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大学・研究所にある論文を検索できる 「水チャネルaquaporin-5の細胞膜局在に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

水チャネルaquaporin-5の細胞膜局在に関する研究

室井 慎一 Shin-ichi Muroi 東京理科大学 DOI:info:doi/10.20604/00003680

2022.06.17

概要

外分泌とは,腺細胞から形成される腺組織から分泌物の排出のうち,体外または体腔へと排出するものであり,体液中に排出する内分泌と大別される.外分泌物質には,汗,皮脂,乳および消化液などがある.その中でも,汗,涙液および唾液の構成成分のほとんどは水分であり,体温調節,眼および口腔内を乾燥から保護する生理的役割を果たしている.また,これら外分泌腺の機能異常を生じると,無汗症やドライアイおよび Sjögren 症候群 (SjS) などの疾患の原因となる.現行の外分泌異常に対する治療は,人工唾液や涙液の補填など対症状的に用いられるものに限られており,根本治療の確立が強く望まれている.水チャネルである aquaporin (AQP) は細胞膜で水を選択的に透過させる水チャネルで,AQP0 – 12 の 13 種類のアイソフォームが全身に分布し,各組織で水分代謝の恒常性の維持に重要な役割を果たしている.AQP 類の中で,AQP5 は唾液腺,涙腺および汗腺などの外分泌腺に特異的に存在しており,ノックアウトマウスでは唾液および涙液の分泌量が著しく低下する.AQP 類は砂時計様の孔構造をしており,基本的に開閉機構は存在しないと考えられている.そのため,AQP による細胞膜間の水の移動は,細胞膜上に存在する AQP 量に依存する.AQP5 の細胞膜移行については細胞内の cAMP や Ca2+濃度上昇に伴うタンパク質リン酸化シグナルが一部関与することが知られているが,詳細な分子メカニズムについては不明な点が多く残されている.当研究室では,一部の SjS 患者の血清中に AQP5 に対する自己抗体が存在することを見出しており,この抗 AQP5 自己抗体が SjS の病態形成に関与する可能性が示唆される.以上の背景のもとに,本研究では AQP5 の細胞膜局在に焦点を当て,抗 AQP5 自己抗体の作用,AQP5 の細胞膜局在メカニズムの解明および AQP5 細胞膜局在の薬理学的調節について検討した.

第 2 章では,SjS 患者血清中に含まれる抗 AQP5 自己抗体の性質とその機能の解析を行った.SjS 患者血清中の抗 AQP5 自己抗体を定量的かつ多検体を一度に評価するため,蛍光免疫染色を改変した Cell-based immunoassay を行った.その結果,60 検体の SjS 患者血清中,46 検体 (77%) に,また血清より精製した IgG 分画では 31 検体 (52%) に抗 AQP5 自己抗体が検出された.一方,SjS 以外の自己免疫疾患として関節リウマチ患者由来の IgG 分画についても調べたが,10 検体と少数例ではあるものの,用いた全ての検体において抗 AQP5 自己抗体は確認されなかった.さらに,SjS 患者の血清について,AQP 類の他のアイソフォームおよび,細胞外への Cl-流出によるイオン勾配の形成により水分泌を促進する Cl-チャネルである CFTR に対する SjS 患者血清の反応性を評価した.これらの分子に対する SjS 患者血清の反応性の陽性率は AQP5 ほどではないものの一定の割合で認められ,そのほとんどは AQP5 に対しても反応性を示す検体であった.抗 AQP5 自己抗体のエピトープ同定のために, SjS-IgG を一次抗体として用いた western blot および自己抗体とペプチドの共処理を行う competitive immunoassay を行ったが,どちらにおいても反応性は見られず,抗 AQP5 自己抗体はペプチドで再現できない高度な構造を認識していると推定された.そこで,AQP5 の細胞外領域を構成するアミノ酸残基の一部をアラニンに置換した変異体発現プラスミドを作製,遺伝子導入した細胞を標本として自己抗体の反応性を評価した.抗 AQP5 自己抗体は,細胞外ループ A の Pro 36 および Ser 37,ループ E の Arg 198 および Phe 199 のアラニン置換体に反応性を示さず,両領域を認識している可能性が示唆された.また,AQP5 の細胞膜局在に対する抗 AQP5自己抗体の影響を調べるために,内因性の AQP5 を発現するマウス肺上皮細胞株 MLE-12 細胞に SjS-IgGを処理し,ビオチン化法によって細胞膜表面の AQP5 量を調べたが,SjS-IgG は細胞膜表面の AQP5 量を著明に減少させることがわかった.さらに,この時の AQP5 の細胞内局在を蛍光免疫染色で調べると,SjS-IgG は AQP5 の局在を細胞膜上から細胞質内へと変化させ,エンドソームマーカーである EEA1 との共局在が確認された.すなわち,抗 AQP5 自己抗体は,AQP5 の細胞内取り込みを促進すると考えられた.SjS-IgG を処理により細胞内に取り込まれた AQP5 は後期エンドソームマーカーである Rab7 とも共局在しており,細胞質内取り込まれた AQP5 が分解系へと移行する可能性が示唆された.これらの成績から,抗 AQP5 自己抗体は SjS 患者に高率かつ特異的に認められる自己抗体であり,AQP5 の細胞内局在化およびその後のタンパク質分解によって AQP5 量を減少させることで SjS にみられる外分泌機能異常を引き起こしている可能性が示唆された.

