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大学・研究所にある論文を検索できる 「Pathological Studies on Characteristics of Rat Somatic Stem Cell-Recognizing Antibody (A3)-Labeled Cells ; in Particular, the Analyses of Organogenesis and Fibrogenesis of the Colon」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Pathological Studies on Characteristics of Rat Somatic Stem Cell-Recognizing Antibody (A3)-Labeled Cells ; in Particular, the Analyses of Organogenesis and Fibrogenesis of the Colon

仁科 嘉修 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017861

2022.12.06

概要

幹細胞は自己複製能と多分化能を有し,その性状を維持し,繰り返し増殖可能な細胞群として定義されている.成体には体性幹細胞が備わっており,組織傷害後の修復(再生・線維化)に関与するとされるが,その病理学的な役割についてはさらなる研究が必要である.このような体性幹細胞を基軸とした病態解析は「幹細胞病理学」の新たな展開に資すると考える.

悪性線維性組織球腫(MFH;現在は未分化多形肉腫と称される)は,多分化能を有する未分化な間葉系細胞に起源がある.ラットのMFHから樹立されたクローン細胞株を抗原として,MFH構成細胞に特異的なモノクローナル抗体A3が開発された.A3認識のエピトープは,胚幹細胞の細胞分化に係るとされるN型糖鎖とされる.A3は,MFH構成細胞以外に,ラットの正常組織おいて骨髄幹細胞や血管周皮細胞などの間葉系の体性幹細胞を標識することが分かった.さらに,毛包のバルジにある上皮系の幹細胞も標識する.すなわちA3はラットの上皮系と間葉系の双方に分化し得る体性幹細胞を認識する新たな抗体である.

消化管は,陰窩底部に存在する上皮幹細胞が絶えず自己複製を行うことで腸管粘膜の恒常性維持および修復が行われている.この自己複製は,陰窩周囲の微小環境(幹細胞ニッチ)によって制御されている.幹細胞ニッチ形成には陰窩周囲に分布する筋線維芽細胞が主要なファクターとされているが,その詳細は未だ明らかとなっていない.また,消化管の傷害では,粘膜にびらんや潰瘍が形成され,重度となると線維化が生じる.代表的な疾患に炎症性腸疾患がある.このような消化管の粘膜傷害後の組織修復にも消化管に存在する幹細胞が関与するとされる.消化管に出現するA3標識細胞の動態とその標識細胞の粘膜再生や線維化への関与は十分には研究されていない.

この研究では,特に,明瞭な陰窩が観察される結腸におけるA3標識細胞の特性を解明することを目的とし,第1章では結腸の発生過程と,成体の結腸におけるA3標識細胞の分布について解析した.第2章では,炎症性腸疾患,特に潰瘍性大腸炎のモデルとされるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発結腸傷害ラットモデルを作製し,粘膜上皮傷害後の上皮再生と線維化におけるA3標識細胞の関与を解析した.さらに,これまでの研究で肝,肺,皮膚の線維化の病変形成においてA3標識細胞が関与していることが示されていることから,第3章では,結腸の線維化病変に加え,シスプラチン誘発腎線維化ラットモデルを新たに作製し,これらの臓器・組織でのA3標識細胞の線維化における役割を臓器横断的に解析し,包括的な考察を行った.

第1章結腸の発生過程および成体の結腸におけるA3標識細胞の分布と特性
第1節結腸の発生過程におけるA3標識細胞の分布胎齢18日から生後20日のラット胎子および新生子の結腸を用いた.胎子および生後初期の結腸では,A3は粘膜下組織の紡錘形間質細胞と毛細血管内皮細胞を標識した.発生の進行に伴い,粘膜下組織のA3標識紡錘形間質細胞は減少し,生後15日以降ではA3標識細胞は結腸の陰窩周囲に局在した.A3に標識された紡錘形間質細胞はRECA-1(血管内皮細胞マーカー)を共発現していた.以上より,発生過程では,A3は未分化な血管内皮細胞を認識することが分かった.

第2節成体の結腸におけるA3標識細胞の分布と特性
6週齢以上の成体ラットの結腸を用いた.A3標識細胞は陰窩周囲に特異的に局在しており,特に陰窩底部で顕著であった.陰窩周囲のA3標識細胞は,Thy-1(未分化間葉系細胞マーカー)を共発現し,未熟な間葉系細胞の特徴を示すとともに,一部はCK19(未分化上皮系マーカー)を発現する特徴があった.一方で,陰窩周囲に-SMA(-平滑筋アクチン)を発現する筋線維芽細胞が認められたが,その細胞はA3で標識されなかった.免疫電顕による解析で,A3標識細胞は陰窩上皮に近接して局在していた.以上より,陰窩周囲のA3標識細胞は,未分化間葉系細胞であり,一部は未分化な上皮系細胞の特徴を有しており,筋線維芽細胞とは異なる幹細胞ニッチを構成する新たな細胞である可能性が示された.

