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大学・研究所にある論文を検索できる 「全ゲノム解析データを用いたヘリコバクターピロリ菌の東アジア型CagAにおける新しいアミノ酸多型の検出」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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全ゲノム解析データを用いたヘリコバクターピロリ菌の東アジア型CagAにおける新しいアミノ酸多型の検出

Hayashi, Hiroki 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
へリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌)は萎縮性胃炎や胃癌など様々な疾患の原因となることが知られている。Cytotoxin-associated gene A (CagA)はピロリ菌の病原性における最も重要な毒性因子であり、4型分泌機構を介して胃上皮細胞内に移行し、細胞膜の内面に付着する。細胞膜内面に局在したCagAはSrcファミリーチロシンキナーゼによりチロシンリン酸化される。チロシンリン酸化されたCagAは宿主細胞内のSHP2と結合し、活性化させることで、異常な細胞増殖や形態変化を引き起こし、胃癌の進展に関わっている。CagAは約 1,200個のアミノ酸から構成され、N末端領域とC末端領域に分けられ、C末端領域にはGlu- Pro-Ile-Tyr-Ala(EPIYA)モチーフという特徴的な配列の繰り返しがあり、周囲のアミノ酸配列によって、EPIYA-A、B、C、Dセグメントに分類される。保有するEPIYAセグメントの違いによって、CagAは主に欧米型CagAと東アジア型CagAの2つのタイプに分類される。欧米型CagAはEPIYA-A、EPIYA-BならびにEPIYA-Cから構成され、EPIYA-Cは1~3個と変動する。一方、東アジア型CagAはEPIYA-A、EPIYA-BならびにEPIYA-Dを保有してい る。東アジア型CagAは欧米型CagAよりも胃癌の発生に強く関わっていることが知られており、このC末端領域のEPIYAモチーフ周囲のアミノ酸配列の違いが東アジア型CagAの強い毒性に関わっている事が報告されている。しかし、近年の構造及び機能解析により、N末端領域も発癌に関与することが示されている。N末端領域はDomainⅠ、Ⅱ、Ⅲと3つの領域に分類され、DomainⅠはASSP2やRUNX3といった腫瘍抑制蛋白を阻害することで胃癌の発生に関与する。DomainⅡのヘリックスα18は塩基性アミノ酸のクラスターを有することで表面電荷が正となり、負の電荷である細胞膜成分のホスファチジルセリンと結合すること で、CagAの細胞内移行および細胞内膜への局在に関与し、その後のターゲット分子との反応が促進される。また、Domain IIのβシートは胃上皮細胞のα5β1インテグリンに結合することが知られている。CagA自身もβ1インテグリンや細胞外膜のホスファチジルセリンと結合することで胃上皮細胞と接着し、細胞内への自身の取り込みの引き金となる。Domain ⅢはN末端結合配列(NBS)を有しており、天然変性領域であるC末端のC末端結合配列(CBS)と結合することによって「投げ縄様ループ」を形成し、CagAとSHP2が効率よく相互作用できるようになることが知られている。このようにN末端領域も胃癌の進展に関与することが分かっているが、東アジア型CagAの強毒性に関わるN末端領域のアミノ酸変異についてはあまり知られていないのが現状である。

【目的】
今回、我々は東アジア型CagAの病原性に関わり得るN末端領域のアミノ酸変異を検出することを目的とし、以前我々の施設で行ったピロリ菌の全ゲノム解析のシーケンスデータおよび National Center for Biotechnology Information(NCBI)から得たデータセットを用いて解析を行った。

【方法と結果】
1.データの収集および品質確認
これまでに我々の施設でMiseq(Illmina)を用いて全ゲノム解析を行ったピロリ菌43株分のシーケンスデータをDNA Data Bank of Japan(DDBJ)よりダウンロードし、CLC bio社のGenomics Workbench 8.5.3を用いて収集したデータの質の確認を行った。得られたデータのシーケンスリード数を確認すると、株毎の総リード数は152万から980万であり、変異解析には十分なリード数であった。一方、西欧株の代表株であるATCC26695株の配列を参照配列とし、それぞれの株のシーケンスリードをマッピングし、cagA領域の平均カバレッジ数を確認したところ、43株のうち3株でカバレッジ数が70未満であったため、既報の通り変異解析には不十分と判断し、これら3株を除いた残りの40株を用いて変異解析を行った。

2.EPIYAセグメントタイプによるCagAの分類
40株のピロリ菌を東アジアグループとそれ以外のグループに分けるため、EPIYAセグメントタイプの分類を行った。ピロリ菌40株それぞれのシーケンスリードを西欧株の代表株であるATCC26695株と東アジア株の代表株であるF30株の配列を参照配列としてマッピングし、EPIYAモチーフ周囲のアミノ酸配列によりEPIYAセグメントのタイプ分けを行ったところ、37株がABD、2株がABCであった。残りの1株はABDでもABCでもなく、既報を参照にABBと判定した。以上より、40株のピロリ菌を東アジアグループ(37株)とそれ以外のグループ(3株)の2群に分類した。

