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大学・研究所にある論文を検索できる 「歯根膜細胞の分化制御におけるセメント芽細胞との相互作用の意義」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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歯根膜細胞の分化制御におけるセメント芽細胞との相互作用の意義

下村, 純平 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
歯根膜はセメント質と固有歯槽骨との間隙に位置する幅0.1~0.4mmの結合組織で、歯を顎骨に固定しその機能を支持する一方で、軟組織としての性質を維持しながら咬合力に起因するメカニカルストレスを緩衝するという役割を担う。歯根膜は、主成分であるコラーゲン線維に加え、血管、神経の他、線維芽細胞、セメント芽細胞および骨芽細胞の前駆細胞、さらには未分化間葉系幹細胞などの細胞成分によって構成され、歯周組織の恒常性維持のみならず、歯周組織再生過程において極めて重要な役割を果たす。

一方、歯周病によって失われた歯周組織の再生を目的として、Guided tissue regeneration法、エナメルマトリクスタンパクや塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)の局所投与が歯周組織再生療法として開発され、臨床において一定の成果を挙げている。歯周組織の再生過程では、歯根膜に内在する組織幹細胞が増殖・遊走したのちセメント芽細胞や骨芽細胞に分化することで、同組織の再生が達成される。一方、歯周組織の再生過程を組織学的に解析した非臨床研究の結果から、上記のいずれの歯周組織再生療法においても、セメント質の再生は既存セメント質から連続的に生じることが明らかになっている。このことはセメント質表層に存在するセメント芽細胞が、隣接する歯根膜細胞のセメント芽細胞への分化に対し何らかの役割を担っていることを示唆しているものの、セメント芽細胞と歯根膜細胞の細胞間相互作用が歯根膜細胞のセメント芽細胞への分化に及ぼす影響については十分な情報がない。細胞間相互作用は、ホルモン、成長因子などの液性因子を介したparacrineシグナルと、細胞の隣接が必要となるjuxtacrineシグナルに大別され、paracrineシグナル制御は、免疫疾患や悪性腫瘍における分子標的薬の開発に応用されているだけでなく、同シグナル活性化の歯科分野における代表例としてFGF-2による歯周組織再生療法が挙げられる。一方で、juxtacrineシグナルは一部分子標的薬の対象として研究が進められていることに加え、細胞移植治療への応用が期待されている。

現在臨床応用されている歯周組織再生療法は、歯周組織に内在する未分化間葉系幹細胞の増殖促進やスペースメイキングが主な作用機序であるが、セメント芽細胞の効率的な分化誘導が可能になれば、その有効性を著しく高めることが期待できる。そこで、本研究では、歯根膜細胞のセメント芽細胞への分化過程においてセメント芽細胞が果たす役割を明らかにすることを目的とし、invitro共培養実験系を用いて両細胞間の細胞間相互作用について解析するとともに、その分子機序について検討を加えた。

【材料および方法】
ヒト歯根膜細胞(HPDL)はLonza社より購入し、不死化ヒトセメント芽細胞(HCEM)は広島大学の高田隆先生(現名誉教授)より供与されたものを実験に供した。レンチウイルスを用いてHPDLにGFP遺伝子を導入後、ピューロマイシン含有培養培地での選択培養によりEGFP強発現HPDL(GFP-HPDL)を樹立した。GFPHPDLとHCEMの細胞懸濁液を1:1の比率で混合し、同一の培養皿に培養した(直接的共培養)。12時間あるいは24時間の培養後、trypsin-EDTAを用いて細胞を回収し、セルソーターを用いてGFP-HPDLのみを分取した。分取直後にRNAを回収し、セメント芽細胞関連遺伝子の発現をReal-timePCR法にて解析した。一方で、分取後に再度培養皿に播種し、石灰化誘導培地(10mMグリセロリン酸、50g/mlアスコルビン酸含有)にて培養し、3日後の遺伝子発現を解析するとともに、18日後、30日後の石灰化ノジュールの形成をアリザリンレッド染色にて検出することで硬組織形成細胞への分化能を評価した。

直接的共培養後に認められたHPDLにおける遺伝子発現変化が、HCEM由来の液性因子によるものか否かについて検討するために、HCEM由来培養上清を50%の割合で添加した培地にてHPDLを24時間培養し、HPDLにおけるセメント芽細胞関連遺伝子の発現をReal-timePCR法にて解析した。さらにトランスウェルを使用してHPDLとHCEMを非接触環境で共培養(間接的共培養)することでHCEM由来液性因子がHPDLに及ぼす影響について解析した。間接的共培養では、トランスウェル内にHCEMを、トランスウェル下部のプレート底面にはHPDLを播種し、24時間培養した後のHPDLにおける遺伝子発現を解析した。

