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がん治療を目的とした表面機能化細胞を基盤とする薬物送達システムの開発に関する研究

髙山 幸也 Yukiya Takayama 東京理科大学 DOI:info:doi/10.20604/00003610

2021.06.09

概要

間葉系幹細胞( m es e n c h y ma l s t e m cell: MSC) は、骨髄などから単離可能な分化多能性幹細胞であり、組織修復能や免疫調節能を有することに加えて、他家移植が可能なことから、移植片対宿主病などに対する再生医療等製品として臨床応用されている。また、生体に投与されたM S C は、腫瘍組織から産生されるケモカインに応答して腫瘍組織に集積することが報告されており、従来の治療薬では薬物送達効率が低い脳腫瘍や微小ながん転移巣への集積が示されている。この性質を薬物送達におftる標的化の概念に適用し、抗がん剤をM SCに搭載することで、M S C を基盤としたがん標的治療法を開発できる可能性がある。しかしながら、M S C の細胞特性に影響を与えずに、抗がん剤をM S C に効率的に搭載する方法はこれまでに報告されていない。
細胞表面修飾法は、細胞表面を化合物で修飾することにより新たな機能を細胞に付与する方法である。細胞表面修飾法を利用した細胞表面への化合物修飾は古くから行われており、M S C 表面への抗がん剤修飾を試みた報告も散見される。しかしながら、従来の細胞表面修飾法を利用したM S C 表面への抗がん剤修飾は、長い反応時間に起因する細胞傷害や修飾持続時間の短さなどが課題であり、抗がん剤修飾M SCを利用したがん標的治療に成功した例はほとんどない。そこで本研究では、M S C の細胞特性に影響を与えずに、安定かつ効率的に薬物を搭載可能な新たな細胞表面修飾法を開発し、これを応用することでM S C を利用した有効性の高い薬物送達システムの開発を試みた。

第一章では、細胞特性を保持した抗がん剤搭載MSCの開発を目的に、安定かつ効率的にMSCを化合物で修飾可能な新規細胞表面修飾法の開発を試みた。アビジンービオチン複合体(avidin-biotincomplex : ABC)法は、卵白などに含まれるタンパク質のアビジンとビタミンの一種であるビオチンが短い反応時間で強力な結合を形成することを利用した化合物の結合方法であり、ABC法を用いることで細胞表面を迅速かつ安定に化合物で修飾することが可能と考えられる。そこで、ABC法をMSCへの化合物修飾に応用し、MSCの細胞特性に影響を与えずに安定に薬物を搭載可能かについて評価した。まず、ABC法を用いてマウス間葉系幹細胞株C3Hl0T1/2 (C3)細胞をレポータータンパク質enhanced green fluorescence protein (GFP)またはNanoLuc luciferase (Nluc)で修飾し、修飾夕ンパク質の修飾期間および細胞特性への影響を評価した。1mMsulfo-NHS-LC-biotin.100卩g/mLアビジン、40卩Mビオチン化GFPを順に添加したC3細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、GFP由来の蛍光が細胞 表面に観察された。そこで、同様の方法を用いてビオチン化Nlucで修飾したC3細胞の修飾期間を評価したところ、C3細胞に修飾されたNlucは培養条件において少なくとも14日間は安定であった。また、1x106個のNluc修飾C3細胞を BALB/cSlc.nu/nuマウスの腹腔内に移植したところ、少なくとも7日間は移植部位においてNluc由来の発光が検出された。さらに、ABC法によるNluc修飾は、 C3細胞の接着性や増殖性、遊走性、分化能にほとんど影響を与えなかった。これらの結果から、ABC法を利用することで、MSCの細胞特性に影響を与えずに、安定かつ効率的に細胞表面を化合物で修飾できることが示された。

