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大学・研究所にある論文を検索できる 「牛伝染性リンパ腫ウイルスと牛フォーミーウイルスの感染動態および分⼦疫学的解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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牛伝染性リンパ腫ウイルスと牛フォーミーウイルスの感染動態および分⼦疫学的解析

岡本, 麻里 東京大学 DOI:10.15083/0002006907

2023.03.24

概要





















岡本

麻里

レトロウイルスは畜産衛生上、無視できない存在であるが、症状が顕在化せ
ずにウイルスゲノムが宿主 DNA に組み込まれ、生涯感染が持続するといったユ
ニークな特徴・動態のため、その病原性や性状については未解明の点も多い。日
本で問題となっているレトロウイルスのひとつに、牛伝染性リンパ腫ウイルス
(BLV)があり、全身性の悪性リンパ腫/白血病を主徴とする地方病性牛伝染性
リンパ腫(EBL)の原因となる。EBL 発症やプロウイルス量(PVL)に関与す
る宿主要因のひとつとして BoLA と呼称されるウシ主要組織適合性遺伝子複合
体(MHC)がある。BoLA-DRB3 遺伝子アレルが BLV の PVL や病態に関係し
ているとされるが、母子感染との関係性は論じられてこなかった。また BLV と
同じレトロウイルス科でスプーマウイルス亜科に分類される牛フォーミーウイ
ルス(BFV)は、欧米諸国や中国、日本に存在するが、日本の BFV の疫学やゲ
ノムの特徴は明らかにされていない。本研究では、BLV および BFV の感染や病
原性に影響する因子の解明を目的として BLV の母子感染における感染動態、
BFV の分子疫学や BLV との関連、また BFV の生体内および試験管内の動態を
解析した。
第 1 章では母子感染した牛と妊娠牛における BLV 関連因子の動態を調査した
ところ、母子感染群では非母子感染群より分娩時の PVL、リンパ球数が有意に
高かった。さらに、感受性アレルを持つ母牛では、感受性アレルを持たない母牛
と比べて有意に高い確率で母子感染が見られ、抵抗性型の母牛では PVL にかか
わらず母子感染が起こらなかった。1 歳齢以上で BLV に水平感染した陽転群と
それ未満で感染した早期感染群で BLV の動態を調査し、PVL 値を比較したとこ
ろ、有意差は見られなかったものの、早期感染群でより増加率が高く、感受性型、
中間型で抵抗性型の牛より PVL 増加率が高い傾向だったことから、早期感染牛
が BLV 感染源となる可能性が考えられた。本章から、BoLA-DRB3 アレルは母
子感染にも影響を及ぼすことが示唆されたと論じている。
第 2 章では、日本における BFV 疫学およびその塩基配列の特徴を調査し、
BLV 感染状況との相関を解析した。茨城県、鹿児島県、北海道、宮城県の4農

場で全血サンプルを採材し、env 領域の PCR で感染率を調査した。また、BFV
感染牛の末梢血単核細胞をハムスター腎由来(BHK21)細胞と共培養すること
で BFV を分離し、全長ゲノムの塩基配列を決定した。その結果、BFV は地理的
に離れた 3 農場で検出され、個体レベルでの BFV 感染率は平均 12.7 %だった。
env 領域についての系統樹解析で、茨城株、鹿児島株、神奈川由来の No.43 株
はアメリカ株や中国株と同じクラスターに分類されたが、北海道株はヨーロッ
パ株を含む別のクラスターに分類された。BLV と BFV では感染の有無や PVL
に相関は見られなかったが、どちらも年齢の増加とともに感染率が上がってい
た。本章から、日本では BFV が広い地域に分布し、国内の BFV ゲノムにバリ
エーションが存在することが示されたと論じている。
第 3 章では、3頭の BFV 陽性牛とその分離株について BFV の動態を解析し
た。本研究で構築された定量リアルタイム PCR を用いて BFV 陽性牛の末梢血
中の BFV を定量した結果、2年半に渡って PVL は低い値で維持されていた。
培養細胞では BHK21 細胞の継代の過程で PVL の増加、CPE の出現に対応し、
env から bel-1 の一部領域の欠失が観察されたが、牛腎由来株化(MDBK)細胞
と牛胎仔筋肉(BFM)細胞では CPE は見られなかった。BFV は細胞への馴化
により、急速に増殖し細胞を障害する能力を持ったこと、非自然宿主であるハム
スター細胞で CPE とともに env から bel-1 の一部領域の欠失が見られたこと
から、BFV の種を越えた感染や病原性の可能性が示唆されたと論じている。
本研究より、BLV の母子感染の頻度に BoLA-DRB3 アレルが関与しているこ
とが示唆された。BLV に加え BFV も、日本において広く存在していることが証
明され、様々なルートで侵入・浸潤していると考えられる。BFV は牛の生体内
で安定し、低い値で維持されているが、BFV の種を越えた感染や病原性の可能
性も論じている。これらのレトロウイルスに関する知見は今後のレトロウイル
ス研究の推進とともに畜産衛生管理の観点から有用であり、予防やレトロウイ
ルスの病原性のメカニズム解明に寄与すると考察している。
これらの研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審
査委員一同は本論文が博士(獣医学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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