CCL2-CCR2 signaling in the skin drives surfactant-induced irritant contact dermatitis via IL-1β-mediated neutrophil accumulation
概要
刺激性皮膚炎(irritant contact dermatitis;ICD)は、刺激性のある化学物質への曝露によって引き起こされる頻度の高い皮膚疾患である。ICDは職業性皮膚疾患に占める割合が最も高く、患者の生活の質の低下や生産性の低下を来すだけでなく、代表的な炎症性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎の発症と悪化にも関与しうる。そのため、病態の理解に基づきICDをコントロールすることは重要である。CCケモカインリガンド2(CCL2)は、脳、肝臓、腎臓の組織傷害において重要な炎症性メディエーターであり、単球に主に発現するCCケモカイン受容体2(CCR2)を介して、走化性機能を発揮する。皮膚においてCCL2は、免疫細胞、特に単球の遊走を介して倉傷治癒や繊維化を促進する。界面活性剤によるマウスやヒトのICD病変部においてCCL2産生が亢進することが知られるが、CCL2の病態への関与は不明である。そこで、本研究は、代表的な界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(Sodium dodecyl sulfate;SDS)により誘発される朿臘性皮膚炎の病態へのCCL2の関与を検証した。
まず、野生型マウス耳介皮膚へSDSを6日間反復塗布してICDを誘導した。このSDS誘発性ICDは、バリア破壊、表皮肥厚、好中球浸潤といったヒトICDと共通する特徴を有し、病変部におけるCCL2産生を伴った。SDS誘発性ICD及び好中球浸潤は、CCL2やCCR2の欠損、あるいは皮膚局所へのCCL2阻害抗体投与により減弱した。これらの結果により、皮膚におけるCCL2-CCR2シグナルがSDS誘発性ICDの発症を促進することが示唆された。次に、CCL2がどのような細胞のCCR2を介してSDS誘発性ICDに関与するのか、骨髄キメラマウスをして検証した。放射線照射した野生型マウスにCCR2欠損マウスあるいは野生型マウスの骨髄を移植し12週後にSDSを塗布したところ、両群で同等のICDが誘導された。一方で、野生型マウス骨髄を移植したCCR2欠損マウスでは、野生型マウス骨髄を移植した野生型マウスと比較し、SDS誘発性ICD及び好中球浸潤が減弱した。これらより、SDS誘発性ICDの発症には、放射線感受性細胞のCCR2ではなく、放射線抵抗性細胞のCCR2が重要であることが示唆された。次に、SDS誘発性ICDの病態への好中球の関与を、抗Ly6G抗体を用いた好中球除去により検証した。好中球除去によりSDSによる耳介腫脹、表皮肥厚、バリア障害は減弱したことから、皮膚におけるCCL2-CCR2シグナルは、少なくとも部分的に好中球の皮膚浸潤を誘導することでICDの発症を促進することが示唆された。
野生型およびCCR2欠損マウスのSDS塗布皮膚を用いたRNAシーケンスの結果、CCR2欠損マウスでは野生型マウスと比較し、Il1bなどの好中球遊走に関わる遺伝子の発現が低かった。CCR2欠損マウスにおけるSDS誘発性ICD及び好中球浸潤は、リコンビナントIL-1βの皮内単回投与によって野生型マウスと同等に回復したことから、CCR2依存的なIL-lβ発現がSDS誘発性ICDに重要であることが示唆された。蛍光免疫染色の結果、SDS誘発性ICDの病変部におけるIL-1β陽性細胞の大部分はVimentin陽性間葉系細胞であった。
以上の結果より、皮膚におけるCCL2-CCR2シグナルは、IL-1βによる好中球の皮膚浸潤を介してSDS誘発性ICDの発症を促進することが示唆された。