第一章において、ABC法がMSCへの薬物修飾に適した細胞表面修飾法である
ことを明らかにした。そこで第二章では、第一章で開発した細胞表面修飾法を応用し、抗がん剤修飾M S C の開発を試みた。代表的な薬物輸送担体であるリポソームは、ドキソルビシンなどの抗がん剤を大量かつ安定に封入できることが報告されている。そこで、M S C 表面により多くのドキソルビシンを搭載するためにC 3 細胞表面をドキソルビシン封入リポソーム( D L ) で修飾し、 D L イ自飾 C3細胞の抗腫瘍効果を評価した。まず、0.3 mM DSPC.0.03 mM DSPE-PEG-NH2、0.17 mM cholesterolおよび2 mM sulfo-NHS-LC-biotinを用いてビオチン化リポソームを調製し、さらにリモートローディング法によりドキソルビシンをビオチン化リポソームに封入した( Biotin・DL) 。Biotin- DLの平均粒子径、多分散指数およびドキソルビシン封入率はそれぞれ、約150 nm、0 . 08 、100 % であった。次に、100 卩M Biotin- DLを添加したアビジン化C 3 細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、ドキソルビシン由来の蛍光が細胞表面に観察された。また、 DL修飾C 3 細胞のドキソルビシン修飾量を測定したところ、1 細胞当たり約21 pgのドキソルビシンが修飾された。さらに、DL修飾はC 3 細胞の接着性や増殖性、がん細胞培養上清に対する遊走性、担がんマウスにおft る腫瘍集積性にほとんど影響を与えなかった。これらの結果から、A B C 法を利用することでC 3 細胞の特性に影響を与えずに、D L を安定かつ効率的にC 3 細胞表面に搭載できること が 示 さ れ た 。 そ こ で 、 ホ タ ル ル シ フ ェ ラ ー ゼ 発 現 マ ウ ス 結 腸 癌 細 胞 株colon 26 / f luc細胞を用いてDL修飾C 3 細胞のがん細胞増殖抑制効果を評価した。 Transwellを用いて、5 x 104 個のDL修飾C 3 細胞を2 x 105 個のc o lon 26 / f luc細胞と間接的に共培養したところ、colon 26 / f luc細胞の生存率は未処置群と比較して約2 4 % 低下した。次に、5 x 1 0 4 個のD L 修飾C 3 細胞を2 x 1 0 5 個のc o i o n 2 6 / f l u c細胞と直接共培養したところ、colon 26 / f luc細胞の生存率は未処置群と比較して約5 2 % 低下し、直接共培養することでより高いがん細胞増殖抑制効果が得られた。そこで、D L 修飾C 3 細胞をG F P 発現c o l o n 2 6 ( c o l o n 2 6 / G F P ) 細胞と直接共培養し、共焦点レーザー顕微鏡でD L の挙動を観察したところ、C 3 細胞と接するc o l o n 2 6 / G F P 細胞の内部にドキソルビシン由来の蛍光が直接移行する様子が観察された。したがって、C 3 細胞表面に修飾したD L は隣接するがん細胞に直接移行することで、高いがん細胞増殖抑制効果を発揮する可能性が示された。最後に、2 x 105 個のc o i o n 26 / f luc細胞をBALB/ c Slc- nu/ nuマウスの尾静脈内に移植することで作製した肺がん転移モデルマウスに、2 x 1 0 6 個のD L 修飾C 3 細胞を 2 日おきに合計 4 回静脈内投与したところ、 腫瘍増殖はほぼ完全に抑制された。以上より、A B C 法を利用して開発したD L 修飾M S C ががん標的治療薬として有用であることが示された。