3.東アジア型CagAのN末端領域に特異的なアミノ酸変異の検出
各株のCagAのN末端領域における変異を検出するため、ATCC26695株を参照配列とし、ピロリ菌40株それぞれのシーケンスリードをマッピングして各々のコンセンサス配列を得た。各株のコンセンサス配列と参照配列を比較し、各株のCagAのN末端領域における単一塩基多型(SNV)を検出した。東アジアグループで検出されたSNVとそれ以外のグループで検出されたSNVをFisher’s exact testを用いて比較したところ、東アジアグループに特異的な7個のSNVがN末端領域に同定され、それらのうち4個でアミノ酸変異(G314S、V356A、S437P、Y677F)を認めた。次にこれらのアミノ酸変異の再現性を確認するために、NCBIの塩基データベースから“Helicobacter pylori CagA complete CDS”という検索基準で、東アジア型ピロリ菌とそれ以外のタイプのピロリ菌を上位20株ずつ抽出した。それらを検証データセットとして用いて解析したところ、4個のアミノ酸変異のうち2個(V356A、Y677F)が東アジアグループに特異的に検出された。

4.変異型CagAを用いたホスファチジルセリンやα5β1インテグリンとのドッキングシミュレーション
今回の研究で検出された2個のアミノ酸変異がCagAの機能に影響を与えるかを検証するために、コンピュータ上でドッキングシミュレーションを行った。ATCC26695株のCagA立体構造モデル(PDB-ID:4DVY)を基にSWISS-MODELを用いてこれら2つのアミノ酸変異を反映させたCagA立体構造変異モデル:CagA-V356A-Y677Fを作成し、SwissDock web serverを用いてCagA(ヘリックスα18)とホスファチジルセリン、ClusPro 2.0 web serverを用いてCagA(βシート)とα5β1インテグリンとのドッキングシミュレーションを行った。その結果、ホスファチジルセリンとのドッキングシミュレーションでは4DVYとCagAV356A-Y677Fとの間に明らかな差は認めず、これらのアミノ酸変異はCagAとホスファチジルセリンとの結合には影響を与えないことが示唆された。一方、α5β1インテグリンとのドッキングシミュレーションではCagA-V356A-Y677Fの方が4DVYよりも有意に結合エネルギーが低く、α5β1インテグリンとの結合親和性が高まっていることが示唆された。

【考察】
今回の研究で、我々はこれまでに我々の施設で行ったピロリ菌の全ゲノム解析のデータを用いて解析し、東アジア型CagAのN末端領域に特異的な4個のアミノ酸変異を検出し得た。さらにNCBIから得た検証データセットを用いて解析し、そのうち2個のアミノ酸変異(V356A、Y677F)が再現性をもって東アジア型CagAのN末端領域に存在する事を明らかとした。V356AはN末端領域のDomainⅡのβシート内に位置し、Y677FはN末端領域のDomainⅢに位置していた。DomainⅡにはヘリックスα18とβシートが存在し、それぞれ細胞膜内のホスファチジルセリン、胃上皮細胞のα5β1インテグリンと結合することで胃癌の進展に関与する。今回、ホスファチジルセリンとのドッキングシミュレーションでは西欧型CagAである4DVYと変異型CagAであるCagA-V356A-Y677Fとの間に明らかな差は認めなかった。一方、α5β1インテグリンとのドッキングシミュレーションではCagA-V356AY677Fの方が4DVYよりも有意に結合エネルギーが低く、2個のアミノ酸変異がα5β1インテグリンとの結合親和性を高めている可能性が示唆された。Y677FはDomainⅢに位置し、α5β1インテグリンとの結合部であるDomainⅡからは離れているが、結合部位から離れたアミノ酸変異であっても自由エネルギーのバランスを乱すことでタンパク結合能に影響を与え得ることが過去の論文でも報告されており、Y677Fによってタンパク質の構造が軽微に変化し、インテグリンが結合部位にアクセスしやすくなった可能性がある。DomainⅢにはNBSが存在し、C末端領域にあるCBSと結合することによって「投げ縄様ループ」を形成し、CagAとSHP2との相互作用を強めることが知られているが、NBS-CBS結合の立体構造がまだ解明されていないため、今回の研究ではドッキングシミュレーションが行えず、これらのアミノ酸変異がCagAとSHP2の相互作用に及ぼす影響については評価できていない。今回の研究のリミテーションとしては、コンピュータ上での評価であること、またCagAのN末端領域の機能のうちいくつかの機能についてのみの実験であることが挙げられる。今回検出し得たアミノ酸変異と東アジア型CagAの強い病原性との関りを解明するためには、今後、生体内や試験管内での実験を含めたさらなる研究が望まれる。

【結語】
今回、我々はこれまでに我々の施設で行った全ゲノムシーケンス解析のデータを解析し、東アジア型CagAのN末端領域に特異的な4個のアミノ酸変異を検出し、さらにNCBIから得た検証データセットを用いて再現性のある2個のアミノ酸変異(V356A、Y677F)を同定し得た。これらはCagAの病原性に影響を与える可能性のあるN末端領域のアミノ酸変異の候補となり得る。これらのアミノ酸変異がCagAの機能にどのように影響を与えるかを調査することは、東アジア型CagAの強い病原性に関わるメカニズムの解明に重要であると考えられる。

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