第 3 章では,AQP5 の細胞内局在制御メカニズムの解明を目的として,特に AQP5 タンパク質の C 末端領域の役割を調べるとともに,細胞膜局在化における ERM タンパク質の役割を調べた.AQP5 の細胞内 C 末端領域を 10 アミノ酸残基ごとに欠失させた deletion mutant 発現プラスミドを作製し,これらを細胞に遺伝子導入し,その細胞膜局在を調べると,C 末端側の 10 アミノ酸残基を欠失させた deletion mutantの細胞膜移行に最も著明な異常が,また,さらに広い領域を欠失させた mutant でもその局在異常は確認されたことから,AQP5 の細胞膜移行には最も C 末端側の 10 アミノ酸残基 (256RKKTMELTTR265) が重要であると推定された.さらに,この 10 アミノ酸のうち 1 つずつをアラニン置換した変異体を作製,細胞膜局在を評価すると,予想に反してリン酸化やユビキチン化を受けるアミノ酸残基ではなく,Met 260,Glu 261 および Leu 262 のアラニン置換体が deletion mutant と類似した細胞内局在を示し,これらのアミノ酸残基が AQP5 の細胞膜移行に重要であると予測された.これらの AQP5 C 末端の変異体は,小胞体およびゴルジ体に蓄積されることはなく,また,エンドサイトーシスによる細胞内取り込みも本局在異常には関与しないと考えられた.一方,AQP5 の C 末端変異体は細胞質内において,オートファゴソームマーカーである LC3 および p62,リソソームマーカーである LAMP1 と共局在していたことから,オートファジーによってタンパク質分解を受けていることがわかった.これらの結果は,C 末端領域に異常を生じた AQP5 がオートファジー依存的な品質管理に陥る可能性を示唆している.
一方,ERM タンパク質の一種である ezrin の AQP5 の細胞膜移行に対する役割は,MLE-12 細胞に,wild type(ezrin-WT)および C 末端側の actin-binding domain を大きく欠失させた dominant negative ezrin(ezrin-DN)を遺伝子導入することで調べた.Ezrin-WT および ezrin-DN を導入した細胞間に,定常状態での AQP5 の細胞膜発現量および細胞内局在に著明な違いは確認されなかった.しかし,興味深いことに,Ca2+イオノフォアである ionomycin を処理して AQP5 の細胞膜移行を促進させると,ezrin-DN を導入した細胞では ionomycin 処理によって生じた AQP5 の細胞膜移行がほとんど生じなかった.また ionomycin刺激依存的な AQP5 の細胞膜移行は ezrin の阻害薬である NSC305787 (10 µM) の共処理によって阻害された.これらの結果から,AQP5 の細胞膜移行に関わる機序は恒常的な細胞膜局在に関わるものと刺激依存的に生じるもので異なることが示唆され,ezrin はそのうちの刺激依存的な機序に選択的に関与していると推定された.

第 4 章では,抗 AQP5 自己抗体による AQP5 の細胞内局在に対する薬理学的な調節を試みた.当研究室では先行研究により,漢方薬の清肺湯および気道クリアランス促進薬の eprazinone が AQP5 の細胞膜移行を促進することを見出されている.そこで,MLE-12 細胞を標本として,SjS-IgG によって引き起こした AQP5 の細胞内局在化に対するこれらの薬物の作用を調べたが,清肺湯および eprazinone はともに,これを一部抑制することがわかった.さらに,SjS 病態にも関わるとされるサイトカイン TNF-α およびIL-6 の処理は,AQP5 の mRNA 発現そのものを減少させたが,清肺湯はこれらサイトカインによる AQP5発現の減少を一部抑制した.

以上,本研究では AQP5 の細胞膜局在に着目し,1)SjS 患者の血清中に存在する抗 AQP5 自己抗体がエンドサイトーシスとタンパク分解を引き起こすことで,細胞膜上の AQP5 量を減少させること,2)AQP5 の C 末端領域は恒常的な細胞膜移行に重要であり,一方,刺激依存的な細胞膜移行には ezrin が重要であること.さらに,3)清肺湯および eprazinone を用いることで,薬理学的に細胞膜上の AQP5 量を増加させることが可能なことを示した.本成績は,AQP5 の細胞膜局在制御機構を初めて詳細に解析したものであり,外分泌機能異常に対する治療薬につながる有用な基礎データであると考えられる.