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大学・研究所にある論文を検索できる 「Study on Proton-Electron Coupling and Mixed-Conducting Behaviors Based on Metal Dithiolene Complexes」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Study on Proton-Electron Coupling and Mixed-Conducting Behaviors Based on Metal Dithiolene Complexes

Kimura, Yojiro 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23721

2022.03.23

概要

固体中でプロトンと電子が相関するプロトン-電子相関系は、プロトン系や電子系単独では得られない新奇な物性を発現することが知られる。そのようなプロトン-電子相関系の代表例として、プロトン・電子ドナーであるヒドロキノンとそのアクセプターであるベンゾキノンから成るキンヒドロン錯体が挙げられる。キンヒドロン錯体は、ドナーからアクセプターへプロトン・電子が協奏的に移動することで、単一の中性ラジカル分子(セミキノン)から成るプロトン-電子移動(PET)状態に相転移することが報告されている。この状態では、特異な複合物性が期待されるが、高圧印加下での詳細な物性測定は難しく、その物性は明らかでない。詳細な物性研究を行うためにも、高圧印加の主原因である中性ラジカル分子の不安定性の改善、すなわち常圧下でのPET状態の安定実現化が強く求められている。そこで、本論文では、中性ラジカル状態の安定化が期待される金属ジチオレン錯体に着目し、まず中性ラジカル状態を安定化させるための分子設計指針の確立を目指した。続いて、得られた指針を基に安定な中性ラジカル分子を合成し、新規プロトン-電子相関系の実現及びその物性解明を目指した。

 プロトンと電子が相関する安定な中性ラジカル分子の設計指針確立のために、以下の3つの理由から、金属ジチオレン錯体の中でもピラジン誘導体から成るニッケルジチオレン錯体に着目した。(1)ピラジン骨格:プロトン授受及びそれに伴う結合交替の組み換えが可能。(2) ジチオレン骨格:電子授受能を有する。(3) 置換基:化学修飾による中性ラジカル分子の安定性の制御が可能である点。始めに、密度汎関数理論(DFT)を基に、種々の置換基を導入したピラジン骨格を有するニッケルジチオレン錯体の半占軌道(SOMO)のエネルギー準位を計算し、中性ラジカル状態が電子求引基の導入により安定化されることを見出した。次に、理論計算から最も安定であると示唆されたシアノ置換体に着目し、紫外可視分光及び電気化学測定から電位-pH図を作成することで、溶液中において、シアノ基で置換された中性ラジカル分子が無置換体や電子供与置換体に比べて安定化されることを実験的にも明らかにした。続いて、プロトン-電子カップリングに対する置換基効果の評価を行った。中性ラジカル分子のプロトン脱着に伴うSOMOのエネルギー変化及び電子密度変化を計算することで、無置換体が最も大きなプロトン-電子カップリングを有することを見出した。また、単結晶X線構造解析から、プロトンの脱着に伴う結合長・結合角の変化が電子求引性のシアノ置換体よりも無置換体で大きくなることを実験的にも明らかにし、プロトン-電子相関発現に適した安定な中性ラジカル分子の設計指針を確立した。

 続いて、中性ラジカル状態のさらなる安定化に加え、プロトン-電子相関の中でも特に未開拓である水素結合中のプロトンダイナミクスと伝導電子の相関が期待されるプロトン-電子混合伝導性の発現を目指した。高電子伝導性発現のために、ピラジン骨格よりも大きな分子間π-π相互作用が期待される拡張π共役ナフトキノン骨格を
有するニッケルジチオレン錯体に着目した。上記設計指針を踏まえると、電子アクセプター性を有するナフトキノンは、中性ラジカル状態の安定化にも寄与することが期待される。また、設計指針確立の際に合成したシアノ置換体の結晶構造から、錯体分子内の4つのプロトン受容部位(ルイス塩基性部位)が部分的にプロトン化されると錯体分子間に塩基性溶媒分子が取り込まれやすくなると予測された。そこで、プロトン伝導パスの形成に適した水分子を結晶化過程で結晶中に導入することで、プロトン伝導性の付与を目指した。結晶化溶媒に水を加えることで、目的通り水分子を格子内に取り込んだ安定な中性ラジカル分子の合成に成功した。単結晶X線構造解析から、錯体分子が電子伝導パスとなる一次元π電子積層を形成し、結晶溶媒として取り込まれた水分子がプロトン伝導パスとなる水素結合ネットワークを形成し、それぞれが水素結合によって相互作用していることがわかった。直流電気抵抗測定及びナフィオン膜を電子ブロッキング電極として用いた交流インピーダンス測定から、得られた錯体が半導体的な電子伝導性を示し、かつ、プロトン伝導性を示すことを見出し、本ニッケルジチオレン錯体がπ平面系金属錯体分子から成る初のプロトン-電子混合伝導体であることを明らかにした(室温下σe = 4.1 x 10−3 S cm−1,σp = 7.2 x 10−7 S cm−1)。

 本ニッケルジチオレン錯体は、電子伝導度に比べてプロトン伝導度が著しく低いため、理想的なプロトン-電子混合伝導体の実現のためには、プロトン伝導性の向上が強く求められる。そこで、中心金属をより大きな原子半径を有する白金に置換することで、格子の拡張に由来する負の化学圧を与えることにより、プロトン伝導性の向上を目指した。単結晶X線構造解析から、得られた白金錯体がニッケル錯体と同形構造を有しながら、結晶格子の拡張に伴い水素結合ネットワーク中の水密度が低下していることを明らかにした。実際に、交流インピーダンス測定から得られた室温プロトン伝導度(σp = 8.0 x 10−5 S cm−1)は、ニッケル錯体に比べて2桁向上していることがわかった。一方で、直流抵抗測定から室温電子伝導度はニッケル錯体と同等の値であることを確認した(σe = 1.0 x 10−3 S cm−1)。以上から、大きな中心金属への置換による負の化学圧がプロトン伝導性を向上させることを明らかにし、分子性固体としては最高レベルの高プロトン-電子混合伝導体の設計指針を確立した。

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