Effect of airborne litterfall inside and outside of the forest on the redistribution of radiocesium
概要
論文の要約
学籍番号
氏名
久留景吾
(201530223)
責任教員
恩田裕一
題目:Effect of airborne litterfall inside and outside of the forest on the redistribution of radiocesium(林
内及び林外で樹冠から降下する落葉が放射性セシウムの再分布に及ぼす影響)
1.
目的
福島事故で放出され森林に降下した放射性セシウムの森林内での挙動を明らかにすることは、森林の林床や隣接する生活
環境への二次汚染の機構を解明するうえで重要である。森林の樹冠に降下した放射性物質の林床への移行の主な経路は、最
初の放射性物質が降下してから 200 日以降は、落葉が重要な役割を果たしている。これまでの研究において、樹冠から降下し
た落葉量と Cs 降下量は、調査地における Cs の初期沈着量や樹種(常緑樹と落葉樹)
、スギ林の成熟度によって異なることが
明らかとなった。土壌中の Cs 分布や林床における空間線量率の分布は、樹冠内における Cs の分布を反映している。したが
って、樹冠から林床への 137Cs の移行の空間的・時間的変動を把握するためには、落葉の研究が不可欠である。また、二次的
な環境汚染を評価するためには、落葉の空間分布特性を明らかにし、線量暴露レベルを算出する必要がある。そこで、本研究
では、複数の異なる種類の森林(スギ及び広葉樹)において、林内及び林外での落葉量及び落葉の放射能濃度、落葉に伴う Cs
降下量のデータを収集し評価した。
2.
方法
主に林内における落葉と Cs の空間的・時間的変動の把握は、福島県伊達郡川俣町山木屋地区における3種類の森林(落葉
広葉樹-アカマツ混交林、スギ壮齢林、スギ若齢林)で、各調査地内にリタートラップを3基ずつ設置し、2011 年 7 月~2015
年 6 月にかけて実施した。主に林外における調査は、福島県双葉郡葛尾村(広葉樹林)及び双葉郡富岡町(スギ林)で、各調
査地の林内及び林外に林縁からの距離別にリタートラップとより細かな試料を捕捉可能な水盤を設置して、2016 年 8 月~
2018 年 3 月にかけて実施した。いずれの調査地でも、定期的に試料を採取し、期間ごとの落葉の量を測るとともに、ゲルマ
ニウム半導体検出器を用いて試料の Cs 濃度を測定し、期間ごとの落葉中の Cs 量を算出した。なお、主に林外における調査
では、スギ林においては試料をスギ、スギ以外、残さの3種類に、広葉樹林においては広葉樹の葉、枝種子、残さの3種類に
区分して測定を行った。
3.
3.1
結果
林内
・長期モニタリングの結果、落葉に伴って樹冠から落下する放射性セシウム(137Cs)の沈着量は、森林の種類や季節の変化、
Canopy Closure(CC)によって特徴づけられることがわかった。
・秋と春の 137Cs 沈着量の合計を夏と冬の合計で割った値は 秋と春の 137Cs 沈着量の合計を、夏と冬の合計で割った値は、
スギ林で高い値を示す傾向があった。
・CC の大きさとリターフォール量の相関が最も高くなる画角αは、スギ若齢林では 5°以下であったが、広葉樹とアカマツ
の混交林ではばらついていた。このことは、137Cs 沈着量の空間分布がそれぞれの森林において不均一性と均一性を持ってい
ることを示している。
3.2
林外
・林縁からの距離別の落葉量は、スギ林・広葉樹林とも、林外ではリタートラップよりも水盤で採取した試料のほうが、多い
傾向が示された。
・林縁からの距離別の Cs 降下量は、林内に対して林外での量は僅少であったが、リタートラップで採取した試料よりも水盤
で採取した試料のほうが、顕著に大きい傾向が認められた。
・林外の距離に応じた葉の飛散量は、先行研究と比較した結果、本サイトでは林縁からの距離とともにきれいに落葉量が低減
する傾向が示され、20-25m で林外飛散総量の 1-6%で収束した。
・採取時期ごとの距離別の林外落葉飛散量を確認した結果、スギ林は総じて遠くまで飛散せず短い距離で多くの量が降下し
たが、広葉樹林ではより遠くまで飛散することが分かった。
・林外における距離別の落葉の部位別の Cs 濃度は、スギや広葉樹の葉よりも残さのほうが高かった。水盤で採取した広葉樹
の葉の試料では、距離に応じて緩やかに濃度が低下する傾向が認められた。
・採取時期ごとの落葉量と Cs 濃度との関係を見たところ、スギ林も広葉樹林も、落葉量が多い時は Cs 濃度が低く、落葉量
が少ない時は Cs 濃度がばらつく傾向が認められた。
・加藤ほか(2018)による、時間経過に伴う落葉の Cs 濃度の予測値に対して、本サイトの落葉 Cs 濃度の実測値は、スギ林、
広葉樹林とも、予測値を含む範囲に分布したが、スギは予測値よりやや低めに、広葉樹では予測値よりやや高めに分布する傾
向が見られた。
4.
