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大学・研究所にある論文を検索できる 「MEN2Bとヒルシュスプルング病に同定されたRET遺伝子ミスセンス変異の病態誘導能:マウスでの変異導入による検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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MEN2Bとヒルシュスプルング病に同定されたRET遺伝子ミスセンス変異の病態誘導能:マウスでの変異導入による検討

Nakatani, Taichi 神戸大学

2020.03.25

概要

<序論>
受容体型チロシンキナーゼである RET は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)ファミリーリガンド(GFL)のシグナル受容体であり、副腎交感神経系や腸管神経前駆細胞に発現して、細胞増殖や分化を制御する。RET をコードする RET 遺伝子は、多発性内分泌腫瘍症候群 (Multiple Endocrine Neoplasia syndrome, MEN) 2 型およびヒルシュスプルング病 (Hirschsprung disease, HSCR) において多くのミスセンス変異が報告されている。

MEN2 型のサブタイプである MEN2A、MEN2B は甲状腺髄様癌 (medullary thyroid carcinoma, MTC) と褐色細胞腫を呈する疾患である。MEN2 型に同定される RET 遺伝子変異はミスセンス変異で、特定のアミノ酸を標的とし、変異のホットスポットが存在する。これまでの解析から、MEN2 型に関連した RET ミスセンス変異は、RET チロシンキナーゼの恒常活性化を通して細胞の形質転換を誘導することが示されている。

HSCR は腸管遠位部で腸管神経系 (Enteric Nervous System, ENS) を欠損する先天性疾患である。HSCR 患者では RET 遺伝子のミスセンス変異が遺伝子全体に広く分布して同定されており、変異のホットスポットは存在しない。これまで、一部の HSCR 関連 RET ミスセンス変異について生化学的解析がなされ、変異による RET タンパク質の機能喪失が報告されている。これらの知見から、MEN2 型および HSCR に見出された RET ミスセンス変異は、それぞれ RET の活性化および不活化により病態を誘導すると一般に考えられている。

しかし、HSCR に関連した RET ミスセンス変異である RET N394K やY791F の生物学的特性に関しては、一致した見解を得ていない。RET N394K や Y791F は、それぞれ RET タンパク質の N 結合型糖鎖付加阻害や受容体活性化機構の変調により RET の生理機能を障害するという解析結果がある一方で、それらを否定するデータも報告されている。これらの相違の原因として、解析に用いられた in vitro のアッセイ系の感度や特性の差による影響が考えられる。RET ミスセンス変異の生物学的意義の解明には、個体レベルでの解析が必須である。

本研究では、ゲノム編集技術を用いて MEN2B 関連変異(M918T:患者の 95%に検出)および HSCR 関連変異 (N394K、Y791F)を、マウス Ret 遺伝子座の対応領域に導入した変異マウス(M919T、N396K、Y792F)を作製し、それぞれのマウスが疾患に関連したフェノタイプを呈するかを調べることにより、各ミスセンス変異の病態誘導能を検証した。

<方法>
CRISPR/Cas9 法を用いてミスセンス変異導入マウスを作製した。ゲノム DNA 切断酵素 Cas9 とゲノム上の特定の配列を認識する gRNA (guide RNA) を用いて標的部位に ssODN を取り込ませることで、ミスセンス変異を導入した。マウス受精卵にエレクトロポレーションによって導入し、ゲノム編集を行った。ミスセンス変異の他に PAM 配列の消失およびジェノタイプを容易にするための制限酵素サイトをサイレント変異にて導入するように設計した。

Ret発現組織を可視化するために、Ret–tlz ノックインアレル (Retプロモーター制御下にtau-β-galactosidaseを発現するアレル) をもつRet +/tlz と交配させ、染色試薬X-galを用いた。交感神経系の解析には交感神経系のマーカーであるチロシン水酸化酵素 (TH) 抗体染色を行った。

ENSを可視化するために、Ret-EGFPノックインアレル (Retプロモーター制御下にEGFPを発現する) を持つ Ret +/EGFPマウスと交配させ、EGFP蛍光標識を用いた。一酸化窒素合成酵素 (Nitric oxide synthase, NOS) 陽性ニューロンを標識するためにnicotinamide adenine dinucleotide phosphate- diaphorase (NADPH-d) 染色を行い、コリン作動性ニューロンを標識するためにアセチルコリンエステラーゼ (Acetylcholinesterase, AChE) 染色を行った。

<結果>
Ret M919T変異を導入したマウスがMTCおよび褐色細胞腫に類する組織変化を呈するかを解析した。MTCはC細胞に由来し、カルシトニンを分泌する。生後 6 カ月齢マウスの甲状腺組織において、カルシトニン遺伝子プローブを用いたin situハイブリダイゼーション法によりC細胞の組織内分布を解析した。野生型マウスの甲状腺においてではカルシトニン陽性細胞が甲状腺濾胞周囲に均一に分布した。一方、Ret M919T/+ ではカルシトニン陽性細胞が凝集してC細胞過形成を呈した。この結果からRet M919T変異がMTCにつながる前癌病変であるC細胞過形成を誘発することが示された。

