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書き出し

リンゴ果実の防御反応による幼虫の発育阻害がモモシンクイガの生活史におよぼす影響

石栗, 陽一 筑波大学

2021.07.29

概要

リンゴ果実の防御反応による幼虫の発育阻害が
モモシンクイガの生活史におよぼす影響

2021 年 1 月

石栗 陽一

リンゴ果実の防御反応による幼虫の発育阻害が
モモシンクイガの生活史におよぼす影響

筑波大学大学院
生命環境科学研究科
生物圏資源科学専攻
博士(農学)学位論文

石栗 陽一

目次

第 1 章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第 2 章 リンゴ園におけるモモシンクイガの生活史

2-1 成虫の発生消長と産卵消長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

2-2 老熟幼虫の果実からの脱出消長と休眠率の季節的推移・・・・・・・・・・・26

2-3 老熟幼虫の果実からの脱出時期と翌年の羽化時期・・・・・・・・・・・・・36

2-4 成虫の繁殖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42

2-5 成虫の飛翔能力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50

第 3 章 リンゴ果実の防御反応によるモモシンクイガ幼虫の発育阻害

3-1 野外のリンゴ果実における幼虫発育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

3-2 着果状態の違いが幼虫発育におよぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・64

3-3 幼虫の食入密度の違いが発育におよぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・73

3-4 リンゴ野生種の果実における幼虫発育・・・・・・・・・・・・・・・・・・80

3-5 異なる品種のリンゴ果実における幼虫発育・・・・・・・・・・・・・・・・85

3-6 幼虫の発育遅延が休眠誘導におよぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・96

3-7 休眠誘導に関わる日長を感受する幼虫の発育ステージ・・・・・・・・・・ 106

i

第 4 章 総合考察

4-1 リンゴの防御反応とモモシンクイガの休眠誘導・・・・・・・・・・・・・ 111

4-2 リンゴの防御反応とモモシンクイガの後休眠発育・・・・・・・・・・・・ 116

4-3 モモシンクイガの生活史特性と応用的な問題点・・・・・・・・・・・・・ 119

摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123

Summary・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 127

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133

公表論文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 147

ii

本研究では、モモシンクイガの幼虫が食入したリンゴ果実において誘導防御反応が起こ
り、果実内で発育する幼虫に著しい生存率の低下や発育のばらつきが生じることを新たに
発見した。そこで、果実の誘導防御による幼虫の発育阻害の実態解明に加えて、本種の休
眠を軸とした生活史におよぼす影響を明らかにするための一連の実験を行い、従来から防
除上問題となっていた成虫の長期にわたる発生をもたらすメカニズムについて、生態学的
な観点から考察した。
調査を行った青森県黒石市におけるモモシンクイガ成虫の発生は、5 月下旬~6 月上旬
に始まり、9 月上旬~中旬に終息した。6 月下旬~7 月上旬および 8 月中旬頃に発生の盛期
があり、それぞれ越冬世代成虫および第 1 世代成虫に相当するが、越冬世代成虫の羽化時
期に見られる個体変異が大きいため両世代の発生時期は重なった。また、6 月中旬以降は
産卵も継続的に認められ、成虫と同様に 6 月下旬~7 月上旬と 8 月中旬頃に盛期が見られ
た。
野外において 1 つの果実に1晩で産みつけられる卵数は 1 個の場合が最も多く、卵数が
多い果実ほど頻度が少なくなる傾向が見られた。この傾向は年次による違いがほとんどな
いのに対し、1 果当たりの年間総産卵数は、年次変動が大きかった。これは成虫の発生密
度の年次変動に加えて、産卵場所となる果実の結実数が年によって大きく変動することに
よるものと考えられた。
発育を完了した老熟幼虫の果実からの脱出は 7 月中旬から始まり、11 月以降まで続い
た。8 月上旬までに果実を脱出した老熟幼虫の多くは年内に羽化したが、8 月中旬~下旬
を臨界期として羽化率は急激に低下し、9 月以降に脱出した老熟幼虫はほとんど羽化せ
ず、休眠に入った。老熟幼虫が休眠に入る時期は 3 か月以上の長期にわたったが、個体に
よる休眠時期の違いは翌年の越冬世代成虫の羽化時期に影響しなかった。同じ時期に果実
を脱出した老熟幼虫でも、翌年の羽化時期は、早い個体と遅い個体で 1 か月以上の差が見
られた。

