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大学・研究所にある論文を検索できる 「Novel Prognostic Implications of Methylated RNA and Demethylases in Resected HCC and Background Liver Tissue」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Novel Prognostic Implications of Methylated RNA and Demethylases in Resected HCC and Background Liver Tissue

中川, 暢彦 名古屋大学

2021.07.16

概要

【緒言】
 肝細胞癌(HCC)は最も典型的な原発性肝癌であり、世界的に見ても癌関連死の上位に位置する悪性腫瘍の一つである。HCC にとって外科的切除は最も有効な治療の一つであるが、非常に高い再発率を有する。その特徴として背景の慢性肝炎に伴う多中心性発癌があり、その発癌機構を解析することが重要である。
 メチル化 RNA は 1970 年代に初めて報告され、近年その生物学的役割が解明されてきている。N6 メチルアデノシン(m6A)は最も豊富に見られる RNA の修飾であり、 mRNA のスプライシングや転写などの機能調節に関与していることが分かっている。また、m6A の異常が多くの悪性腫瘍で近年確認されている。
 m6A の代謝にはメチル化酵素、脱メチル化酵素、および m6A 結合タンパクが関与していることが分かっている。今回われわれは HCC 腫瘍部と非腫瘍部における m6Aおよびその関連遺伝子である脱メチル化遺伝子の発現状況と臨床的意義について検討した。

【対象と方法】
 当教室で切除された 177 例(1998-2014 年)の HCC 症例を対象とした(Table 1)。腫瘍部および非腫瘍部から total RNA を抽出し、m6A 定量解析を行った。さらに脱メチル化遺伝子である fat mass and obesity-associated protein (FTO )、 alpha-ketoglutarate- dependent dioxygenase alkB homolog 5 (ALKBH5)の発現を腫瘍部、非腫瘍部それぞれから定量的 RT-PCR で測定し解析を行った。また、公共遺伝子データベース The Cancer Genome Atlas (TCGA)を用い、同様に FTO、ALKBH5 発現に関する解析を行った。

【結果】
 当教室での HCC 腫瘍部、非腫瘍部における m6A 定量解析では有意差を認めなかったが、予後解析の結果、腫瘍部の m6A 高値は有意に全生存期間が低下していた(Figure 1)。TCGA の遺伝子発現情報を用いると、脱メチル化遺伝子の FTO と ALKBH5 は非腫瘍部と比較して腫瘍部で有意に発現が低下し、さらに ALKBH5 の腫瘍部での発現低値群は無再発生存期間が不良な傾向だった(Figure 2)。当教室の腫瘍部、非腫瘍部における脱メチル化遺伝子発現は、ALKBH5、FTO ともに腫瘍部で有意に発現が低かった (Figure 3)。非腫瘍部では、FTO 発現低値はプロトロンビン時間の低値、未分化組織と関連があり、ALKBH5 発現低値は若年、進行度と関連を認めた。腫瘍部では、FTO 発現低値は男性、腫瘍径、AFP 高値、隔壁形成陽性、進行度と関連があり、ALKBH5 発現低値は男性、腫瘍径、AFP 高値、隔壁形成陽性、進行度および門脈・肝静脈浸潤と関連を認めた(Table 2)。脱メチル化遺伝子発現について予後解析を行うと、非腫瘍部の ALKBH5 発現低値群は高値群に比べて有意に無再発生存期間が不良であった (Figure 4)。さらに、Cox 比例ハザードモデルによる単変量・多変量解析では非腫瘍部の ALKBH5 発現低値は ICG-R15、肝硬変、肝静脈・門脈浸潤と並び、無再発生存期間に関する独立した予後不良因子として抽出された(Table 3)。全生存期間に関する単変量・多変量解析では HCV 感染、AFP 高値、未分化組織、肝静脈・門脈浸潤、切除断端陽性が独立した予後因子であった(Table 4)。

【考察】
 本研究では、肝細胞癌切除例におけるメチル化 RNA と脱メチル化遺伝子の臨床的意義について評価した。HCC は一般的にウイルス性肝炎やアルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎などの慢性肝炎から発生し、外科的切除後も容易に肝内再発を来してしまう。まず HCC 切除検体の腫瘍部と非腫瘍部におけるm6A 発現を定量したが、これらに有意差は見いだせなかった。次に、m6A メチル化調節における重要な役割を持った脱メチル化遺伝子の発現を解析した。FTO と ALKBH5 いずれも腫瘍部での発現は低下しており、これらは腫瘍部での m6A 発現を増加させることを示唆されたが、今回の検討では脱メチル化遺伝子と m6A との相関性は明らかでなかった。脱メチル化酵素の高発現が単純にメチル化を促進するのではなく他の潜在的なフィードバック機構が m6A には関与していることが考えられた。さらに、予後解析では非腫瘍部の ALKBH5 発現低値が予後不良因子であることが明らかになった。HCC 症例の非腫瘍部での脱メチル化酵素は腫瘍再発に関わる機構を持っていることが示唆された。
 癌の発生や進行と RNA メチル化の関連については近年報告が増えてきている。メチル化遺伝子の methyltransferase-like 3(METTL3)は膠芽腫幹細胞との関連が報告され、 ALKBH5 についても膠芽腫幹細胞や乳癌との関連が報告されている。さらに HCC でも異常な m6A 修飾が予後と関連していることが報告されている。本研究でも m6A の高発現が全生存率の低下と関連を認めたが、今回の実験では m6A の定量に total RNAを用いており、リボソーム RNA や small nuclear RNA といった non-coding RNA も含まれるため単純に coding RNA のメチル化とは結び付けられない。これらを明らかにするために更なる検証が必要である。
 ALKBH5 は 2013 年に初めて報告された脱メチル化遺伝子であるが、HCC との関連性について明らかにしたのは本研究が初である。非腫瘍部の ALKBH5 発現が無再発生存期間における独立した予後因子であり、切除後の残肝における新規病変の発生に関与していることが明らかになった。m6A 修飾に関わる遺伝子にはメチル化酵素の’writer’や m6A を認識する’reader’なども知られており、これらの関連遺伝子に関しても更なる解析が必要である。また、HCC の進行に関わる m6A 修飾のより詳細な分子機構に関しても明らかにする必要がある。

【結語】
 HCC 症例における m6A 発現および背景肝の ALKBH5 発現は、HCC 発生や HCC 切除後の再発に関わる機構を持つ可能性がある。