第二章において、C 3 細胞の表面から隣接するがん細胞へD L が直接移行することにより顕著な腫瘍増殖抑制効果が得られることを見出した。自殺遺伝子を発現する細胞が自殺遺伝子特異的アポトーシス誘導剤存在下でアポトーシスする現象を細胞自殺と呼ぶ。自殺遺伝子の一つである単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ( T K ) 遺伝子とガンシクロビルを利用した細胞自殺では、T K発現細胞周囲のT K 非発現細胞も同時に死滅するバイスタンダー効果と呼ばれる現象が知られている。この現象は、D N A 伸長阻害作用を示すリン酸化ガンシクロビルがギャップ結合を介してT K 発現細胞からT K 非発現細胞に伝播することがメカニズムとして考えられている。そこで第三章では、D L 修飾C 3 細胞の抗腫瘍活性の増大を目的に、D L の細胞間輸送と細胞自殺におftるバイスタンダ一効果との併用を試みた。まず、T K 遺伝子発現C 3 ( C 3 / T K ) 細胞をガンシクロビル添加培地で培養したところ、細胞生存率はガンシクロビルの濃度依存的に低下した。また、C 3 / TK細胞をcolon 26 / fluc細胞と1 : 1の割合で混合し、2.5ng/ mLガンシクロビル存在下で直接共培養したところ、colon 26 / f luc細胞の生存率は顕著に低下した。一方で、transwellを用いて間接的に共培養した際には、colon26/fluc細胞の生存率は低下しなかった。これらの結果から、C 3 / T K 細胞によるがん細胞増殖抑制効果はギャップ結合を介したリン酸化ガンシクロビルの細胞間移行によることが示された。次に、A B C 法を用いてD L を修飾したC 3 / T K 細胞のがん細胞増殖抑制効果を評価した。DL修飾C 3 / TK細胞とcolon 26 / f luc細胞をガンシクロビル存在下で共培養したところ、ガンシクロビル非添加の場合と比較して有意に高いがん細胞増殖抑制効果が得られた。これらの結果から、ギャップ結合を介したリン酸化ガンシクロビルの細胞間輸送を併用することで、DL修飾 C3細胞の抗腫瘍活性の増大に成功した。以上、本研究ではA B C 法を利用するこ とによりM S C への新たな抗がん剤搭載法の開発に成功し、M SCを利用して薬物を標的細胞へ効率的に輸送することにより、顕著な腫瘍増殖抑制効果を得ることに成功した。本法を応用することで、MSCを利用した有効性の高いがん標的治療法を開発できるものと考える。論文審査の結果の要旨間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)は、骨髄などから単離可能な分化多能性幹細胞であり、組織修復能や免疫調節能を有し他家移植可能なことから、再生医療等製品として臨床応用されている。また、MSCは、ケモカインに応答して腫瘍組織に集積することが報告されている。この性質を薬物送達におftる標的化に適用し、抗がん剤をMSCに搭載することで、MSCを基盤としたがん標的治療法を開発できる可能性がある。細胞表面修飾法は、細胞表面を化合物で修飾することで、新たな機能を細胞に付与する方法である。従来の細胞表面修飾法を利用したMSC表面への抗がん剤修飾は、長い反応時間に起因する細胞傷害や修飾持続時間の短さなどが課題であり、抗がん剤修飾MSCを利用したがん標的治療に成功した例はほとんどない。そこで本研究では、MSCの細胞特性に影響を与えずに、安定かつ効率的に薬物を搭載可能な新たな細胞表面修飾法を開発し、これを応用することでMSCを利用した有効性の高い薬物送達システムの開発を試みた。第一章では、細胞特性を保持した抗がん剤搭載MSCの開発を目的に、安定かつ効率的にMSCを化合物で修飾可能な新規細胞表面修飾法の開発を試みた。アビジンとビオチンが短い反応時間で強力な結合を形成することを利用したアビジンービオチン複合体 (avidin-biotin complex : ABC)法を用いることで、細胞表面を迅速かつ安定に化合物で 修飾可能と考えられる。そこで、ABC法をMSCへの化合物修飾に応用し、MSCの細胞特性に影響を与えずに安定に薬物を搭載可能かについて評価した。まず、ABC法を用いてマウス間葉系幹細胞株 C3H10T1/2 (C3)細胞を enhanced green fluorescence protein (GFP)またはNanoLuc luciferase (Niue)で修飾し、修飾期間および細胞特性への影響を評価した。sulfo-NHS-LC-biotin.アビジン、ビオチン化GFPを順に添加したC3細胞を顕微鏡観察したところ、GFP由来の蛍光が細胞表面に観察された。そこで、ビオチン化Nluc修飾 C3細胞の修飾期間を評価したところ、少なくとも14日間は安定であ❜た。また、Nluc修飾C3細胞をBALB/cSlc-nu/nuマウスの腹腔内に移植したところ、少なくとも7日間は Nluc由来の発光が検出された。さらに、Nluc修飾は、C3細胞の性質にほとんど影響を与えなか❜た。これらの結果から、ABC法を利用することで、MSCの細胞特性に影響を与えずに、安定かつ効率的に細胞表面を化合物で修飾できることが示された。第二章では、第一章で開発した細胞表面修飾法の応用を目的に、C3細胞表面をドキソルビシン封入リポソーム(DL)で修飾し、DL修飾C3細胞の抗腫瘍効果を評価した。リモートローデイング法によりドキソルビシンをビオチン化リポソームに封入した(Biotin-DL)O Biotin-DLを添加したアビジン化C3細胞を顕微鏡観察したところ、ドキソルビシン由来の蛍光が細胞表面に観察された。また、DL修飾はC3細胞の性質にほとんど影響を与えなかった。そこで、DL修飾C3細胞のがん細胞増殖抑制効果を評価したところ、colon26/fluc細胞と直接共培養することでより高いがん細胞増殖抑制効果が得られた。このとき、C3細胞と接するcolon26/GFP細胞の内部にドキソルビシン由来の蛍光が直接移行する様子が観察された。肺がん転移モデルマウスにおftる腫瘍増殖は、DL修飾 C3細胞の静脈内投与によりほぼ完全に抑制された。以上より、ABC法を利用して開発したDL修飾MSCががん標的治療薬として有用であることが示された。自殺遺伝子の一つである単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(TK)遺伝子とガンシクロビルを利用した細胞自殺では、リン酸化ガンシクロビルがギャップ結合を介してTK発現細胞からTK非発現細胞に伝播することで、TK発現細胞周囲のTK非発現細胞も同時に死滅するバイスタンダー効果が知られている。そこで第三章では、DL修飾 C3細胞の抗腫瘍活性の増大を目的に、DLの細胞間輸送と細胞自殺におftるバイスタンダー効果との併用を試みた。C3/TK細胞をcolon26/fluc細胞と混合し、ガンシクロビ、ル存在下で直接共培養したところ、colon26/fluc細胞の生存率は顕著に低下した。次に、ABC法を用いてDLを修飾したC3/TK細胞とcolon26/fluc細胞をガンシクロビル存在下で共培養したところ、ガンシクロビル非添加の場合と比較して有意に高いがん細胞増殖抑制効果が得られた。これらの結果から、ギャップ結合を介したリン酸化ガンシクロビルの細胞間輸送を併用することで、DL修飾C3細胞の抗腫瘍活性の増大に成功した。

以上、本研究ではABC法を利用することによりMSCへの新たな抗がん剤搭載法の開発に成功し、MSCを利用して薬物を標的細胞へ効率的に輸送することにより、顕著な腫瘍増殖抑制効果を得ることに成功した。本法を応用することで、MSCを利用した有効性の高いがん標的治療法を開発できるものと考える。したがって、本論文は博士(薬学)の学位論文として価値あるものであり、申請者に博士(薬学)の学位を与えるのに十分な価値を有すると判断する。