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大学・研究所にある論文を検索できる 「RPS19遺伝子のイントロン変異により引き起こされるDiamond-Blackfan貧血の正確な病因確認における機能的スプライシング分析の有用性」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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RPS19遺伝子のイントロン変異により引き起こされるDiamond-Blackfan貧血の正確な病因確認における機能的スプライシング分析の有用性

Takafuji, Satoru 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 Diamond-Blackfan貧血(DBA)は、稀な常染色体優性遺伝形式の先天性骨髄不全症であり、骨髄は赤血球系細胞のみの低形成を呈し、先天奇形、悪性腫瘍の素因を併せ持つ。リボソーム機能障害に関連する転写異常がTP53経路の活性化をもたらすことがDBAの中心的なメカニズムだと考えられている。DBAは主にリボソームタンパクの病原性変異により引き起こされ、これまで20個の責任遺伝子が同定されている。DBA患者で同定された遺伝子変異は全てへテロ接合体変異で、ホモ接合体変異では胎生致死になると考えられている。RPS19遺伝子の変異は、DBA患者で最も多く報告されている遺伝子変異で、約25%を占めている。RPS19遺伝子の変異では、エクソン2のコドン52-67に点変Μのホットスポット(Α57Ρ、A61S/E、L64P)が同定されているが、イントロン領域の変異は極めて稀である。イントロン領域でスプライシングのコンセンサス配列以外の変異が同定された場合、その変異がスプライシングに及ぼす影響を評価することが必須である。しかし、患者検体の転写産物解析は、mRNAが非常に不安定であり、さらに異常な転写産物はnonsense-mediated mRNA decay pathwayの活性化により分解されるため、しばしば困難になる。そこで近年、in vitroの機能的スプライシング解析系であるminigeneを用いた解析が、様々な遺伝性疾患において、スプライシング異常の有無を評価するための代替方法として使用されている。しかし、minigene解析系を遺伝性血液疾患に用いた報告は少なく、RPS7の変異により引き起こされたDBAの家族例についての報告が1篇あるのみで、DBAで最も頻度が高いRPS19の変異にっいては報告されていない。
 そこで本研究では、DBA患者で同定した、RPS19遺伝子の新規イントロン変異(C.412-3OG)、および過去に報告されたDBA患者で同定された変異のうち、転写分析が行われておらず、病原性が不明である3種類の変異(c.72-92A>G、c.356+18G>C、c.411+1G>A)にっいて、minigene解析を用いた機能的スプライシング分析を行った。

【方法】
 本研究ではRPSJ9遺伝子の4種類の変異(C.412-3OG、c.72-92A>G、c.356+18G>C、c411+6OG)に対してminigene解析を行った。c.412-30Gの変異は私たちが経験した1歳のDBAの男品例で同定した新規変異である。残る3種類の変異(c.72-92A>G、c356+18G>C、c.411+60G)は、遺伝子の既報のイントロン変異のうち、スプライシング異常を示す可能性はあるものの転写解析がなされていないために病原性が不明であるものを、Human Gene Mutation Database(HGMD)から抽出した。
 患者の末梢血単核細胞から抽出したtotal RNAを用いて転写産物の解析を行った。total RNAは、cDNAに逆転写した後、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行った。RT-PCR産物は15%アガロースゲルで分離後に精製し、サブクローニングを行った。また、同時に定量PCRを行った。定量PCRは、SYBRグリーンを用いた7500 fast real-time PCR systemで解析した。
 minigene解析には、H492ベクターを用いた。H492ベクターは2個のカセットエクソン(エクソンA、B)の間のイントロン領域にマルチクローニングサイトを持ち、in-fusionクローニング法により、その部分に解析したい遺伝子領域を含むゲノムDNAを挿入し、minigeneコンストラクトを作成した。患者で同定したc.412-30G変異をもつminigeneコンストラクトは、患者のゲノムDNAを用いてクローニングを行うことで作成した。それ以外の3種類の変異(c.72-92A>G、C.356+18G>C、C.411+6G>C)をもつminigeneコンスト今クトは、野生型ゲノムDNAでクローニングを開始し、PrimeSTAR Mutagenesis Basal Kitを用いて、野生型のminigeneコンストラクトにそれぞれの変異を導入することで作成した。また、陽性コントロールとして、RPS19のエクソン5のskippingを引き起こすことが知られているc4U+lG>A変異を導入したminigeneコンストラクトを作成した。また、最終イントロンに位置する変異がスプライシングに与える影響を解析するために、エクソン6のnon-coding領域に人工的にスプライスドナーサイトを作成し、minigeneからの転写産物がエクソンA、Bの間に挟まれるようにした。作成したminigeneコンストラクトは、HEK293T細胞、HeLa細胞にトランスフェクトし、各細胞からminigene由来のmRNAを回収した。
 in silico解析として、Human Splicing Finderを用いて、各変異をもつスプライシングドメインがスプライシングに与える影響の高さを評価した。

