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大学・研究所にある論文を検索できる 「CX3CR1ノックアウトマウスにおける接触皮膚炎反応」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CX3CR1ノックアウトマウスにおける接触皮膚炎反応

乙部, さやか 東京大学 DOI:10.15083/0002002472

2021.10.15

概要

接触皮膚炎は外来物質や抗原が皮膚に接触することで引き起こされる遅延型過敏反応であり、金属、植物、薬剤や化粧品などの様々な物質が原因となるといわれている。接触皮膚炎には物質そのものによる毒性やストレス反応によって起こる一次刺激性接触皮膚炎と、抗原に対する適応免疫によって起こるアレルギー性接触皮膚炎に大別される。アレルギー性接触皮膚炎は感作相と惹起相からなる二相性の反応である。感作相では経皮的に抗原が侵入すると樹状細胞やランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞が活性化し、所属リンパ節へと遊走され、抗原特異的T細胞を刺激する。惹起相では樹状細胞に感作されたT細胞が、T細胞が発現したCCR4とそのリガンドによる作用やT細胞に発現するE-セレクチンリガンドと血管内皮細胞に発現するE-セレクチンの作用により皮膚に浸潤する。最近ではマクロファージが急性型接触皮膚炎反応に関与しているとの報告もある。

 アレルギー性接触皮膚炎反応はマウスで再現できる実験系であり、同じ抗原で感作と惹起を1回ずつ行うことで再現される。一方、惹起後に抗原を繰り返し塗布する慢性型接触皮膚炎反応では、局所の遅延型過敏反応がlate phase reactionに続いて即時型の過敏反応へとシフトする。これは局所に関わるサイトカインがTh1系からTh2系に変化することに起因し、そのTh2系の免疫異常がアトピー性皮膚炎に類似することからアトピー性皮膚炎様モデルとして用いられる。

 マクロファージは単球から分化する抗原提示細胞であり、病原体に対する初期応答や炎症、組織修復において重要な役割を担っている。マクロファージはM1マクロファージとM2マクロファージの2種類のフェノタイプに分類され、M1マクロファージは活性化したTh1細胞から発現したサイトカインに応答し、炎症誘発性のサイトカインであるTNF-α、IL-6、IL-1βやIL-12、IL-23を発現する。またnitric oxide(NO)やreactive oxygen species(ROS)を産生し、細菌・真菌感染やウイルス感染時にも関与している。一方M2マクロファージはM1マクロファージによって起こる免疫応答に対して拮抗的に働く抗炎症性のマクロファージである。Th2細胞が産生するIL-4、IL-13によって活性化され、抗炎症性サイトカインであるIL-10やTGF-βを産生し、Th1細胞応答の抑制や組織修復の中核を担っており、また創傷治癒や血管新生、線維化促進にも関わっているといわれている。

 Myeloid-derived suppressor cell(MDSC)は腫瘍の免疫抑制に関わる未熟な骨髄系細胞として知られ、TGF-β、IL-10を産生することでT細胞の増殖とサイトカインの産生を強力に抑制する。腫瘍では、MDSCは腫瘍部位に遊走しarginase1、iNOSの発現上昇、ROSの発現低下を起こし、tumour-associated macrophages(TAMs)に分化し腫瘍の微小環境でT細胞応答を抑制する様々なサイトカインを発現する。近年では炎症性疾患においても重要な役割を担っていることが分かってきており、炎症性腸疾患では局所で発現が上昇したMDSCがT細胞から発現するIFN-γを抑制し、乾癬では表皮で発現が上昇したCXCL17がMDSCを誘導することで過剰な免疫応答を抑制するのに重要な役割を果たしている可能性があるといわれている。

 今回注目した分子であるCX3CR1はCX3CL1に対する7回膜貫通型受容体であり、T細胞、単球、NK細胞などに発現する。CX3CL1は活性化した血管内皮細胞や上皮細胞に発現する膜結合型のケモカインであるが、膜結合型以外に分泌型の形態もとることが知られている。分泌型のCX3CL1はCX3CR1陽性細胞の遊走を、膜結合型のCX3CL1はCX3CR1陽性細胞の接着を促し、免疫サーベイランスや細胞性免疫などの様々な免疫プロセスにおいて、重要な役割を果たしている。CX3CL1とCX3CR1の相互作用は関節リウマチや炎症性腸疾患など様々な炎症性疾患の病態に関与すると言われている。アトピー性皮膚炎ではCD4陽性T細胞に発現したCX3CR1によってCD4陽性T細胞が皮膚に留まることで皮膚の炎症を起こすことがトランスジェニックマウスを用いた研究で報告されており、またCX3CR1ノックアウトマウスではM1マクロファージが低下することでイミキモド誘発乾癬様皮膚炎が減弱することから、CX3CR1の乾癬への関与も示唆されている。本研究ではCX3CR1ノックアウトマウスを用いて2, 4-dinitrofluorobenzene(DNFB)による急性型接触皮膚炎反応、oxazoloneの繰り返し塗布による慢性型接触皮膚炎反応を引き起こし、接触皮膚炎反応におけるCX3CR1の役割を検討した。

