リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「超好熱性アーキアが生産する長鎖アーキア膜脂質に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

超好熱性アーキアが生産する長鎖アーキア膜脂質に関する研究

吉田, 稜 名古屋大学

2022.06.01

概要

[1 章 :序論]
アーキアは、バクテリアや真核生物と並ぶ第三の生物ドメインを形成する微生物群であり、その多くが、高温や、酸性、高塩濃度といった極限環境から単離される。アーキアをその他の生物と区別する顕著な特徴が、アーキアが生産する膜脂質の構造である。最も典型的なアーキア膜脂質であるC20, C20アーキア膜脂質は、二本の完全還元された炭素数20 (C20)のイソプレノイド鎖が疎水部としてグリセロール骨格にエーテル結合している。アーキア膜脂質は酸に分解されにくいという特徴や、極限環境でも高いバリアー機能を発揮する細胞膜を形成するという性質を有しており、アーキア膜脂質の生産はアーキアの極限環境への重要な適応機構の一つであると思われる。さらに、アーキア膜脂質は種によって合成される構造が異なっており、それぞれが、その種の生育環境に対する適応機構として働いていると考えられる。例えば、超好熱性アーキアAeropyrum pernixはC20, C20アーキア膜脂質よりも長いC25の疎水鎖を二本持つ、所謂”長鎖アーキア膜脂質”、C25, C25アーキア膜脂質を生産する。この厚い細胞膜を形成する膜脂質の生産は、同菌が高温環境に生育するために重要であると思われる。しかし、C25, C25アーキア膜脂質の生合成経路や、細胞に与える影響はほとんど分かっていなかった。そこで、本研究では、未解明であるC25, C25アーキア膜脂質の生合成経路を明らかにし、さらに同経路を大腸菌に導入し、同脂質を生産する大腸菌株を構築することを目指した。同株の表現型の試験を通して、長鎖アーキア膜脂質の生産が細胞に与える影響を解明することを目的とした。報告番号※ 第号超好熱性アーキアが生産する長鎖アーキア膜脂質に関する研究吉田 稜典型的なアーキア膜脂質(C20, C20アーキア膜脂質)バクテリア・真核生物の膜脂質C20C20深海熱水噴出孔極限環境(高温・酸・高塩濃度)長鎖アーキア膜脂質C25C25C25, C25アーキア膜脂質(超好熱性アーキアAeropyrum pernix)アーキアの遺伝子操作が困難であり生合成経路・生理的重要性は未解明適応機構?OOOXX=極性頭部

[2 章 :C25 , C25アーキア膜 脂 質の生合成経 路の解明および大腸 菌での合成]
C20, C20アーキア膜脂質の生合成経路はすでに解明されており、二本のC20のプレニル基が2 種類のプレニル転移酵素によってグリセロール-1-リン酸 (G1P)に転移された後、還元酵素によって二重結合が完全に還元される。未解明であったC25, C25アーキア膜脂質も類似のメカニズム、つまりC20の代わりにC25のプレニル基が転移され、還元されて合成されると推測した(右図)。そこで、A. pernixのゲノムから、C20, C20アーキア膜脂質の生合成に関わる2 種類のプレニル転移酵素のホモログ遺伝子を探索した。それぞれの遺伝子を、大腸菌を用いて組換え発現させ、精製した。それぞれの酵素の基質特異性を、放射性基質を用いたin vitroアッセイによって検証し、どちらの酵素もC25のプレニル基をグリセロール骨格に転移することを明らかとした。さらに、二重結合が残るC25, C25アーキア膜脂質の生合成経路を大腸菌に導入して、同脂質を生産する大腸菌株を構築した。同株に、A. pernixにおけるC20, C20アーキア膜脂質の還元酵素のホモログ遺伝子を導入した。同株の脂質を分析することで、A. pernixにおける還元酵素の還元活性をin vivoで検証した。結果、大腸菌内では完全還元されたC25, C25アーキア膜脂質が生産されており、同酵素がC25のプレニル基を完全に還元する酵素であることが明らかとなった。

