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大学・研究所にある論文を検索できる 「マウス表皮角化細胞におけるIL-24発現調節を伴うHMGB1の炎症制御における役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マウス表皮角化細胞におけるIL-24発現調節を伴うHMGB1の炎症制御における役割

仙田, 尚之 東京大学 DOI:10.15083/0002002477

2021.10.15

概要

HMGB1は有核のほぼ全ての細胞に発現するタンパク質で、通常は核内に主に局在し、クロマチン構造の安定化や転写制御に関与していると考えられている。一方で、HMGB1の特徴として、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide;LPS)などの刺激で能動的に、あるいは細胞死に伴い受動的に細胞外に放出されるとその作用を大きく変え、炎症性サイトカインを誘導するdamage-associated molecular pattern(DAMP)としての働きを持つ。細胞外に放出されたHMGB1はToll-like receptor(TLR)2, TLR4, receptor of advanced glycation end-product(RAGE)などの自然免疫系の受容体に認識され、NF-κBシグナルを介し、Interleukin(IL)-1βやTumor necrosis factor(TNF)-αなどの炎症性サイトカインの誘導、好中球遊走など多彩な作用を有する。近年、このような自己由来分子が炎症病態の増悪に関与することが多数報告され、その炎症誘導メカニズムの研究が注目されている。臨床上は、HMGB1は全身的には敗症性ショックや播種性血管内凝固症候群のメディエーターとして作用し、また局所炎症で様々な疾患に関係しているとされる。皮膚疾患との関係では、尋常性乾癬の患者では血清HMGB1値が高値であり重症度と相関すると報告されている。

 その一方で、HMGB1の炎症促進作用に関して、生理的役割には不明な点が多い。最近、Cre-loxP系を用いて種々の臓器において臓器特異的なHMGB1コンディショナル欠損マウスが作製、解析されてきた。骨髄や肝臓、膵臓、および腸上皮細胞でのHMGB1欠損マウスでは、LPSなどの各種刺激により臓器の炎症亢進を来すと報告されているが、一方で、肝臓でのHMGB1欠損マウスで薬剤誘導性肝炎の炎症が減弱したとの報告もあり、HMGB1の炎症における役割は未だ議論が分かれている。HMGB1の欠損による炎症増悪のメカニズムにはオートファジーの減弱やNF-κBシグナルの増強が考えられているが、不明な点が多く、確立された機構の提唱には至っていない。

 IL-24はIL-10と構造や遺伝子座が類似し、IL-10スーパーファミリーに属するサイトカインである。IL-24はナチュラルキラー細胞やマクロファージをIL-2、IL-4、LPSで刺激、また表皮細胞をIL-4刺激した際に発現が誘導される。生体内のIL-24の機能は、多種の悪性腫瘍に対する抗腫瘍効果の他、関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連が報告されている。皮膚ではIL-24刺激は表皮の増生、肥厚を誘導し、乾癬様皮膚炎モデルでの炎症惹起への寄与が示され、また乾癬患者およびアトピー性皮膚炎の病変部皮膚でIL-24の発現上昇が報告されている。皮膚は人体の諸臓器の中でIL-24の受容体を構成するIL-20Rα・IL-20Rβ・IL-22Rの各サブユニットの発現が特に高く、IL-24の標的臓器として重要と考えられる。また、IL-4は代表的なTh2(T helper type 2)サイトカインとして知られており、Th2細胞や肥満細胞、好塩基球から分泌され、Th2細胞の分化や増殖を誘導する。IL-4はSTAT6を介したシグナル伝達経路を活性化し、表皮細胞に対してIL-4は皮膚バリアに重要なフィラグリンや抗菌ペプチドの発現を低下させ、B細胞でのIgE産生誘導と共に、アトピー性皮膚炎の病態形成に重要と考えられている。実際、IL-4KOマウスやSTAT6KOマウスはマウス皮膚炎モデルの炎症の減弱が知られており、IL-4/STAT6系は皮膚での炎症を促進すると考えられている。

 本研究では皮膚炎症におけるHMGB1の役割を明らかにするため、まず表皮細胞でHMGB1遺伝子を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを作製した。このKeratin5遺伝子のプロモーター下流でCreリコンビナーゼを発現する表皮特異的HMGB1欠損マウス(K5-HMGB1 cKOマウス)では、形態学的な異常や皮膚炎および皮膚腫瘍の自然発症を認めなかった。また、定常状態において本マウスの耳皮膚から抽出したRNAを用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行ったが特記すべき変化を認めなかった。次にこのマウスにおける炎症を、Th1系を介した炎症を来すDNFB誘発アレルギー性接触皮膚炎、Th17系を介した炎症を来すイミキモド誘発乾癬様皮膚炎、獲得免疫を介さず惹起されるクロトン油誘発刺激性接触皮膚炎、Th2系を介した炎症を来すオキサゾロン誘発接触皮膚炎の4つのモデルを用いて検討を行ったところ、本マウスではいずれの皮膚炎モデルにおいても耳厚の肥厚が亢進し炎症が増強することが明らかとなった。