1

本種の雌成虫は雄成虫とのペア期間が長くなるに従い、交尾回数が増加し、最大で 3 個
の精包を保有する雌が見られたが、交尾雌が保有する精包数は成虫の生存日数や産卵数に
影響しなかった。1 雌当たりの平均総産卵数は 300 個を越え、その多くを 10~11 日の平
均生存期間の前半に集中的に産下した。
フライトミルを用いて本種の飛翔行動を観察した結果、14~29℃の温度帯では、雌雄と
もに活発な飛翔行動を示すのに対し、11℃では飛翔行動を示さない個体の割合が高かっ
た。生存期間の前半に当たる羽化 1 日後から 7 日後までは、雌雄ともに高い飛翔能力を示
したが、日齢が進んだ個体ほど測定後の死亡率が増加した。羽化 3 日後の雌成虫で測定し
た結果、未交尾雌と交尾雌で飛翔能力に差は認められなかった。
モモシンクイガの幼虫は摘果したリンゴ果実を餌に飼育すると、生存率が高く、発育の
ばらつきも少ないが、自然状態の着果したリンゴ果実における幼虫の生存率は、果実の生
育ステージにかかわらず、0~20.8%と極めて低かった。また、産卵から老熟幼虫が果実を
脱出するまでに要した日数は、発育の早い個体では有効積算温度の法則から推定される 30
日前後であったが、発育の遅い個体では 100 日以上経過してから脱出するものや、気温が
発育零点を下回る 11 月まで発育を完了できずに果実内にとどまるものも見られ、個体に
よるばらつきが大きかった。生存率の低下や発育のばらつきなどの幼虫の発育阻害は、樹
から切り離した果実では見られない現象であり、着果で特異的に発現する誘導防御反応に
よるものであると考えられた。
着果における幼虫の発育阻害程度は 1 果当たりの幼虫密度によって異なり、1 個体が食
入した果実では、10~29 個体が食入した果実に比較して、幼虫生存率が高く、発育のばら
つきが小さかった。摘果では食入密度の違いが生存率や幼虫期間に影響しないため、着果
における食入密度の生存率や幼虫期間に対する影響は、単なる幼虫間の競争や干渉ではな
く、着果で特異的に起こる果実の防御反応を通じてもたらされると考えられた。1 果当た
り 10~29 個体が食入した果実から脱出した老熟幼虫の平均生体重は、1 果当たり 1 個体
が食入した果実から脱出した老熟幼虫に比較して軽かったが、いずれの幼虫密度において
2

も幼虫期間と生体重との間に相関は認められず、発育遅延した幼虫でも正常な老熟幼虫と
して果実を脱出した。
果実の防御反応によるモモシンクイガ幼虫の発育阻害は、栽培品種に比較して果実サイ
ズの小さなリンゴ属野生種でも認められた。また、リンゴの栽培品種 8 種を用いて、着果
における防御反応の幼虫発育への影響を調査した結果、ほとんどの品種では発育阻害が認
められたが、‘あおり 27’(千雪)の果実では、特異的に生存率が高く、幼虫発育のばらつ
きも小さかった。‘あおり 27’はポリフェノール含量が少なく、PPO 活性の低い難褐変性品
種であることから、モモシンクイガ幼虫の発育阻害をもたらす二次代謝物質としてポリフ
ェノール類に関連した化合物が関与していることが示唆された。
モモシンクイガの休眠誘導は主に日長によって制御され、長日条件で非休眠、短日条件
で休眠が誘導される。果実の防御反応によって幼虫の発育にばらつきが生じた場合、同じ
長日条件下で発育を開始した幼虫でも、発育の早い個体は長日条件下で脱出まで至り、非
休眠となるが、発育が遅延した個体は幼虫期の後半に存在する日長の感受期に短日条件を
経験することで、休眠が誘導された。
外温動物である昆虫は、一般に有効積算温度の法則に従った発育を示すが、リンゴ着果
内のモモシンクイガの幼虫発育は、温度などの季節的に変化する環境要因とは独立して起
こる果実の防御反応による影響が大きい。多化性の昆虫において、一般に世代数の増加は
適応度の上昇をもたらすが、モモシンクイガの場合、防御反応の影響程度が個体によって
大きく異なり、幼虫の発育がばらつくことから、休眠ステージに達することができない個
体の割合が増加する危険がある世代数の増加は、必ずしも適応度の上昇につながらない。
モモシンクイガの主な発生源である管理不良園や廃園では、病害虫の被害や隔年結果に
よる果実量の変動が大きく、それによって生じる果実内幼虫密度の年次変動が、防御反応
による幼虫の発育阻害程度に影響するため、世代数の増加と適応度の関係は予測困難であ
る。このように適応度が不規則に変動する予測困難な環境で発育する昆虫では、しばしば
危険分散の生活史戦略が進化するが、モモシンクイガの場合、休眠誘導のタイミングにお
3

ける個体変異は少なく、閾値反応的であるのに対し、越冬後の成虫の羽化時期において分
散を大きく維持することにより、異なる化性の集団を個体群内に混在させ、適応度の不規
則な変動に対処していると考えられた。 ...

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