リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「α-ケト酸とアリールグリシンのアミノ基転移反応を利用する無保護α-アミノ酸の直接的合成法の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

α-ケト酸とアリールグリシンのアミノ基転移反応を利用する無保護α-アミノ酸の直接的合成法の開発

稲田, 大輝 名古屋大学

2020.04.02

概要

近年の研究によって、ペプチドの医薬品としての開発が進展し、今日までに世界で 50 種類以上のペプチド医薬品が上市されている。生体内のペプチドは僅か 20 種類の α-アミノ酸だけで構成されるが、天然にはない側鎖を持つ α-アミノ酸や D-α-アミノ酸などの非天然 α-アミノ酸の導入は、活性や代謝安定性を向上させるため、ペプチド医薬品開発の重要な戦略となっている。また、光反応性基や蛍光性基、生体直交反応の足掛かりとなる官能基などを持つ機能性 α-アミノ酸は、生体機能解明ツールとして有用である。

α-アミノ酸合成法としては、Strecker 合成法や α,β-デヒドロ-α-アミノ酸の水素添加反応を利用する合成法、相間移動触媒を用いたグリシン誘導体のアルキル化を利用する合成法などが開発されてきた。α-アミノ酸は、塩基性アミノ基と酸性カルボキシ基を持つ両性化合物であることから、反応制御や取り扱いが難しい。そのため、通常、α-アミノ酸の合成では、それらの官能基の両者またはどちらか一方を保護した形で合成し、最終工程で脱保護する戦略がとられる。しかしながら、最終工程の脱保護は、同一分子内にアミノ基もしくはカルボキシ基が存在する中で進行させる必要があることからもしばしば問題となる。

著者は、これに対して、α-アミノ酸の代謝や生合成に関わる生化学反応として知られる α-ケト酸に対するアミノ基転移反応を有機合成手法として確立できれば、有用な α-アミノ酸合成法になるものと考えた。アミノ基転移反応は、還元剤を使用せずに α-ケト酸を直接無保護 α-アミノ酸へと変換できるため、高い官能基許容性が期待できる。 α-ケト酸は、当研究室で開発された 2 つの化学選択的酸化反応、トルエン/リン酸緩衝液の二相系で TEMPO/NaOCl/NaClO 2 を用いる 1,2-ジオールから α-ヒドロキシ酸への酸化反応と、MeCN を溶媒に AZADO/NO x /air を用いる α-ヒドロキシ酸から α-ケト酸への酸化反応によって調製できる。原料となる 1,2-ジオールは、バイオマスからやユビキタスなアルケンのジヒドロキシ化によって容易に入手できる。

生体内におけるアミノ基転移反応では、ビタミン B 6 が補酵素としてはたらき、トランスアミナーゼによって α-アミノ酸から α-ケト酸にアミノ基が転移することで新たなα-アミノ酸が生成する。ビタミン B 6 模倣触媒を用いて、アミノ基転移反応を化学的に再現する試みは古くから行われてきた。長年の研究にも関わらず化学・光学収率共に優れた触媒は開発されてこなかったが、ごく最近 Zhao らによって優れた触媒が報告された。しかしながら、一般にビタミン B 6 模倣触媒は合成に多段階を要すため、有機合成化学への応用には未だに課題を残している。そこで著者は、まず Zhao らの報告を参考に、実施容易なアミノ基転移反応を確立することとした。2-オキソ-4-フェニル酪酸をモデル基質にした検討の結果、窒素源としてフェニルグリシンを用いて MeCN と H 2 O の混合溶媒中加熱還流すると、触媒非存在下でも目的のアミノ基転移反応が進行し、ラセミ体ではあるものの対応する α-アミノ酸が効率的に合成できることを見出した。反応終了後は、有機溶媒を加えて α-アミノ酸を晶析させるだけで高純度の目的物が得られた。このような触媒非存在下でのアミノ基転移反応は、Herbst らを中心に研究されているが、その殆どが定性的な研究であり有機合成に応用された例はない。

実施容易なアミノ基転移反応を確立できたため、上記の当研究室で開発された 2 つの酸化反応と組み合わせ 1,2-ジオールから 3 段階による α-アミノ酸合成を検討した。その結果、α-アミノ酸合成において、最終工程での脱保護に用いられる加水分解や加水素分解反応に不安定なエステルやベンジルエーテル、オレフィン、ニトロ基を持つ α-アミノ酸、Strecker 合成法では合成困難なシアノ基を持つ α-アミノ酸など多様な非天然 α-アミノ酸の合成に成功した。本合成法の 1 段階目と 2 段階目の後処理は分液操作のみであり、多くの場合 3 段階目の反応終了後、晶析によって目的の α-アミノ酸が高純度で得られた。本手法では、一部の α-アミノ酸を除き、シリカゲルカラムクロマトグラフィーやイオン交換樹脂、HPLC による精製が不要であり、α-アミノ酸を簡便に単離することができる。合成した非天然 α-アミノ酸は、N-アセチル化後、入手容易な L-または D-アミノアシラーゼによってほぼ完璧な選択性で光学分割可能であり、光学活性 α-アミノ酸の合成も可能であることを実証した。また、α,β-不飽和エステルを有す 1,2-ジオールから調製したα -ケト酸をフェニルグリシンと加熱すると、分子内 [3+2]環化付加反応が進行し、特異な構造を持つ二環性の α-アミノ酸を合成することができた。