【結果】
 患者検体を用いたターゲットシークエンスとサンガー法により、RPS19の最終エクソン(エクソン6)のスプライスアクセプターサイト付近に新規変異(C.412-3OG)が同定された。患者末梢血由来の転写産物の解析では、野生型の配列をもつ転写産物の他に、エクソン5、6の間に2塩基が挿入された転写産物が確認された。これは、変異によって、野生型のAGの配列からさらに2塩基5'側に新たにできたAGの配列が、スプライスアクセプターサイトとして優先的に機能することを示していた。
 minigene解析では、野生型のminigeneコンストラクト由来の転写産物は5個のエクソン(カセットエクソンA、Bにはさまれる形でエクソン4-6)を含んでいたのに対して、C.412-30G変異をもつminigeneコンストラクトからの転写産物は、エクソン5、6の間に2塩基(AG)が挿入された少量の転写産物と、エクソン6がskippingした転写産物の両方を検出した。そのため、この変異は患者において2塩基の挿人を起こすのみでなく、むしろ最終エクソンであるエクソン6を認識されなくする変異であり、RPS19のmRNAそのものが変異アレルからは産生されていないのでは無いかと考えられた。
 そこで、次に患者の末梢血から抽出したmRNAを用いた定量PCRにより、患者と正常対照におけるRPS19、対象コントロールとしてM5のmRNA発現量を評価した。結果は、RPL5の発現量は正常対照と患者で発現量がほぼ同じであったのに対して、の発現量は、患者での発現が正常対照の約半量と低下していた。
 残る3種類の変異(c72-92A>G.c.356+18G>C、c411+6G>C)についてのminigene解析では、各変異を含むminigeneコンストラクト由来の転写産物には異常なスプライシング産物が含まれておらず、いずれも野生型と同じスプライシングパターンを示した。一方、陽性コントロールとしてc.411+1G>A変異を導入したminigeneコンストラクト由来の転写産物では、予想通りエクソン5のskippingが確認された。

【考察】
 本研究では、私たちの経験したDBA患者において遺伝子の新規変異(C.412-3OG)が同定された。この変異は最終エクソン周辺のスプライスコンセンサス配列の外側に位置しており、病原性の評価には、転写産物の解析が必要であった。転写産物の解析は、nonsense-mediated mRNA decay pathwayの影響や、標的となる転写産物を発現している臓器からRNAが抽出できないことがあり、しばしば困難である。また、最初または最後のエクソンのスプライシング異常を引き起こす変異がある場合、転写産物の解析だけでは異常を同定することができない。
 そのため本研究では、従来のmRNA分析に加えて、minigene解析を行った。患者の変異を有するminigeneコンストラクト由来の転写産物では、患者の末梢血由来の転写産物と同様に、エクソン5、6の間に2塩基が挿入された転写産物が同定されたが、それだけでなく、最終エクソンであるエクソン6をskippingした転写産物を含んでいた。また、患者から抽出したmRNAで見られた2塩基が挿入された転写産物は、野生型の転写産物と比較して極端に少なかった。そのため、患者で同定された変異は、2塩基の挿入のみでなく、むしろ最終エクソンであるエクソン6が認識されなくなる変異であり、RPS19のmRNAそのものが変異アレルからは産生されていないのでは無いかと仮説を立てた。定量的RT-PCRを実施したところ、患者では正常対照に比べて、ΛΡ579遺伝子の発現が約半量に減少していたことが明らかになり、仮説が正しかったことが証明された。
 また、本研究では、RPS19遺伝子において、スプライシングコンセンサス配列以外の変異で病原性が不明である変異がスプライシングに与える影響について、包括的な検討を行った。minigene解析では、3種類の変異(c.72-92A>G、c.356+18G>C、およびc.411+6G>C)を導入したminigeneコンストラクトでは、正常な転写産物のみが生成された。Human Splicing Finderによるin silicoでも、これら3種類の変異では、スプライスサイトスコアが変化しないか、わずかに変化するのみであり、これらの変異がスプライシング異常を引き起こす可能性が低いと考えられた。
 本研究では、患者で同定された変異についてminigene解析を行う際に、遺伝子のエクソン6のnon-coding領域に人工的にスプライスドナーサイトを作成した。最終イントロンにはスプライシングコンセンサス配列が含まれておらず、minigene解析では正しくスプライシングされない。実際に、予備実験では、野生型のminigeneコンストラクトでもエクソン6を含むmRNAを生成しなかった。このため、私たちは人工的に作成したスプライスドナーサイトに新たな変異を導入することで最終エクソンまで含めたminigeneコンストラクトが正しく機能することを確認した。
 本研究には2つのlimitationが存在する。第一に、新たな変異を導入し人工的にスプライスドナーサイトを作成する操作が、スプライシングメカニズムに影響する可能性がある。ただし、スプライシングは通常イントロン毎に進行するため、エクソン6の直後のnon-coding領域の変化がイントロン5のスプライシングに影響を与える可能性は低い。第二に、NGSで同定された変異の病原性評価のためにminigene解析を併用することは、多大な労力を必要とすることがある。ただし、minigene解析は2週間程度で行うことができ、また複数の変異を同時に分析することが可能である。
 結論として、遗伝性造血不全症に対するminigene解析は、標準的な転写分析では異常なmRNAを正しく検出できない場合、または検体が患者から入手できない場合に、非侵襲的で有用な方法だと考えられる。

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