リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「伝統木造建造物の造営・修理に必要となる高品質な大径材の確保策に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

伝統木造建造物の造営・修理に必要となる高品質な大径材の確保策に関する研究

峰尾, 恵人 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23947

2022.03.23

概要

近年、文化財建造物の修理や一般寺社の建造といった様々な場面で、伝統木造建造物用材の入手難が顕在化しつつある。本論文では、伝統木造建造物用材のうち高品質な大径材に着目し、その文化的側面と需給調整的側面の両方を踏まえて、持続的供給のための方策を提示することを目的とした。

第1章では、概念的考察を通じて、高品質大径材の確保を森林政策の課題として捉え直すことを課題とした。まず、入手難顕在化の理由と、今後の需給調整のあり方について考察した。高品質な大径材の入手難顕在化は、大径材における天然林採取段階の終焉の兆しであると考えられ、今後は育成林において意図的に高品質な大径材の生産を目指していく必要がある。しかし従来、天然林における採取林業が高品質な大径材の価格形成力を有してきたこと、育成期間の長期性にかかる多大なリスク・不確実性、需要のランダム性が相まって、高品質な大径材の育成林業が発達してこなかったことを指摘した。今後も高品質大径材の需給調整を市場に任せるならば、過少供給や不安定化といった事態が引き起こされるため、政策的介入が必要と考えられることを示した。

次いで、森林政策と文化財保護政策の役割分担や、高品質な大径材と文化的価値との関係について考察した。文化財保護政策とは、文化的所産のうち特定の優品等に対する保護のための施策である。特定の優品を事後的に保護するためだけに木材が供給され、消費されるだけでは、その背景となる文化的活動全体の営みが継承されえない。従って、森林政策の立場からは、高品質な大径材の供給を文化財保護のためだけでなく、文化財を生み出してきた背景にある活動全般に対して広範に行うことが望ましいことを指摘した。

第2章では、森林計画制度における長伐期化や大径材生産の位置付けについて考察した。公益的機能の発揮の手段としての長伐期化は1980年代に森林計画制度の中に位置づけられ、公益性重視の政策基調と相まってその後も拡張されてきたが、高品質大径材生産の位置付けは不十分であったことを示した。

第3章では、国有林経営の約150年の歴史における「大材」生産政策の変遷を検討した。1870年代には軍艦の建造のような国の近代化のために大材が必要であるという意識が形成された。1899(明治42)年の「国有林経営ノ方針」から現在に至るまで、大径材は民有林に生産が期待しにくいため国有林がその供給に努めることとされてきた。しかしその国有林における「大材」生産政策は、戦前期、戦後期、2000年代以降の間で、顕著な非連続性があり、現在、大材生産林として設定された面積も過去に比べて著しく縮小したことを明らかにした。

第4章では、国有林における大径材の確保に関する施策の実態を検討した。その結果、文化財保護と関連させた「大径長尺材等」の生産施策は、いくつかの森林管理局で独自の取り組みがあることが明らかになった。しかし、こうした現行の取り組みは、総じて需要面への関心が希薄であり、国有林内での統制もとられていないことが明らかとなった。

第5章では、寺院や神社の森林経営への参画の可能性を検討した。寺社は、高品質な大径材確保の当事者であり、京都府の清水寺や宮城県の大崎八幡宮のように高品質大径材の確保のための先進的な取組も知られている。しかし、寺社と森林に関する研究や資料は極めて少なく、現状で唯一の網羅的な資料も1940年出版の『社寺林の現況』に限られる。これによれば、調査時点で1町歩以上の森林を有していた寺社は全体の7%、100町歩以上は0.04%(43件)に過ぎない。また、宗派を代表する寺院である本山寺院へのアンケート調査の結果からは、約半数の本山寺院は森林を所有しているものの、用材生産を行う例は少なく、本山寺院といえども森林との関係は極めて乏しいのが普通であり、寺社による直接的な森林経営が広がることはきわめて困難な状況にあることが明らかになった。

終章では、各章で得られた結果を総合し、今後の確保策の基本方針と残された課題について論じた。現行の大径材生産の取組を再検討し、その有効性を検証した上で、国有林による大径材供給に取り組むこと、寺社に対して自主的取組を誘発する支援的手法を実施すること、高品質な大径材の需給関係に関する組織的調査研究を行うことの三点が必要であることを指摘した。寺社に対する支援的手法については、教団(宗派)をターゲットとすることや、森林経営への直接参画だけでなく、森林所有者との連携のような幅広い確保策への参画を誘発することが望ましいことを指摘した。また、需給関係の調査研究は、過度な情報開示によって市場や流通をゆがめないような配慮が必要であることを指摘した。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る