 野生型マウス、CX3CR1ノックアウトマウスの耳介にDNFBによる急性型接触皮膚炎反応を起こしたところ、CX3CR1ノックアウトマウスで耳の腫脹は減弱し、惹起48時間後の耳介組織に浸潤している好中球、CD3陽性T細胞の数も野生型と比べて減少していた。続いて、耳の組織におけるサイトカインなどのmRNAの発現を解析したところ、野生型とCX3CR1ノックアウトマウスで、T細胞性の炎症性サイトカインの発現には差はみられなかったが、CX3CR1ノックアウトマウスで、マクロファージから産生されるTNF-α、IL-6といった炎症性サイトカインの発現低下、M1マクロファージのマーカーであるMCP-1の発現低下、M2マクロファージのマーカーであるMRC-1、arginase1の発現上昇がみられた。この結果から、CX3CR1ノックアウトマウスでは、M1/M2マクロファージのバランスの偏位が起きている可能性が考えられた。過去の報告から、CX3CR1ノックアウトマウスでの炎症の減弱に、このマクロファージの変化が関与していると考え、腹腔内マクロファージを回収しサイトカイン産生能を検討したところ、CX3CR1ノックアウトマウスのマクロファージでは、M1マクロファージの産生する炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6の発現は低下し、M2マクロファージの産生する抑制性サイトカインのarginase1の発現は上昇していた。さらに、耳介の局所マクロファージを除去した後に急性型接触皮膚炎反応を起こしたところ、野生型マウスでは急性型接触皮膚炎反応は一定程度減弱し、野生型マウスとCX3CR1ノックアウトマウスでみられていた耳介の腫脹の差は消失した。我々の結果は、急性型接触皮膚炎において、マクロファージから産生される炎症性サイトカインがその症状の一部に寄与していること、CX3CR1ノックアウトマウスでは、M1/M2マクロファージのバランスの偏位が皮膚局所での炎症性サイトカインの発現低下を来たし、その結果として、急性型接触皮膚炎反応が減弱することを明らかにした。

 Oxazoloneの繰り返し塗布による慢性型の接触皮膚炎反応においては、CX3CR1ノックアウトマウスでは、即時型過敏反応へのシフトに関しては、野生型と差はみられなかったものの、ピーク時の耳介の腫脹は減弱していた。耳の組織ではCX3CR1ノックアウトマウスでは野生型と比較して浸潤する好中球、CD3陽性T細胞、マクロファージの数は少なく、アトピー性皮膚炎の免疫学的特徴である血漿中IgE値も野生型と比較して低下していた。耳介の組織では抑制系サイトカインであるIL-10、arginase1及び皮膚バリア機能の維持を司るfilaggrinの発現が野生型と比べて上昇していた。またMDSCに発現し、その遊走に関わっているGPR35がCX3CR1ノックアウトマウスで上昇しており、抑制性サイトカインの産生源としてMDSCの可能性が考えられ、その解析をすすめた。惹起day83時間後の組織に浸潤するMDSCの数は、CX3CR1ノックアウトマウスでは野生型と比較して多く、さらに脾臓のMDSCではGPR35の発現がCX3CR1ノックアウトマウスで上昇していた。本研究の結果より、CX3CR1ノックアウトマウスではMDSCにおけるGPR35の発現が上昇していることで、皮膚炎部位への遊走が増強され、抑制性サイトカインの産生を介して慢性型の接触皮膚炎反応を減弱させることが推測された。

 要約すると、DNFBによる急性型接触皮膚炎反応ではCX3CR1ノックアウトマウスで耳介の腫脹は減弱しており、M1マクロファージの低下、M2マクロファージの上昇がみられた。マクロファージのM2への偏位に伴う炎症性サイトカインの産生低下がCX3CR1ノックアウトマウスの炎症の減弱を引き起こしていると考えた。また、oxazoloneの繰り返し塗布による慢性型接触皮膚炎反応でもCX3CR1ノックアウトマウスで耳介の腫脹は減弱し、皮膚でのMDSC数の増加、及び皮膚、脾臓でのGPR35の発現の上昇がみられた。抑制系MDSCの遊走に重要なGPR35の発現上昇に伴う病変局所に浸潤するMDSCの増加がCX3CR1ノックアウトマウスにおける炎症の減弱に関与している可能性を示した。

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