結論
本研究において、森林内では、2011 年の FDNPP 事故直後から 2015 年までの落葉量、落葉中の 137Cs 濃度、137Cs 降下量の
空間および季節変化の特徴を明らかにした。特性の異なる 3 つの森林(スギ壮齢林、スギ若齢林、アカマツ-広葉樹混交林)
を調査し、CC と落葉量、137Cs 降下量の関係、および各森林で CC の程度が落葉量と 137Cs 降下量に影響を及ぼす画角α値の
範囲に注目した。一般に、落葉量の変動は 137Cs 降下量の変動よりも大きかった。スギ林では、137Cs 降下量の変動幅は落葉
量の変動幅よりも 10-13%小さかった。さらに、スギ林では、落葉量の変動と 137Cs 濃度の間に弱い逆相関が見られた。落葉
量が少ないと、137Cs 濃度の高い樹木の部分(樹皮や種子など)の影響を受ける試料が多くなるため、137Cs 濃度の変動が大
きくなる可能性がある。さらに、CC が落葉量及び 137Cs 降下量と最も強く相関するα値の範囲は、葉の沈着・散乱パターン
が異なるスギ若齢林で最も小さく、アカマツ-広葉樹混交林で最大となった(重いスギの葉は地面にまっすぐ落ち、軽い広葉
樹葉は広く散乱することを反映)
。樹種間の高さの違いにより、樹冠からの枝葉の落下パターンが異なっていたと推察される。
全体として、本研究の結果、落葉量と樹冠からの 137Cs 降下量の時間的・空間的変動は、スギ林では非常に不均一であるが、
アカマツ-広葉樹混交林では均質な傾向を示すことを示した。これは、樹種による落葉パターンの違いによる二次汚染のパ
ターンの違いによるものである。
森林外では、2016 年 8 月から 2018 年 3 月にかけて、スギと落葉広葉樹林の内外において、2 つの方法(リタートラップと
水盤)で、樹冠から飛散する落葉及び残さの量とその放射性セシウム濃度の測定を行った。この測定結果をもとに、過去 8 年
間の落葉による放射性セシウムの森林外への移動量を推定した。森林外に飛散した落葉は、スギ林よりも落葉広葉樹林の方
が長い距離で飛散していた。また、落葉量は林縁からの距離に応じて指数関数的に減少した。落葉広葉樹林における林外への
葉の飛散距離と飛散量の関係は、これまでのリタートラップ法での知見と同様であった。水盤を用いた採取の場合、20m 地点
での飛散量はリタートラップ法の約 2 倍であった。 落葉樹の 137Cs 濃度は、いずれの森林においても、概ね森林の内部で高
く、森林の外部に向かって低くなる傾向があった。事故後 8 年目までのスギ林外への落葉の飛散による 137Cs 降下量の推定
値は、林縁から 0.5、4、8、12、20m の地点でスギではそれぞれ Cs 初期沈着量の 15.10、1.29、0.61、0.44、0.52%、落葉広
葉樹では 2.80、0.84、0.31、0.22、0.06%であった。この推定により、森林からの Cs の再汚染が、森林に隣接する森林外の
住居や農地などの生活環境に与える影響を定量的に評価することが可能となる。 ...