HCEMとHPDLの直接的な細胞間相互作用がいかなる分子機序によって成り立っているのかを明らかにするために、両細胞の直接的共培養により発現が顕著に上昇したIBSPの発現を指標として検討を行うこととした。歯根膜細胞がセメント芽細胞を含む硬組織形成細胞へと分化する過程をモニターするマーカーとしてIBSPが有用であるか否かを検討するために、RNAscope® insitu hybridization法によってマウス歯周組織におけるIbspmRNAの発現を解析した。

さらに、HPDLとHCEMの細胞間相互作用におけるWntの役割について解析することを目的とし、抗ヒトWnt3a抗体および細胞膜染色試薬を用いて、蛍光免疫染色法にてHCEM、HPDLの細胞膜上に発現するWnt3aの検出を試みた。またHPDLをRecombinantWnt3a存在下にて24時間培養し、その遺伝子発現を解析した。さらにWntシグナル阻害剤であるDickkopf-1(DKK-1)を含有した培地にてGFP-HPDLとHCEMを直接的共培養し、GFP-HPDLの遺伝子発現を解析した。

【結果】
HCEMと24時間直接的共培養したGFP-HPDLにおいて、セメント芽細胞関連遺伝子であるALPL、CEMP1、BGLAP、さらにIBSP遺伝子の有意な発現上昇が認められた。また、HCEMと直接的共培養したGFP-HPDLは、石灰化誘導培地での3日間の培養により、コントロールと比較してALPL、IBSP、CEMP1、BGLAPの有意な発現上昇を認めた。さらにアリザリンレッド染色の結果、HCEMと直接的共培養したGFP-HPDLではコントロールと比較し培養18日目と30日目において石灰化ノジュール形成の亢進を認めた。一方でHCEM由来培養上清の添加やトランスウェルを使用した間接的共培養は、HPDLにおけるセメント芽細胞関連遺伝子の発現に有意な影響を及ぼさなかった。

RNAscope® insitu hybridization法によってマウス歯周組織におけるIbspmRNAの発現を解析した結果、歯根膜に特異的に発現が認められるPlap-1とは異なり、IbspmRNAは歯根表面のセメント芽細胞と歯槽骨表面の骨芽細胞に発現が認められた。

骨芽細胞においてjuxtacrineによる分化促進作用が報告されたWntシグナルに着目し、HPDLとHCEMの直接的共培養によるHPDLのセメント芽細胞への分化誘導における役割について検討を加えた。蛍光免疫染色の結果、HCEMの細胞膜上にWnt3aの発現が検出された一方で、HPDLの細胞膜上にはWnt3aは検出されなかった。HPDLをRecombinant Wnt3aにて刺激することにより、Wnt関連遺伝子であるAXIN2、LEF1およびIBSPの発現が濃度依存的に上昇することが明らかとなった。Wnt3a刺激にて上昇したWnt関連遺伝子およびIBSPの発現は、DKK-1の存在下で有意に抑制された。

HCEMと直接的共培養したGFP-HPDLにおいてAXIN2、LEF1の発現上昇が認められた。直接的共培養におけるDKK-1の添加は、GFP-HPDLに誘導されるAXIN2、LEF1並びにIBSP遺伝子の発現を抑制した。

【結論および考察】
本研究ではセメント芽細胞との細胞間相互作用、特に直接的な細胞間接着によるjuxtacrine作用により歯根膜細胞がセメント芽細胞へ分化誘導される可能性をはじめて明らかにした。また、その分子機序としてCanonical Wntシグナルが関与していることが示唆された。

歯周病により歯周組織が破壊されると、歯根膜に内在する組織幹細胞は既存のセメント質に遊走し、表層のセメント芽細胞と接着することで自らをセメント芽細胞へと分化誘導し、セメント質の形成に寄与しているのではないかと考える。このことは、既存セメント質上に存在するセメント芽細胞がセメント質の再生において重要であることを示唆するものである。歯根膜細胞とセメント芽細胞の細胞間相互作用のさらなる解析を通じて、セメント質再生の分子メカニズムを解明することは、新たな歯周組織再生療法の開発につながるものと考えられる。

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