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大学・研究所にある論文を検索できる 「茨城県の犬に感染するAnaplasma phagocytophilumの分子疫学研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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茨城県の犬に感染するAnaplasma phagocytophilumの分子疫学研究

福井, 祐一 岐阜大学

2020.03.13

概要

Anaplasma phagocytophilumは偏性細胞内寄生細菌であり、マダニ媒介性人獣共通感染症を引き起こす。本感染症はヒトの医学領域では欧米のみならず日本でも感染症発症例が報告されている。獣医学領域でも欧米において反芻動物、馬、および犬の感染症として周知されている。日本ではこれまで野生動物および牛からA. phagocytophilum 遺伝子は検出されていたが発症個体は報告されていなかった。私は2014年に犬の感染症発症例を本邦で初めて発見したが、日本における本菌の臨床的特徴や分子生物学的性状、さらに犬の感染状況やベクターのマダニ種や保菌動物について不明であった。そこで本研究では、茨城県の犬に感染するA. phagocytophilumの分子疫学の解明を試みた。

第1章ではA. phagocytophilum感染症発症犬の臨床的特徴と原因菌の分子生物学的性状を解析した。2016~2018年に茨城県つくば市および守谷市にて本感染症と診断した犬 6例はいずれも元気消失、発熱および血小板数減少を認め、末梢血ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)にて本菌遺伝子が検出された。血液塗抹標本が保存されていた2例で本菌が好中球細胞質内で増殖して形成される桑実胚が確認された。全例とも抗菌剤治療により治癒し、回復期末梢血のPCRは陰転し、本菌に対する抗体価の上昇を認めた。初診時の血液が保存されていた3 症例から得られたA. phagocytophilum 16S rRNA 遺伝子の系統解析では、欧米のヒト患者や犬から検出されたA. phagocytophilumと相同性が高かった(99.3-99.7%)。また、本菌のクエン酸合成酵素遺伝子gltAおよびヒートショックタンパク質遺伝子groELについても解析したところ、16S rRNAと同様に欧米株との高い相同性が確認された。発症犬 6例の臨床症状、臨床病理学的所見および予後は欧米での報告と極めて類似しており、遺伝子配列も高い相同性を示したことから、日本の犬に感染するA. phagocytophilumは欧米のヒトや犬に感染するA. phagocytophilumに類似することが示唆された。

第 2 章では2016~2017年に茨城県の6 軒の動物病院に来院した無症状の犬 332 頭の血液を対象にAnaplasma属細菌の感染状況を調査した。蛍光抗体法(IFA)にて抗Anaplasma属抗体を検出するとともに、Anaplasma 科細菌特異的プライマーを用いたスクリーニングPCRを実施した。スクリーニングPCR 陽性例についてはA. phagocytophilum 特異的 nested PCRを実施するとともに遺伝子を解析した。IFAでは血清が保存されていた328例中 7例(2.1%)が陽性を示した。PCRでは全血が保存されていた331例中 8例(2.4%)が陽性を示したが、
A. phagocytophilum 特異的 PCRではうち1例が陽性であった。この陽性例の遺伝子解析では、第 1 章の発症犬由来A. phagocytophilum 遺伝子と高い相同性(97.1%)を示した。本章の結果より、全国調査のIFA 結果(0.2%)よりも茨城県では高い抗体陽性率が認められ、またA. phagocytophilumに不顕性感染しているイヌの存在が明らかになった。

第 3 章では茨城県におけるマダニのAnaplasma属細菌の感染状況を調査した。つくば市および守谷市の発症犬がマダニに刺咬されたと推察された場所において2016~2017年に旗振り法を用いてマダニを採取し、その種とマダニの発育ステージを同定後、Anaplasma科細菌特異的 PCRを実施した。陽性例については16S rRNAの遺伝子を解析した。つくば市で採取したマダニ325匹では特異的 PCRは全ての個体で陰性だったが、守谷市で採取したマダニ759匹中 26サンプルが陽性を呈した。うちフタトゲチマダニ幼ダニ3サンプルから第 1 章の発症犬由来A. phagocytophilum 遺伝子と高い相同性(96.6-100%)を示す配列が検出された。本章の結果より、フタトゲチマダニが本菌のベクターであると考えられた。

第 4 章ではA. phagocytophilumの保菌動物と考えられる野生小型哺乳動物の感染状況を調査した。2018年4~6月に茨城県と千葉県で捕獲されたネズミやモグラ11個体の脾臓からDNAを抽出後、A. phagocytophilum 特異的 nested PCRを実施して遺伝子解析を行った。11個体のうち茨城県土浦市のアカネズミ1個体から第 1 章の発 症 犬 由来A. phagocytophilumと99.8%の相同性を示す遺伝子配列を検出した。本章の結果より、アカネズミが茨城県におけるA. phagocytophilumの保菌動物であることが示唆された。

以上より本研究では、茨城県の犬に感染するA. phagocytophilumは欧米のヒトおよび犬由来に近縁な系統であり、臨床症状や臨床病理学的所見も極めて類似することが明らかとなった。また、流行地の茨城県の犬の調査からA. phagocytophilumの不顕性感染犬が存在することも明らかになった。さらに、同地域のフタトゲチマダニおよびアカネズミからも相同性の高いA. phagocytophilum 遺伝子が検出されたことから、我が国の流行地におけるA. phagocytophilumの分子疫学を解明することができた。

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