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大学・研究所にある論文を検索できる 「宮城県におけるサポウイルスの集団感染と孤発例の遺伝子解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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宮城県におけるサポウイルスの集団感染と孤発例の遺伝子解析

坂上 亜希恵 東北大学

2020.09.25

概要

サポウイルスは、プラス鎖の一本鎖リボ核酸(RNA)を持つウイルスであり、孤発性の急性胃腸炎および流行性の急性胃腸炎を引き起こす病原体として知られている。サポウイルス属はカプシドタンパク質(VP1)遺伝子の塩基配列の類似性をもとに、少なくとも 19 の遺伝子群に分かれており、ヒトに感染する遺伝子型として GI は GI.1 から GI.7 の 7 遺伝子型、GII は GII.1 から GII.8 の 8 遺伝子型、GIV は GIV.1の 1 遺伝子型、GV は GV.1 と GV.2 の 2 遺伝子型に分類される。サポウイルスと同じカリシウイルス科に属するノロウイルスでは、ここ 10 年で最も流行している遺伝子型の一つである GII.4 は、食中毒など食品を介した感染(食品媒介性集団感染)よりも、ヒトからヒトへの感染(非食品媒介性集団感染)を引き起こすことが特徴として知られている。しかし、サポウイルスでは、感染様式と遺伝学的特徴との関係についてはほとんど知られていない。そこで、サポウイルス感染症においても、遺伝子型によって感染経路に特徴や違いがあるのではないかと仮説を立て、宮城県で採取された臨床検体のサポウイルスの遺伝子型解析と文献解析を行った。

臨床検体由来のサポウイルスの遺伝子型解析は、2004 年 4 月から 2017 年 3 月までの間に、宮城県で行政検査の一環として採取され、過去にサポウイルスが検出された急性胃腸炎の外来患者 78 名の便検体(孤発例)、食品媒介性集団感染 5 事例 22 名の便検体、非食品媒介性集団感染 11 事例 33 名の便検体を対象とした。サポウイルス遺伝子の検出は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse transcription polymerase chain reaction; RT-PCR)を用い、VP1 領域の一部の塩基配列を用いて、遺伝子型解析および系統樹解析を行った。また、これまで報告されている過去の研究におけるサポウイルス集団感染例の遺伝子型と感染様式を収集・解析するため、2020 年 3 月以前に発表されたサポウイルス関連急性胃腸炎集団感染に関する研究の文献解析を行った。

文献解析では、314 件の論文を評価し、43 件のサポウイルス関連急性胃腸炎集団感染を対象とした原著論文を選定した。12 件が食品媒介性集団感染、13 件が非食品媒介性集団感染、18 件が感染様式不明であり、12 件の食品媒介性集団感染のうち、サポウイルス GI.2 は 41.7%で検出され、次いで GV.2(25.0%)、GIV.1(16.6%)の順で検出された。13 件の非食品媒介性集団感染で検出されたサポウイルスの遺伝子型は、GI.2と GIV.1 が各 18.5%、GI.1、GI.3、GII.3 が各 7.4%の順であった。本研究の文献解析では、サポウイルス GI.1による食品媒介性集団感染は検出されなかった。

宮城県の孤発例、食品媒介性集団感染、非食品媒介性集団感染におけるサポウイルスの研究対象期間全体の検出率は、それぞれ 5.3%、1.3%、2.5%であった。孤発例は研究対象期間 13 年中 4 年でのみ冬季で増加がみられ、春から初夏にかけての増加も確認された。一方、集団感染は年間を通じて発生していた。遺伝子型解析の結果、同一の集団感染から検出された遺伝子型は一種類のみであり、遺伝子型の分布では、GI.1(36.4%)が優勢で、GII.3(17.0%)、GII.1(13.6%)、GI.2(12.5%)、GV.1(9.1%)と続いた。孤発例(34.7%)および非食品媒介性集団感染(63.6%)では GI.1 が最も多く検出されたが、食品媒介性集団感染では検出されなかった。患者の年齢分布は食品媒介性集団感染では 15 歳以上が有意に多く、非食品媒介性集団感染と弧発例では 15 歳未満が有意に多かった。加えて、感染様式に関わらず、15 歳以上の年齢層では GI.1 の検出割合は有意に低かった。また、集団感染事例の中には、同一の遺伝子型による弧発例に続いて発生したものがあった。宮城県での調査と文献解析ともに、食品媒介性集団感染はホテルやレストランで発生していたのに対し、非食品媒介性集団感染は保育園や小学校で発生していた。

ノロウイルスでは、遺伝子型によって遺伝子変異の起こりやすさやウイルスの進化パターンが異なるとされ、遺伝子変異が起こりにくい遺伝子型(非 GII.4)では、小児期にこのウイルスに曝露して感染することによって得た獲得免疫が成人期に再度曝露した際に機能することで、ウイルスの再感染が起こりにくいと考えられ、結果として患者の分布が小児に偏るとされる。一方、遺伝子変異が起こりやすい遺伝子型(GII.4)では、亜型の出現により新しい抗原性を持つウイルスが出現しやすいことから、小児期に感染していても獲得免疫が機能せず、成人でも複数回感染すると考えられている。本研究の系統樹解析において、サポウイルス GI.1 は他の遺伝子型(GI.2、GII.1、GII.3)とは異なり、VP1 領域の遺伝子変異が少なく、遺伝子変異が起こりにくい遺伝子型であると考えられた。一方、非 GI.1(GI.2、GII.1、GII.3)の VP1 領域は経時的に変異する傾向があり、遺伝子変異が起こりやすい遺伝子型の可能性があった。

サポウイルス関連急性胃腸炎においてヒトから検出される遺伝子型は、食品媒介性集団感染と非食品媒介性集団感染、弧発例では異なることが示された。このことから、ヒトにおいて検出されるサポウイルスの遺伝子型の違いは、ウイルスの感染源や感染経路や患者の年齢層、および感染経路に関係している可能性が示唆された。遺伝子型の特徴によって効果的なサポウイルス感染制御方法は異なる可能性がある。

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