲル化前の物質がはまり込んでゲル化することによって潰瘍底を被覆する機序を有する。散布前にゲル化してしまうことのないよう、ゲル化時間は2分間に設定した。弾性率に関しては、胃内容物と混合することにより胃内では弾性率は変化してしまうが、体外でゲル化した際に5000Paとなるように設定した。胃内容物を極力減らすなどの点に配慮して散布条件を改良し、散布後24時間までは高確率で十分な残存を確認できた。散布後48時間の観察では、潰瘍底の一部のみにTetra-PEGゲルが残存しているのみであった。散布後24時間以降も残存を認めることが望ましいが、今回の検証ではラットを用いて盲目的に散布しているため、この条件下では残存性や残存時間には限界があるものと考えられ、この点に関しては今後の大動物実験の際の課題である。

上述の確立した方法を用いて、実際にTetra-PEGゲルで潰瘍を被覆することによる潰瘍保護効果を検証した。確立した方法にて潰瘍を誘導し、誘導36時間後にTetra-PEGゲルを散布した。散布後は経口摂取を再開し、散布48時間後にサンプリングして潰瘍の経過を被覆群8頭と生理食塩水を散布したコントロール群8頭とで肉眼所見に関して比較解析した。肉眼所見では潰瘍長径は被覆群で5.9±1.8mm、コントロール群で7.8±2.9mm、潰瘍面積は被覆群で20.9±16.4mm2、コントロール群で33.5±21.3mm2であり、いずれも被覆群で潰瘍縮小傾向にあった。また穿孔率はコントロール群で75%(6/8頭)であるのに対し、被覆群25%(2/8頭)と被覆群で低減の傾向にあった。この検証実験に伴う腸閉塞などの明らかな有害事象や、個体死は認めなかった。サンプル数が少ないことから、今回の検討では肉眼所見においていずれの項目でも統計学的有意差は認められなかった。しかしながらコントロール群で75%の穿孔を認めていたことから、今回用いた潰瘍モデルは自然経過では高確率に穿孔を生じるものであることがわかる。被覆群では穿孔率が25%にまで低減されており、潰瘍縮小傾向にあったことと合わせてTetra-PEGゲル潰瘍保護効果の可能性を示唆するには十分な結果であったと考える。保護効果の要因としては、散布後食事を再開しており、それらの外的刺激からの暴露が低減されたことが第一に考えられる。今回の実験は小動物を用いた初期検討であり、これ以上サンプルサイズを増やす意義は乏しいと考えられた。

また保護効果の機序解明のため散布48時間後の両群に、同条件で潰瘍誘導を行った散布24時間後・36時間後のサンプルを加え、それらの病理学的所見の検討を行った。HE染色においては、粘膜上皮欠損部分の粘膜下層深部における炎症細胞浸潤の密度を評価した。コントロール群では散布24時間後以降で著明な炎症細胞数の上昇を認めるものの、被覆群ではその上昇が緩やかであり散布36時間後と48時間後の時点いずれもで、コントロール群で有意に炎症細胞数が多かった。CD34免疫染色では、いずれの時点でも被覆群においてCD34陽性細胞が多い傾向にあり、特に散布後48時間ではその傾向が目立った。これらの結果から、Tetra-PEGゲル被覆による炎症抑制と新生血管の増生が潰瘍保護効果を示した可能性が示唆された。

今回の研究を通して、ラットを用いた初期検討でTetra-PEGゲルの潰瘍保護効果の可能性を示唆する結果が得られた。しかしながら経口ゾンデを用いた盲目的な散布であるため、今後は大動物実験で内視鏡を用いて正確に潰瘍底にスプレー状に散布し、より理想的に潰瘍底にゲルが残存した状態での検討が望まれる。既に我々は豚の胃を展開して用手的に作成した潰瘍に対して散布チューブを用いてTetra-PEGゲルを散布し、潰瘍底を被覆する実験を行っている。今後の更なる展望としては、生体豚に対して内視鏡を用いて実験を行い、胃内の酸性環境下での中・長期的な経過での検証を行うこと、そして将来的にはあらゆる部位の消化管潰瘍被覆材としての臨床応用へつなげていくことが課題である。

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