Ret M919T変異の組織発生における影響をマウス個体全体で解析するために、Ret–tlz ノックインアレル (Ret機能喪失アレル) とRETミスセンス変異ノックインアレルをもつRet M919T/tlz マウスを作製し、X-gal染色と組織透明化によりRet発現細胞を解析した。その結果、胎生 11.5 日目(E11.5)のRet M919T/tlz では、野生型マウス胎児と比較して、交感神経節の拡張・癒合を認め、明らかな交感神経幹の腫大が認められた。抗TH抗体を用いた交感神経系の組織染色でも同様の結果が得られた。褐色細胞腫の発生母地である副腎髄質は、副腎交感神経系より派生するため、Ret M919T変異は既に胎児期に交感神経系を侵して腫瘍形成を誘導する変化を誘導していることが示唆された。興味深いことに、Ret M919T/tl(zE11.5)のX-gal染色では、交感神経幹以外のRet発現組織である三叉神経、後根神経節、腎臓、ENSには明らかな異常を認めず、Ret M919T変異は副腎交感神経系の発生を特異的に障害することが示唆された。以上の結果から、Ret M919T マウスは MEN2Bの病態をよく再現している疾患モデルマウスであり、Ret M919T変異アレル単独の発現で病態誘導が可能であることが明らかとなった。

次に、RET N394K、Y792F 変異アレルが、HSCRに類似したENSの発生異常を誘導するかを解析した。Ret N396K/+、 Ret Y792F/+マウスはいずれも正常に成長し、明らかな異常が観察されなかったため、腸管神経系の発生に負荷をかける遺伝学的交配を行った。RET遺伝子の発現減少はHSCRの発症に中核的に働くことが示されており、マウスではRet遺伝子の発現量が半分からやや低下するとHSCR様の腸管神経欠損が誘導される。つまりRET遺伝子発現を減少させることで、RET N394K、Y792F 変異アレルの病態誘導能を鋭敏に検知可能となる。そこで、Ret N396K/+、 Ret Y792F/+マウスをRet EGFP/+ およびRet tlz/+マウスと交配した (Ret-EGFPノックインアレル、Ret–tlz ノックインアレルともにRet機能喪失アレル)。驚いたことに、Ret N396K/EGFP、Ret Y792F/EGFPマウス胎児(E12.5)には、神経前駆細胞の移動を含むENSの発生過程に何も異常を認めなかった。Ret N396K/tlz、Ret Y792F/tlzマウス胎児(E15.5)のX-gal染色においてもENSの発生や形態に異常は認めなかった。さらに、生後のENSの形態や主なニューロンサブタイプへの神経分化について検証するために、生後 8 日目のRet N396K/tlz、Ret Y792F/tlzマウスで、ENSの主なニューロンサブタイプであるNOS陽性およびコリン作動性ニューロンを染色し、正常マウスのENSと比較したが、ENSの形態や神経細胞数に異常は認められなかった。またRet N396K/tlz、Ret Y792F/tlzマウス胎児(E11.5)のX-gal染色でENS以外のRet発現組織の解析も行ったが、感覚神経、運動神経節、自律神経節、腎臓などにも異常は見られなかった。以上の結果からRet N396K、Y792F変異アレルにはENSを含む全てのRET発現組織において病態誘導能がないことが明らかとなった。

<考察>
本研究ではゲノム編集技術を用いて RET ミスセンス変異を導入したマウス 3 系統を作製し、それぞれの RET ミスセンス変異が MEN2B と HSCR に関連する病態誘導能を有するのかを個体レベルで解析した。

今回作製した Ret M919T マウスはC 細胞過形成と交感神経節腫大を呈し、遺伝子ターゲティングによりM919T変異を導入された既報のマウス (以下、Ret M919Tノックインマウス) と類似した表現型を示した。しかし一方で、両マウスには明らかな違いも認められた。Ret M919Tノックインマウスでは、交感神経幹腫大を呈するために変異アレルを2コピー必要とするのに対し、本研究で作製したRet M919Tアレルは変異アレルのみの単独発現でも交感神経幹腫大を誘導し、より強い病態誘導能を示した。この違いを生じた正確な原因は不明であるが、本研究では導入した変異のうち、Ret M919Tミスセンス変異以外はすべてサイレント変異のみであり、遺伝子ターゲティングマウスでは、余分な塩基配列がRet発現に影響を及ぼした可能性が考えられた。ゲノム編集技術は最小の遺伝子操作でミスセンス変異の再現を可能にするため、疾患に同定されたミスセンス変異の病態誘導能を評価するシステムとして優れていると考えられる。

今回HSCR で同定された RET ミスセンス変異のうち、RET N394K、Y792F ではENS の発生異常は見られなかった。Ret 発現のないアレルと組み合わせ、Ret 発現レベルが正常の半分に低下させたマウスでも、HSCR 様の表現型を呈さなかったことから、RET N394K、Y791F はほぼ完全に機能する RET タンパク質であることが示唆された。

RET M918T は単独で RET タンパク質の恒常活性化を引き起こし、MEN2B の病態誘導能を持つのに対し、RET N394K、Y791F のみではRET タンパク質の機能喪失を引き起こさず、HSCR 疾患の病態誘導能を持たないことがモデルマウスによって示唆された。このことから HSCR に関連した RET のミスセンス変異には、単独では RETタンパク質の機能喪失を引き起こさないものが含まれていることが明らかとなり、HSCR 関連変異が機能喪失変異であるという一般概念に注意を喚起する結果となった。このような変異を持った HSCR 患者では、他の遺伝子変異が共同して病態誘導に寄与している可能性が考えられる。HSCR の発病メカニズムの理解を深めるためには、 RET ミスセンス変異のモデルマウスだけでなく、他の HSCR 原因遺伝子変異とも組み合わせた複合的な解析が必要である。

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