Prognostication of Ovarian Function after Ovarian Torsion Using Intraoperative Indocyanine Green Angiography
概要
目的
卵巣茎捻転とは、卵巣が自らを支える靭帯を捻じらせた病態である。靭帯内の血管が途絶するため、卵巣が壊死に至る可能性がある。また、卵巣の障害は、虚血そのものによるだけでなく、虚血再灌流障害によって引き起こされることが判明している。卵巣茎捻転の治療法は、手術による捻転解除が基本であるが、伝統的には、術中の見た目で予後が判断され、暗い色であれば、卵巣摘出が選択されてきた。ところが近年では、見た目が悪くても捻転解除後の卵巣機能は保たれるという研究結果が多く存在するため、温存することが推奨されている。しかし米国の調査では、15歳~49歳の卵巣茎捻転に対する手術の中で卵巣摘出の割合が、2001年は81.1%、2015年は74.9%と僅かに減少はしているものの依然として高い。
消化器外科や形成外科では、ICGA(indocyanine green angiography)で組織血流を定量化し、その後に起こる縫合不全や組織壊死の予後予測に活用している。そこで本研究では、一定時間阻血されたラットの卵巣血流をICGAで定量的評価をし、卵巣機能温存の指標となりうるかを調査する。さらに、捻転解除後の再灌流の程度も定量的評価をし、それが予後に与える影響についても調査する。
方法
メスのWister種ラット18匹を用いた。1回目の手術は、右卵巣近傍の栄養血管を含んだ組織にクリップをかけて阻血をした。そのまま卵巣を元の位置に戻し、閉腹した。2回目の手術は、1回目の開腹より24時間後に再開腹した。NIR(near-infrated)カメラシステムを机に固定した。尾静脈よりICG0.5mg/kgを投与し、阻血された状態での組織血流を撮影した。投与開始から60~70秒でクリップを外し、再灌流する様子をさらに90秒間撮影した。3回目の手術は、1回目の開腹より4週間後で、両側の卵巣を摘出した。
NIRカメラシステムで撮影した両側の卵巣のfluorescence intensity(FI)を解析した。FIは様々な条件に影響されるため、阻血していない左卵巣をコントロールとした。横軸をt(秒)、縦軸をF(右卵巣のFI/左卵巣のFI)としてグラフを作成した。抽出したパラメータは8種類で、Fmax(阻血解除前のFの最大値)、Tmax(Fが増加開始した時点からFmaxに到達するまでの時間)、T1/2max(Fが増加開始した時点からFmaxの半分に到達するまでの時間)、slope(Fmax/Tmax)、time ratio(T1/2max/Tmax)、F’max(阻血解除後のFの最大値)、reperfusion rate(F’max/Fmax)、reperfusion gap(F’max-Fmax)。
摘出した卵巣は10%ホルマリン液で固定し、パラフィン包埋し、最大面積で切り出し、H&E染色した。対側と比較しprimordial+primary follicleの総数が50%以上であれば「functional」、50%未満であれば「unfunctional」と定義した。
結果
卵胞数を計測し、阻血側が「functional」であったのは13匹で、「unfunctional」なのは5匹だった。各パラメータが、卵巣予備能に影響を与える予測因子となりうるか、ROC曲線を作成した。AUC(area under the curve)は、Fmax:0.908、Tmax:0.569、T1/2max:0.546、time ratio:0.746、slope:0.877、F’max:0.723、reperfusion rate:0.938、reperfusion gap:0.862であった。
この中で、AUCの高い、Fmax、slope、reperfusion rate、reperfusion gapの詳細は以下の通り。Fmaxのcut-off値は0.112で、sensitivity0.923、specificity0.800。slopeのcut-off値は0.00115で、sensitivity0.692、specificity1.00。reperfusion rateのcut-off値は1.54で、sensitivity0.769、specificity1.00。reperfusion gapのcut-off値は0.0933で、sensitivity0.615、specificity1.00。
考察
阻血中の卵巣血流のパラメータの中では、Fmaxが、非常に高い感度、特異度を呈した。また、slope(Fmax/Tmax)もFmaxに次いで、高い感度、特異度を呈した。Wadaらによれば、ヒトの結腸直腸手術においては、ICGAの最大血流が、縫合不全の最も優れた指標だとした。この結果は本研究と一致しており、すなわち、ヒトの卵巣についても同様に重要なパラメータとなることが推測される。また、皮弁形成後に切除を要する組織の血流のcut-off値は、正常組織の血流に対して25~60%とされている。本研究での相対血流(Fmax)cut-off値は、それよりもずっと低い11.2%であった。以上より、卵巣は腸管や皮膚とは異なり、少ない血流で、長時間の虚血にも耐えうるということが言える。
再灌流については、阻血解除の前後での血流変化の割合である、reperfusion rateが、高い感度、特異度を示した。また、血流変化の差である、reperfusion gapも、それに次いで高い感度、特異度を示した。虚血再灌流障害は多くの臓器で認められるが、卵巣においても同様にOzlerAらによって示されている。したがって、本研究でreperfusion rate、reperfusion gapが重要なパラメータであったことは矛盾しない。また、IngecMらは、ラットの卵巣を3時間虚血した後、100秒間をかけて10秒ごとにクリップの開閉を繰り返して捻転解除をすることで組織障害を軽減することができたと述べている。本研究のように、FIをリアルタイムにグラフ化し、reperfusion rateが1.54を超えないように虚血解除をコントロールすればIngecMらの方法の再現が可能だろう。つまり本結果は予後予測にとどまらず、治療介入にも役立つ可能性がある。
結論
卵巣の捻転解除後に、卵巣予備能がどの程度残存するのかを予測する方法はこれまで存在せず、手術中の主観的推測や、「全例温存する」という方針に基づいて治療法が選択されてきた。本研究で、捻転卵巣の血流が手術中にICGAによる定量的評価が可能であること、さらにFmax、reperfusion rate、それに次いでreperfusion gap、slopeというパラメータが予後予測に有用であると示すことができた。