正常細胞における酪酸に対する感受性と耐性の獲得－酪酸パラドックスを細胞の酪酸に対する二相生反応から解明する－

概要

歯周疾患（歯周病）は成人の約 8 割以上が罹患するとされる歯周組織の慢性炎症性疾患
である。歯周病が進行すると歯の動揺や喪失が誘発され、口腔機能の低下が引き起こされる。
また、これまで歯周病は、心内膜炎や敗血症などの全身疾患の発症に関わりうることが示さ
れてきたが、近年ではさらに、アルツハイマー病や消化器疾患、心疾患など様々な全身疾患
とも密接に関連していることが示唆されており（Bui et al., 2019）
、歯周病の発症や進行を
予防することは、口腔だけでなく全身の健康を維持するためにも極めて重要である。 歯周
病の発症・進行は、宿主因子、生活習慣など様々な要因が複雑に絡むことは周知のことでは
あるが、中でも口腔細菌の関与が極めて大きいことが知られており、歯周病巣から高頻度に
検出される歯周病関連細菌群が産生する、代謝産物を含む様々な病原因子が、歯周組織を構
成する細胞（歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞）に傷害を与え、歯周病の発症や進行に寄与す
ると考えられている（Pöllänen et al., 2003）
。また、歯周組織の傷害は、歯周組織内血管へ
の容易なアクセスをもたらし、口腔細菌およびそれに由来する病原因子が血流を介して全
身に侵入・灌流することで、前述のような全身疾患発症にも関与すると推測されている
（Hajishengallis et al., 2021）
。さらに、溢出した血液成分は、歯周病関連細菌群にとっての
富栄養環境をもたらし、関連細菌群の増殖や病原性発現を助長する（Naginyte et al., 2019）
ことで、さらなる歯周病の増悪が引き起こされる。 ...