第2章DSS誘発結腸病変におけるA3標識細胞の分布および特性
第1節DSS誘発結腸病変におけるA3標識細胞の分布
成体ラットに5%DSSを3,5,7日間投与,および5日間のDSS投与後,1,3,5日の回復期間を設けた個体から結腸を採材し,病理組織学的に解析した.投与3日目では粘膜上皮の非薄化,間質の浮腫,そして好中球,リンパ球やマクロファージなどの軽度な炎症細胞浸潤が認められた.投与5日目では,粘膜上皮の傷害・剥離に加え,陰窩構造の乱れが観察された.さらに,びらん・潰瘍が生じ,粘膜固有層に重度の線維化が形成された.投与7日目および回復1日目では,粘膜固有層と粘膜下組織において線維化が進行し,陰窩の消失と粘膜上皮の剥離が認められた.一方で,潰瘍形成部位では単層上皮細胞による被蓋上皮が形成され,上皮化(粘膜再生)が始まった.回復5,7日目では線維化形成部位に陰窩の再生が認められた.A3標識細胞は傷害初期では,対照群と同様に陰窩周囲に局在していたが,傷害の進行に伴い,変性した陰窩の周囲ではA3標識細胞は消失した.なお,線維化部位のRECA-1を発現する新生血管の内皮細胞がA3に標識された.潰瘍形成部位ではA3標識細胞が表層を覆うように集簇するとともに,その辺縁に粘膜上皮の再生が生じた.また,回復期間の線維化部位の再生した陰窩周囲にはA3標識細胞が再局在した.

第2節DSS誘発結腸病変における潰瘍表層のA3標識細胞の特性
潰瘍形成部位の表層を覆うように集簇したA3標識細胞はThy-1を共発現し,一部のA3標識細胞は,CK19発現細胞と局在が一致した.一方で,潰瘍形成部位を覆う再生しつつある上皮細胞はAE1/AE3(成熟上皮細胞マーカー)を発現していたが,直下のA3標識の集簇細胞はAE1/AE3の発現は認められなかった.また,線維化部位の-SMAを発現する筋線維芽細胞とA3標識細胞は一致しなかった.以上より,特に潰瘍部位を覆うA3標識細胞は未熟な間葉系と上皮系の双方の性質を有するレスキュー細胞と考えられた.レスキュー細胞は,骨髄から動員される細胞であり,粘膜保護および再生の足場として粘膜上皮の再生に関与するとされる.

第3章線維化病変におけるA3標識細胞の特性に関する臓器横断的解析
第1節シスプラチン誘発腎病変におけるA3標識細胞の分布
シスプラチンをラットに投与し,尿細管傷害後の腎線維化病変を作製し,A3標識細胞の分布を解析した.その結果,腎の間質線維化部位において,A3は,新生した毛細血管内皮細胞と紡錘形の間葉系細胞の一部を認識した.後者の紡錘形細胞はThy-1を共発現しており,未熟な間葉系細胞であることが示された.また,線維化部位の糸球体にA3により標識される細胞が存在した.この糸球体のA3標識細胞は,vWF発現血管内皮細胞とは一致せず,Thy-1(メサンギウム細胞マーカー)とWT-1(糸球体上皮細胞マーカー)を共発現していた.糸球体のA3標識細胞は,これら細胞の更新(恒常性)に係わる所見と考えられた.

第2節肝,肺,皮膚,結腸,腎の線維化病変におけるA3標識細胞に関する考察
線維化病変において,A3は,肝では未分化な肝星細胞を,肺では新生血管の内皮細胞を,皮膚では新生血管の内皮細胞と周皮細胞,さらには,毛包結合織鞘の未分化間葉系細胞を認識した.結腸では,第2章で示したように新生血管の内皮細胞を,そして腎では第3章第1節で示したように新生血管の内皮細胞とThy-1発現の未分化な間質細胞をそれぞれ認識することが示された.A3を発現するMFH由来クローン細胞はTGF-添加条件下において,Thy-1発現が減じ-SMA発現筋線維芽細胞に形質転換することから,これらの細胞が,線維化部位で膠原線維を産生する筋線維芽細胞に分化することで線維化が進展すると考えられた.さらには,皮膚と結腸では線維化部位の表層において,A3は未熟な上皮系細胞を認識することが分かった.A3認識の上皮系細胞は上皮化(表皮や粘膜の再生)にも寄与する可能性が示された.

総括
ラットの結腸の発生過程とDSS誘発の結腸潰瘍・線維化病変における,A3標識の体性幹細胞の分布と役割について解析し,以下の成果を得た.

1.結腸の発生過程におけるA3標識細胞は未熟な血管内皮細胞であり,陰窩の組織形成に関与することが示唆された.

2.成体の結腸におけるA3標識細胞は,陰窩周囲に見られ,それは筋線維芽細胞とは異なる未分化間葉系細胞と上皮系細胞の双方の特徴を示す細胞で,幹細胞ニッチを構成する新たな細胞と考えられた.

3.DSS誘発腸病変では,潰瘍形成部位の被蓋上皮を形成するA3標識細胞は未熟な間葉系および上皮系の双方の性質を有する細胞で,粘膜の保護および再生の足場となるレスキュー細胞として関与していることが示唆された.

4.DSS誘発腸病変においては,線維化部位において,再生しつつある陰窩上皮の周囲にA3標識細胞が再出現し,粘膜の再生に係ることが示された.

5.腎の糸球体において,A3は未熟なメサンギウム細胞と糸球体上皮細胞を認識し,糸球体構成細胞の恒常性に関与する可能性が示唆された.

6.肝,腎,肺,皮膚,結腸の線維化部位におけるA3標識細胞の分布を臓器横断的に解析したところ,A3は,新生血管構成細胞や未熟な間質細胞を認識し,それら細胞は線維化の進展に係る筋線維芽細胞の前駆細胞と考えられた.また,皮膚や結腸では,A3は,傷害後の未熟な上皮系細胞を認識し,上皮化(再生)に寄与する細胞であることが分かった.

7.A3は,ラットにおける間葉系と上皮系細胞に分化し得る体性幹細胞の解析に有用な抗体であることが示された.

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