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大学・研究所にある論文を検索できる 「生分解性マグネシウム合金を用いた外科手術用ステープルの研究開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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生分解性マグネシウム合金を用いた外科手術用ステープルの研究開発

天野, 日出 東京大学 DOI:10.15083/0002005087

2022.06.22

概要

【背景】
外科手術において、消化管吻合に用いられる自動縫合器用のステープルは非生分解性のチタン製のため、アレルギー反応やコンピューター断層撮影でのアーチファクトが問題となることがある。そこで本研究では、生分解性金属であるマグネシウムに着目し、生分解性マグネシウム合金製ステープルの開発を目的として、合金組成や形状を工夫した試作品の安全性及び有効性を検証した。

マグネシウムは、優れた生分解性と生体安全性を有することから、生分解性医療機器の材料として注目されている。マグネシウム合金製の整形外科用スクリューと血管用ステントは既に欧州連合で CE マークを取得し、臨床で用いられている。しかし、これらの製品に使用されているマグネシウム合金ではステープルの開発は難しく、マグネシウム合金製ステープルの報告はほとんどない。従来のマグネシウム合金は生体内で容易に分解・吸収されるものの、延性に乏しく、応力腐食割れしやすいという課題があり、ステープルへの加工が難しく、屈曲部位での破損や生体内での早期分解が生じやすかったからである。さらに、マグネシウムは生体組織内で水分と反応し、水酸化マグネシウムと水素を発生しながら分解するため、産生された水素ガスによる縫合不全や膿瘍形成が懸念されていた。上記の課題を克服するため、本研究の共同研究者らは、合金組成とステープル形状を工夫しマグネシウム合金製ステープルを試作した。本研究では、この試作された新規マグネシウム合金製ステープルの安全性と有効性を検証するため、浸漬試験、細胞毒性試験及び中大動物を用いた腸管吻合実験を行い、試作した新規マグネシウム合金製ステープルの機械的強度、生分解挙動及び生体安全性を評価した。

【方法】
マグネシウム合金製ステープルは、共同研究者らが試作、作製したものを使用した。材料は不二ライトメタル株式会社のマグネシウム合金 (Mg – 2 mass% Nd – 1 mass% Y, FAsorbMg®) を用いた。ステープル形状は、屈曲部位の応力集中を軽減するため、ステープルの 2 本の刺入部と縫合箇所を跨る架設部を連結するための連結部を、屈曲点を有しない湾曲部を含む形状にした。

まず、生分解挙動の検索のため浸漬試験を行った。第十七改正日本薬局方に従い崩壊試験第 2 液を調整し人工腸液とし、ステープルの重量 0.03 g に対し 5 mL の割合で加えた。ステープルの変化を目視で観察するとともに、浸漬第 1、4、8、12 週のマグネシウム合金製ステープルの構成金属元素の溶出量を誘導結合プラズマ質量分析装置 (ICP-MS)を用いて定量した。摘出したステープルの引張り試験を行い、分解に伴う経時的な機械的強度の変化を評価した。さらに、ステープルの安全性の評価のため、ISO 10993-5: 2009に従い、チャイニーズハムスター肺線維芽細胞由来の V79 細胞を用いて細胞毒性試験(抽出法によるコロニー形成法) を行った。

次に、中大動物を用いて腸管吻合実験を行った。比較対象として、現在臨床で用いられているチタン合金製ステープル (Ti6Al4V Alloy, Ethicon Endo–Surgery, Inc., Cincinnati, Ohio, USA) を用いた。ブタ小腸の機能的端々吻合を行い (n = 3)、術後 1, 2, 4 週目に無痛下に屠殺し、腹腔内の観察と吻合部小腸の病理組織学的評価を行った。次に、ウサギ小腸の機能的端々吻合を行い (n = 33; Ti 群 n = 9, Mg 群 n = 24)、Ti 群は術後 7、30、 90 日目に、Mg 群は 4、7、14、30、90、180、270、360 日目に、無痛下に 3 匹ずつ屠殺した。術後 90 日までの体重測定及び血液検査 (WBC, 血清Mg, AST, ALT, BUN, Cre) を行った。また、屠殺時に腹腔内の観察と吻合部周囲の病理組織学的評価を行った。さらにステープルを摘出し、引張り試験、走査電子顕微鏡 (SEM) /エネルギー分散型 X 線分析 (EDS) による断面観察、及びマイクロフォーカス X 線 CT 装置 (µCT) によるマグネシウムの体積率の計測を行った。

【結果】
浸漬試験では、人工腸液に浸漬直後、ステープル表面に微細な気泡を認めたが、1 週間以内に消失した。ステープルは 4 週目までB 字型の形状を維持可能であった。経時的な引張り試験により、1 週間以上強度を保てることが明らかとなった。さらに、人工腸液に浸漬後のマグネシウムの溶出量を、細胞毒性試験結果と比較すると細胞毒性以下であっ た。イットリウムとネオジウムの溶出量はごくわずかであった。

動物実験では、中大動物の腸管吻合をステープルの破断なく行うことができた。全例、術後経過良好であり、縫合不全などの合併症なく生存した。ウサギの腸管吻合実験では、体重の推移と血液データの推移において、両群ともに有意差はなかった。また、病理組織学的検査によりステープル周囲の壊死や高度な炎症はなく、分解の過程で生じる水素ガスによると思われる空洞は小さかった。摘出したステープルの引張り強度は 2 週間保たれた。SEM/EDS 及び µCT では、ステープル辺縁にハイドロキシアパタイトと一致するカルシウム、リン、酸素を含む外層、及びマグネシウムと酸素を含む内層の二層の腐食層ができ、徐々にこの腐食層が内部に向かって厚くなり、術後 90 日目にはリンと酸素とカルシウムの化合物に置換されることが明らかとなった。

【考察】
生分解性医療機器は体内残存異物とならないという利点がある一方で、必要な期間機械的強度を維持できるか、分解による生体への影響があるかなどが懸念される。機械的強度に関しては、浸漬試験及び動物実験により、消化管吻合部の創傷治癒に必要な 1 - 2 週間
以上、破断せずに強度を維持できることが明らかとなった。生分解挙動は、SEM/EDS、 μCT により、腐食層がステープルの外周に形成され、分解は徐々に均一に内部に向かい、術後 3 カ月でリン酸カルシウムに置換されることがわかった。腐食層が保護層として分解を抑制するため、強度が保たれると考えられた。生体安全性に関しては、in vitro の実験により毒性を認めなかったことに加え、in vivo の実験で全例術後経過良好で、体重や血液検査の推移は両群間で有意差がなく、病理組織学的にもマグネシウム合金製ステープル周囲に壊死や高度な炎症は認めなかったことから、安全性が示唆された。マグネシウムが分解の過程で産生する水素ガスについては、病理組織学的検査で観察された水素ガス産生によると思われる空洞は極めて小さく、実際に動物実験でガス産生により起き得る縫合不全や膿瘍形成などの合併症は認められなかったことから、安全性に影響ないと考えられた。

【結論】
本研究により、試作したマグネシウム合金製ステープルは、十分な機械的強度、適切な生分解挙動及び優れた生体安全性を示すことが明らかとなり、安全性および有効性が実証された。マグネシウム合金を用いたステープルは、現在臨床で用いられているチタン合金製ステープルにとってかわり得る、新たな生分解性ステープルとして今後の臨床応用が期待される。

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