[3 章 :大腸 菌へのアーキア型メバロン酸 経 路の導入]
2 章で構築したC25, C25アーキア膜脂質を生 産する大腸菌株は、同脂質の生産が細胞に与える影響を調べるための基盤となることが期待された。しかしながら、その生産量は微量であり、その生産が大腸菌に与える影響が確認できなかった。その理由として、大腸菌は非メバロン酸経路を通してイソプレノイド前駆体を合成しているが、その生産量が不足していることが考えられた。そこで、近年新たに見つかったイソプレノイド前駆体の生合成経路であるアーキア型メバロン酸 (MVA) 経路を大腸菌に導入することで、大腸菌のイソプレノイド生産を増加させることを目指した。まず、常温性アーキアMethanosarcina mazei 由来のアーキア型MVA 経路におけるMVA以降の遺伝子を発現させるプラスミドを構築した。定量が簡便なイソプレノイドである赤色色素リコペンを生産する大腸菌株に同プラスミドを導入し、そのリコペン生産量を測定することで、同株のイソプレノイド生産を評価した。菌体に取り込まれMVAを与えるメバロノラクトンを添加した培地において、準嫌気状態で同株を培養した結果、リコペン生産量はコントロールに比べて大幅に向上した。これは、アーキア型MVA 経路によって大腸菌のイソプレノイド生産が強化されたことを示している。そこで、同経路をC25, C25アーキア膜脂質生産株に導入し、同脂質の増産を試みた。しかし、その生産量はわずかにしか増加しなかった。

[4 章 :C25 , C25アーキア膜 脂 質の生 産が引き起こす大腸 菌 表 現型の調査]
アーキア型MVA 経路は大腸菌内で構築するには多くの遺伝子を過剰発現させる必要があり、大腸菌細胞に大きな負荷がかかることが問題であった。そんな中、培地に添加されたイソプレノールとプレノールから、わずか2つのリン酸化酵素によってイソプレノイド前駆体を合成する経路、イソプレノール利用 (IU) 経路が開発された。そこで、同経路遺伝子をC25, C25アーキア膜脂質合成プラスミドに挿入し、大腸菌を形質転換した。同株を、イソプレノール・プレノール添加培地で培養したところ、同脂質の生産量は約 10倍向上し、同脂質は大腸菌脂質の約 1割を占めた。次に、同脂質の生産が大腸菌に与える影響を検証するべく、同株の有機溶媒耐性試験を実施した。その結果、C25, C25アーキア膜脂質生産株は、1-Butanolや1-Pentanolに対して高い耐性を示し、同脂質の生産が大腸菌の有機溶媒耐性の向上に寄与していることが明らかとなった。

[5 章 :非天然型C 25, C 30アーキア膜 脂 質の人工生合成経 路の構築 ]
5 章では、更に高いバリアー機能を有し、高い有機溶媒耐性を付与する可能性のあるアーキア膜脂質を生合成することを目標に、C25, C25アーキア膜脂質よりも、さらに長鎖の疎水部を持つアーキア膜脂質の人工生合成経路の構築を目指した。枯草菌由来のプレニル基転移酵素はC30及びC35のプレニル基をG1Pに転移することが知られている。そこで、同酵素を用いて放射標識したC30やC35のプレニル基がG1Pに転移された化合物を合成し、それらを用いて、本来C25のプレニル基を転移する酵素がC30基質を受け入れるかをin vitroアッセイで検証した。その結果、同酵素はC30基質を受け入れて、非天然型のC25, C30アーキア膜脂質を合成できることが明らかとなった。さらに、この非天然型脂質の生合成経路を人工的に設計し、同経路を組み込んだプラスミドで大腸菌を形質転換した。同株の脂質を分析したところ、期待通り、C25, C30アーキア膜脂質が検出され、非天然型長鎖アーキア膜脂質を生産する大腸菌株の構築に成功していることが示された。

[6 章 :総括]
本論文では、C25, C25アーキア膜 脂 質の生合成経 路を解明し、同脂 質を生産する大腸 菌株の構築に成功した。さらに同株は、 野生株よりも高い有機溶媒耐性を示すことを明らかとした。また、より高い有機溶媒耐性を付与する可能性のある非天然型長 鎖アーキア膜脂質を生 産する大腸菌株の構築にも成功した。本研究は長 鎖アーキア膜脂質が細胞に与える影響を初めて解明したものであり、アーキアの極限 環境への適応メカニズムを解明する重 要な基盤となるだろう。また、本研 究で得られた知見は、バイオ燃料や医薬品といった疎水性有用化合物の微生 物 生 産において、 疎水性化合物によってホスト微生 物の細胞膜が破壊されるという細胞毒性を緩和する新たな方法の開 発につながると期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る