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大学・研究所にある論文を検索できる 「Increased Expression of DNAJC12 is Associated with Aggressive Phenotype of Gastric Cancer」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Increased Expression of DNAJC12 is Associated with Aggressive Phenotype of Gastric Cancer

Uno, Yasuo 宇野, 泰朗 名古屋大学

2020.04.02

概要

【背景】
 進行再発胃癌の予後は依然として不良である。多様性が大きいことが特徴であるこの疾患には未だ有効性を示す分子標的治療薬は限られており、治療成績改善のためには、新規作用機序から胃癌細胞を制御しうる標的分子の同定が第一歩となる。本研究の目的は胃癌悪性度に関与する新たな遺伝子を同定し、その機能と組織中発現について解析することである。

【対象と方法】
 同時性肝転移を有する胃癌症例の切除検体から採取した胃癌原発巣組織、非癌部胃粘膜組織、肝転移巣組織を対象として次世代シーケンサーを用いたtranscriptome解析による網羅的遺伝子発現解析を行った。原発巣組織で非癌部胃粘膜組織よりも高発現であり、かつ原発巣組織と肝転移巣組織で同等の発現レベルを示す遺伝子群から候補遺伝子を選択した。14種の胃癌細胞株および非腫瘍性腺上皮細胞株を用いて、候補遺伝子のmRNA発現量を解析した。small interfering RNA (siRNA)を用いて候補遺伝子をノックダウンし、胃癌細胞株(MKN1、AGS)の増殖能、浸潤能、遊走能、接着能を解析した。胃切除術を施行した262例の胃癌症例から得た原発巣および非癌部胃粘膜組織中のmRNA発現量を定量的RT-PCR法によって調べ、予後を含む臨床病理学的因子との相関性を検討した。また1065例の多人種胃癌統合公開データベース(http://kmplot.com/analysis/)を用いて外部データによる検証を行った。

【結果】
 網羅的遺伝子発現解析の結果から、条件に合致する25個の候補遺伝子を抽出した。癌部での発現度が高いこと、成長因子シグナルや抗腫瘍薬の膜輸送に関与が想定される膜輸送蛋白であること、胃癌における役割の既報がないこと、web上で遺伝子情報が検索可能であることから、DnaJ Heat Shock Protein Family (HSP40) Member C12 (DNAJC12)を選択した(Table 1)。
 非腫瘍性腺上皮細胞株と比較して、14種の胃癌細胞株中12種においてDNAJC12mRNAの発現増加を認めた。定量的RT-PCR法とWestern blot法にてsiRNAによりMKN1とAGSのDNAJC12発現がノックダウンされていることを確認した(Fig. 1a)(Fig. 1b)。DNAJC12のノックダウンにより増殖能と浸潤能が有意に低下したが(Fig. 1c)(Fig. 2a)、遊走能と接着能には有意な変化を認めなかった(Fig. 2b)(Fig. 2c)。臨床検体を対象とした発現解析では、DNAJC12 mRNA発現量は非癌部胃粘膜組織と比べて原発巣組織中で有意に増加していた(Fig. 3a)。再発・原病死亡に対するReceiver operating characteristic曲線をもとに癌部DNAJC12 mRNA発現量のカットオフ値を定め、カットオフ値より発現が低値である139例を低発現群、高値である123例を高発現群と定義した。臨床病理学的因子との相関解析ではDNAJC12高発現は低分化型、リンパ管侵襲陽性、浸潤増殖様式浸潤性増殖、リンパ節転移陽性、進行病期と有意に相関していた。予後解析では、術後全生存期間がDNAJC12高発現群で有意に短縮していた(Fig. 3b)。外部データにおける検証でも同様に、全生存期間はDNAJC12高発現群で有意に短縮していた(Fig. 3b)。術後全生存期間に対する多変量解析にてDNAJC12高発現は独立予後不良因子の一つであった(hazard ratio 1.7; 95% confidence interval 1.07–2.72; P = 0.024)。根治切除症例のみを対象に解析すると、術後全生存期間に有意な差は認めなかったが(Fig. 4a)、術後無再発期間はDNAJC12高発現群で有意に短縮していた(Fig. 4b)。DNAJC12高発現群は術後再発率が高かったが、再発形式間での差は認めなかった(Fig. 4c)。

【考察】
 本研究では網羅的遺伝子発現解析の結果から、転移性胃癌の原発巣組織で有意に発現亢進している分子としてDNAJC12を抽出した。DNAJC12ノックダウンによって胃癌細胞の増殖能および浸潤能が有意に低下した。臨床検体を用いた発現解析では、DNAJC12 mRNA発現量は非癌部胃粘膜組織と比べて胃癌原発巣組織で有意に増加していた。DNAJC12高発現群では術後全生存期間が有意に短縮し、外部データでも再現性が示された。
 DNAJC12はheat shock protein(HSP)の一つである。HSPは分子量に基づきHSP10、HSP40、HSP60、HSP70、HSP90などに分類される。HSPは細胞がストレス条件下にさらされた際や創傷治癒過程などに発現が上昇する蛋白質の一群で、分子シャペロンとして蛋白質のフォールディング制御、集合や分解、細胞内蛋白質輸送などに関わっている。HSPは細胞の増殖や浸潤、転移、細胞死などの癌関連の機能にも影響を与えているとされ、種々の悪性腫瘍において薬剤抵抗性や予後との関連が報告されている。DNAJC12は全身のヒト正常組織中にほぼ均一に発現・分布しており、高フェニルアラニン血症の原因遺伝子の一つとしても知られている。悪性腫瘍に関する知見としては、乳癌においてエストロゲンレセプターの転写促進活性との相関性が報告されており、また直腸癌においてDNAJC12高発現は腫瘍の悪性度が高く術前化学放射線療法抵抗性と関連することが報告されている。本研究において、DNAJC12は胃癌細胞株の85%で高発現を認め、また臨床検体でも癌部で有意な発現増加を示したことから、DNAJC12は胃癌において癌遺伝子の役割を有している可能性がある。DNAJC12はDnaJ相同体グループであるHSP40に属しており、HSP70の補因子として働く。HSP40とHSP70は相互作用でATPの加水分解が促進され様々な機能を果たしている。HSP70はアポトーシスの抑制や癌の浸潤にも関わっていると報告されている。本研究において、DNAJC12の発現調節は胃癌細胞の増殖能や浸潤能に変化を及ぼしたことから、HSP70との相互作用を介して胃癌進展過程の、特に浸潤能に関与しているものと考えられた。胃癌におけるDNAJC12の役割を明らかにするためには、HSP70関連シグナルに焦点を当てたpathway解析やアポトーシス解析が必要である。

【結語】
 DNAJC12発現は胃癌悪性度を反映しており、新規バイオマーカーおよび治療標的分子となる可能性が示唆された。