脳神経外科手術におけるRGBカメラによる術中リアルタイム脳組織酸素飽和度イメージングシステムの開発
概要
論
文 内 容
要 約
論文題目
脳神経外科手術における RGB カメラによる術中リアルタイム脳組織酸素飽和
度イメージングシステムの開発
責任講座:
氏
脳神経外科学
名:
講座
佐 藤 慎 治
【要約】
【背景】
脳神経外科手術の際に電気生理学的手法を主体としたモニタリングを行い周術期合併症低減に努めてい
るが、評価可能な神経機能は限られる。これまで脳表温度変化や脳組織酸素飽和度(StO2(%)
)測定など
により脳の生存能(viability)を観察する手法が報告されているが、観察範囲が狭く、汎用性の問題もあり、
十分なモニタリング法とはいえない。術中に非接触かつ広範囲に、リアルタイムに StO2 による viability 評
価ができれば、周術期合併症を更に低減する可能性がある。
【目的と方法】
本研究は東京農工大学との共同研究で開発した、RGB カメラで得た分光反射率画像から R(red)、G
(green)
、B(blue)それぞれの拡散反射スペクトルを作成、算出された応答値から重回帰分析による酸素
化・脱酸素化ヘモグロビン濃度の推定に基づく StO2 を二次元イメージング化する方法を用いた、リアル
タイム脳組織酸素飽和度イメージングシステムを開発することを目的とした。本法は、手術顕微鏡に専用
の小型 RGB CCD カメラを装着するだけで可能であり、汎用性が高く手術操作に影響を与えない方法であ
る。
【対象と検討項目】
2019 年 8 月から 2020 年 10 月に当科で全身麻酔下開頭手術を行った脳血管疾患 22 例を対象とした。検
討項目は RGB カメラによる術中リアルタイム StO2 測定、比較として接触型光プローブを用いた StO2 測
定、脳神経外科手術操作時における StO2 変化とその有用性である。
【結果】
本法による有害事象は認めなかった。StO2 は本法の平均値は 73.9%、接触型光プローブの平均値は
60.6%で、本法が有意に高値であった(p<0.01)
。血行再建術後 6 例、脳主幹動脈一時遮断 6 例において、
本法での StO2 変化の観察の結果、血行再建術後 StO2 は平均 11.9%上昇し、術後の過灌流症候群は 1/6 例
に認めた。脳主幹動脈一時遮断では StO2 は 2/6 例で低下、うち 1 例では同一術野で血管支配領域の差異
を StO2 低下として捉えることが可能であった。
【結論】
脳表には主幹動脈が走行しており、それに応じて脳表ほど StO2 が高いと考えられる。脳表からの測定
深度は本法が 0.5-1mm、接触型光プローブが 2-3mm であり、測定原理からも本法の StO2 が高値を示すこ
とは妥当である。脳神経外科手術における有用性は、血行再建術後の StO2 上昇を捉えることで、吻合血管
の開存を確認でき、更に術後過灌流症候群が推定可能となりうる。脳主幹動脈遮断時の StO2 変化により
脳の viability 評価も可能である。本法は非接触型の StO2 測定法であり汎用性が高く、他科手術や在宅医
療、介護への応用も可能である。本研究で脳神経外科手術における RGB カメラによる術中リアルタイム脳
組織酸素飽和度イメージングシステムは有用であることを初めて明らかにした。 ...