このように本合成法は広い官能基許容性を持つ一方で、蛍光性のクマリン部を持つ α-アミノ酸をはじめ親水性側鎖を持つ基質や疎水性側鎖を持ちトルエンに難溶な基質には適用できない問題を残していた。この原因は、1 段階目の酸化反応が、副反応の酸化的開裂反応を抑制するため、疎水性のトルエンと水を溶媒とする二相系であることに起因する。そこで、これを解決するため、著者は、ニトロキシルラジカル/NO xによる空気酸化反応の高い化学選択性に着目し、空気酸化反応によって 1,2-ジオールから α-ケト酸へ一挙に酸化する手法の確立を目的に研究を行った。この空気酸化反応の溶媒は、水と混和する MeCN であり、MeCN はトルエンよりも極性が高く多様な 1,2-ジオールを溶解させることから、上記の問題を解決できると考えた。さらに、本反応は、共生成物が水のみでクリーンな反応であることから、ワンポットでのアミノ基転移反応の実施も可能と考えた。このような合成法が確立できれば、ステップ及びポットエコノミーにも優れた合成法となる。一方、目的の空気酸化反応には、ニトロキシルラジカル α 位に水素原子を持つ AZADO などの高活性酸化触媒が必要となる。しかしながら、そのような触媒は、第 1 級アルコール選択性が低いことが知られ、1,2-ジオールから α-ケト酸へと酸化すると、α-ヒドロキシアルデヒドや α-ケトアルデヒド、 α-ヒドロキシケトン及びこれらの水和体が中間体として生成する可能性がある。目的の反応の開発には、これらのどの中間体を経る反応経路であるかに関わらず、α-ケト酸へ酸化される効率的な空気酸化反応の確立が求められる。

4-フェニル-1,2-ブタンジオールをモデル基質にした検討の結果、MeCN と H 2 O の混合溶媒中 2 当量の酢酸存在下、 空気酸化反応で AZADO よりも高活性とされる nor-AZADO を触媒としたところ、効率的に α-ケト酸への酸化が進行することを見出した。酸化後、後処理することなく反応溶液にフェニルグリシンを添加し、ワンポットでのアミノ基転移反応を検討したところ、問題なく反応が進行した。本合成法の基質一般性を調査したところ、親水性側鎖を持つ基質、疎水性側鎖を持つ基質のいずれにも適用可能であり、光反応性のベンゾフェノンやテトラフルオロフェニルアジド、蛍光性のクマリンやピレン、生体直交反応に有用なオレフィンやアジドなどを持つ多様な機能性 α-アミノ酸の合成に成功した。

続いて、アリールグリシンの合成法の確立を目的に検討を行った。アリールグリシンは、生物活性ペプチドのみならず、β-ラクタム系抗生物質の amoxicillin をはじめ多くの生物活性化合物に見られる重要な α-アミノ酸である。α-ケト酸のアミノ基転移反応によってアリールグリシンを合成するためには、生成物のアリールグリシンを窒素源とする、基質の α-ケト酸との反応を抑制する必要がある。著者は、反応性の高い窒素源を見出すため、反応温度 50 °C で、ベンゾイルギ酸をモデル基質に、ベンゼン環上に種々の置換基を持つフェニルグリシンを用いてアミノ基転移反応を検討した。その結果、ヒドロキシ基やクロロ基、フェニル基などが o 位に置換したフェニルグリシンが高い反応性を有すことを見出した。入手容易な L-o-クロロフェニルグリシンを最適窒素源として、基質一般性を調査した結果、p-トリフルオロメチル、p-メトキシ、 m-クロロなどをはじめ様々な置換基を持つフェニルグリシンの合成に成功した。

以上のように、著者は α-ケト酸とアリールグリシンのアミノ基転移反応を有機合成手法として確立し、無保護 α-アミノ酸の直接的合成法を開発した。多様な非天然 α-アミノ酸の効率的合成が可能な本手法によって、ペプチド医薬品開発やケミカルバイオロジーの分野が大きく発展することを期待している。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る