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大学・研究所にある論文を検索できる 「野生鯨類の疾病に関する病理学的研究 -特にアミロイドーシスと肝吸虫症について―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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野生鯨類の疾病に関する病理学的研究 -特にアミロイドーシスと肝吸虫症について―

中郡, 翔太郎 岐阜大学

2020.03.13

概要

鯨類は海洋生態系の高次に位置する長寿動物であることから、環境変動や海洋汚染の指標として用いられている。鯨類の健康状態の把握が環境の健全性の評価につながるため、国外では体系的な病理学的解析が盛んであるが、日本周辺域の鯨類を対象とした同様の調査報告は乏しく、個体群の健康状態は把握できていない。本研究は日本近海に生息する野生鯨類に対し、病理学的手法を用いた疾病の網羅的な解析を行うとともに、特にオウギハクジラMesoplodon属鯨類に見出された全身性アミロイドーシスと肝吸虫症の病態解明を目的として、比較病理学的研究を実施した。

第 I 章では、2013–2018年にかけて北海道沿岸にて漂着・混獲された11 種 80 頭の野生鯨類を対象に疾病の網羅的検索を行った。調査の結果、スジイルカStenella coeruleoalbaは高率(9/10 頭)に中枢神経系の炎症性疾患に罹患していることや、新生子を除いたほとんどの鯨類(64/69 頭)は寄生虫症を患っている状況が明らかとなった。また、全身性アミロイドーシスは11 種の中でもオウギハクジラM. stejnegeriの3 頭中 2 頭でのみ診断された。また、沈着アミロイドは抗アミロイドA(AA)抗体に陽性を呈した。オウギハクジラにおける全身性アミロイドーシスは過去にも3個体の散発的な報告が知られているが、本研究により、鯨類の中でも本種は全身性アミロイドーシスに対する罹患率がとりわけ高い可能性が示された。

第 II 章では、オウギハクジラにおけるアミロイドーシスの病態解明を目的に、1994–2018年にかけ日本沿岸に漂着したオウギハクジラ35 頭の病理学的解析を実施した。解析個体は雌 16 頭および雄 19 頭よりなり、成獣が多かったものの、様々な成長段階の個体が含まれていた。全身性アミロイドーシスは雌 7 頭および雄 5 頭の計 12 頭に確認され(発生率 34.3%)、一番若齢な個体は約 2歳齢であった。沈着は全身諸臓器にみられたが、最も高率かつ高度な沈着は胃腸管の粘膜固有層で認められた。ウェスタンブロットによるアミロイドのタンパク質解析では、約 9 kDaの位置にAAとの特異的な交差反応を示す陽性バンドが検出された。オウギハクジラにおける全身性AAアミロイドーシスは性別や栄養状態、慢性炎症の有無と有意な関連はなく、発生原因の特定には至らなかった。しかしながら、漂着個体群の中の罹患率が34.3%と非常に高かった点や幼齢個体においても疾患がみられる点など、種としてアミロイドーシスの発生に対する遺伝的素因を有する可能性が示唆され、個体群への影響が懸念された。

第 III 章では、今までに病理学的情報が全く知られていなかったハッブスオウギハクジラM. carlhubbsiで発見した肝吸虫症について、病理学的、寄生虫学的、および環境毒性学的に検討した。本例の肝吸虫症は組織学的には、胆管上皮の杯細胞化生を伴う高度な過形成と周囲肝実質における肝細胞の消失を伴う著しい細胆管反応を特徴とした。また、寄生吸虫は形態観察により、今までオウギハクジラにおいて1例のみ報告があるOschmarinella macrorchisと同定され、遺伝子情報を初めて明らかにした。さらに、鯨類の寄生虫感染は、宿主動物の汚染物質蓄積状態に相関するとの近年の研究結果を踏まえ、本個体における残留性有機汚染物質の汚染動態を、肝吸虫感染を伴わない同種の雄 3 頭と比較した。その結果、肝臓では本個体のみに高値を示す化合物は検出されず、両者の関連性は結論付けられなかった。

第 IV 章では、 Brachycladiidae 科吸虫によるハクジラ類の肝吸虫症における病理組織像および免疫応答の差異を明らかにするため、ネズミイルカPhocoena phocoena 8 頭、イシイルカPhocoenoides dalli 8 頭、ならびにハッブスオウギハクジラ2 頭における病理組織像および8 種類の抗体を用いて浸潤細胞の解析を試みた。近縁種であるネズミイルカとイシイルカは胆管壁におけるリンパ濾胞の多発など、類似した組織像を呈したものの、浸潤細胞としてはネズミイルカでCD68 陽性マクロファージが、イシイルカでCD163 陽性マクロファージが有意に多いことが判明した。また、ハッブスオウギハクジラでは明瞭なリンパ濾胞は認められず、細胆管反応が顕著であり、ネズミイルカPhocoenidae 科の2 種と比べCD204 陽性マクロファージの数が多かった。いずれの種においても線維化が顕著にみられ、CD68とIba1 陽性細胞が少なく、CD163とCD204 陽性細胞が多いというマクロファージの免疫表現型から、解析に供したハクジラ類の肝吸虫症は慢性期にあたる病変であることが示唆された。以上より、鯨類は肝吸虫に対して種ごとに多彩な組織反応を有し、免疫応答にも差異を有することが明らかとなった。

一連の結果から、これまであまり病理学的研究が進んでいなかった日本周辺海域の野生鯨類における疾病罹患状況が明らかになった。特に全身性AAアミロイドーシスならびに肝吸虫症についてはその詳細な病理学的特徴を見出した。これらの情報は今後、鯨類の保全において重要な基礎的情報になると考えられる。

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