 次に、DNFB誘発アレルギー性接触皮膚炎を用いてその制御メカニズムの検討を進めた。DNFB誘発アレルギー性接触皮膚炎では、まず腹部への初回塗布によりマウスは感作され、次いで初回より低い濃度の同一抗原を耳に塗布することによって耳で炎症が惹起される。まず、表皮細胞中のHMGB1の欠損により、DNFBへの被刺激性が亢進した可能性を検討し、本モデルの惹起相に相当する低濃度でのDNFBのみを塗布した場合について検討を行ったところ、炎症はコントロールマウスと同様に非常に低いレベルであった。したがって、HMGB1は惹起相における直接的なDNFB塗布による反応において機能しているわけではないことが明らかとなった。次に、本モデルの感作相および惹起相を区別して解析するため、リンパ節細胞の移入実験を行った。すると、レシピエントマウスがK5-HMGB1 cKOマウスであった際にコントロールマウスの場合と比べて耳厚の肥厚の増強がみられたが、ドナーマウスはいずれのマウスであっても耳厚の肥厚に差は認められなかった。これらのことから、細胞内HMGB1が感作相では作用せず惹起相において炎症抑制に寄与すると考えられた。

 HMGB1による炎症抑制メカニズムの詳細を明らかにするため、DNFB誘発アレルギー性接触皮膚炎を生じたマウスの耳皮膚から抽出したRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果、K5-HMGB1 cKOマウスにおいてIL-24やその他の炎症性サイトカインやケモカインの発現が増強されていることが判明した。qPCRの解析からIL-24、Chil3、Chil1、CXCL1などがK5-HMGB1 cKOマウスにおいて発現が高値であった。それと合致して、フローサイトメトリーを用いた解析からもCD11b陽性Gr1陽性の好中球の割合が有意に増加していた。K5-HMGB1 cKOマウスでの炎症亢進の理由として、この好中球の浸潤の増加がその一つと考えられ、表皮細胞中のHMGB1がCXCL1の遺伝子発現の制御に関与することが期待された。しかし、表皮と真皮を分けてのqPCRの結果から、K5-HMGB1 cKOマウス由来の表皮では、CXCL1の発現はむしろ低下していることが判明した。

 一方で、耳皮膚由来RNAを用いたマイクロアレイの解析から、IL-24の発現がK5-HMGB1 cKOマウス由来サンプルにおいて増強していることが判明した。qPCRの結果から、IL-24はDNFB誘導性アレルギー性接触皮膚炎を誘導したK5-HMGB1 cKOマウス由来表皮においても発現が亢進していた。イミキモド誘発乾癬様皮膚炎モデルにおいても、K5-HMGB1 cKOマウスではIL-24を含め、IL-17a, IL-12p40など乾癬の病態形成に重要な遺伝子の発現が塗布開始2日後で高値を示した。クロトン油誘発刺激性接触皮膚炎でもHMGB1 cKOマウスではIL-24のmRNAの発現がK5-HMGB1 cKOマウスで有意に高値であった。このように、IL-24の発現増強は、メカニズムの異なる3つの炎症モデルで共通して見られたことから、HMGB1はIL-24の発現調節に関与している可能性が高いと考えられた。

 そこでIL-24に着目し、表皮細胞中でHMGB1がIL-24の発現制御に関わっているかを検討した。IL-24はIL-4刺激で誘導されることが報告されているが、マウス表皮細胞を単離培養しIL-4で刺激した際の誘導遺伝子をマイクロアレイを用いて解析すると、IL-24が最も高く誘導される遺伝子として挙がり、この誘導はK5-HMGB1 cKOマウス由来表皮細胞においてさらに増強していた。

 HMGB1とIL-24の関係の解析をさらに進めるため、遺伝子編集技術を利用してマウス角化細胞のHMGB1 KO細胞株を作製した。この細胞は無刺激時およびIL-4刺激にてK5-HMGB1 cKOマウスの耳皮膚から単離培養した表皮細胞と同様の動態を示した。IL-24遺伝子のプロモーター領域を用いたレポーターアッセイから、IL-4刺激時のIL-24プロモーター活性がHMGB1 KO細胞株で上昇することが明らかとなった。したがって、HMGB1はIL-24のプロモーターに作用し、発現調節を行っている可能性が強く示唆された。IL-4の刺激によるIL-24遺伝子の転写には、転写因子であるSTAT6が関与している。その経路におけるHMGB1の作用を更に解析したところ、IL-4刺激時にHMGB1 KO細胞株ではHMGB1 WT細胞株に比べSTAT6のリン酸化が亢進していた。これらの結果から、HMGB1にはIL-4刺激によるシグナル伝達とそれに伴うIL-24の発現誘導を負に制御する役割があることが明らかとなった。

 本研究において、表皮細胞中のHMGB1はTh1系、Th2系、Th17系など様々な刺激において共通してIL-24遺伝子などの誘導を抑制し、また炎症の調節に重要な役割を担っていることを明らかにした。本研究は種々の異なる刺激下においてHMGB1が特定の遺伝子(IL-24)の発現調節に関与することを明らかにした初めての報告である。これまで細胞外に放出されたHMGB1がDAMPsとして作用し、炎症の増大に関与することが注目され、解析が進められてきたが、本研究で見出された炎症関連分子の適切な制御、恒常性維持がHMGB1本来の役割である可能性が示唆される。今後、そのメカニズムの詳細を明らかにしていくことで、これまであまり解析されてこなかったHMGB1の恒常性維持機構における役割の全貌の解明に繋がると期待される。

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