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大学・研究所にある論文を検索できる 「心理社会的ストレスモデルマウスにおける巣作り行動に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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心理社会的ストレスモデルマウスにおける巣作り行動に関する研究

大給, 日香里 オオタビ, ヒカリ 東京農工大学

2022.05.18

概要

動物やヒトの個体間に生じる心理社会的ストレスは、様々な身体的・精神的症状を引き 起こす。特にヒトにおいては、社会生活で生じる心理社会的ストレスが精神疾患の原因と なると言われている。心理社会的ストレスモデル動物として社会的敗北モデルマウスが研 究されているが、このモデルは社会的に優位なマウスによる物理的・精神的ストレスをマ ウスに暴露して作製する。大給らの研究では急性または反復社会的敗北ストレスモデルマ ウスにおいて巣作り行動が遅延することを発見した。この巣作り行動の失調は、心理社会 的ストレスモデルの行動失調指標になりうると考えた。そこで本研究では、急性社会的敗 北ストレス(acute social defeat stress; ASDS)を暴露したマウスの巣作り行動を分子レベ ルおよび行動レベルで明らかにすることを目的とした。

第二章では、ICR マウスによる ASDS を暴露された B6 マウス(以下、ASDS マウス) の巣作り遅延を引き起こす原因の特定をするために、実験 1 および実験 2 を行った。巣作 り行動は Deacon(2006; 2012)の方法を参考にし、目視により 5 段階のスコアで評価した。 大給らの過去の研究では、ASDS を明期(11 時)に実施し、暗期(19 時)に入るまでの巣 作り行動を観察したが、ASDS の 24 時間後には ASDS マウスも健常マウスと同様の巣を構 築していた。そこで暗期が ASDS マウスの巣作り行動におよぼす影響を精査するため、実 験 1 では明期の ASDS 暴露および暗期に入る直前の ASDS 暴露がそれぞれマウスの巣作り 行動におよぼす影響を観察した。その結果、従来の報告通り明期(11 時)に ASDS を暴露 したマウスは巣作りの遅延を示し、暗期終了後には巣を完成させていた。暗期(19 時)直 前に ASDS を暴露したマウスでは、明期(11 時)に ASDS を暴露したマウスよりも巣作り を着手するタイミングが早かった。実験 2 では巣作りとストレス制御に関与する視床下部 アルギニンバソプレシン(AVP)の関係に着目した。視床下部室傍核の AVP ニューロンが 活性化すると、巣作りが抑制されると報告されている。そこで ASDS により視床下部 AVP ニューロンの活性化と AVP 濃度の上昇が起こり、巣作りが抑制されるという仮説をたてた。

まず ASDS 暴露後 1、6、24 時間の視床下部および血漿 AVP 濃度を測定した。その結果、 ASDS 暴露後 24 時間目の視床下部 AVP 濃度は対照と比較して減少したが、その他の時間 には両者に差は見られなかった。次にバソプレシン 1b 受容体拮抗薬(SSR)をマウスの腹 腔内および脳室内に投与し、ASDS 暴露後の巣作りへの影響を検証した。その結果、SSR は ASDS マウスの巣作り遅延をレスキューすることはできなかった。実験 1 および実験 2 から、ASDS マウスの巣作りは暗期暴露で促進する可能性が示唆された。また視床下部お よび末梢 AVP は ASDS マウスの巣作り行動失調には関与してないと考えられた。

第三章では、ASDS マウスの巣作り行動失調の全容を解明するために、3 次元(3D)カ メラおよびオリジナルの特殊ケージを用いた行動解析システムを開発した。カメラには赤 外線深度センサを用いたが、これによって暗期の行動データも経時的に取得できるように した。また特殊ケージでは ICR マウスと隣接したエリアに ASDS マウスを飼育し、巣作り 行動、活動量、立ち上がり(リアリング行動)、社会的忌避行動も計測できるようにした。 行動解析の結果、ASDS マウスの巣作りの抑制は、暗期に入った後の初期から徐々に解除 されることが判明した。また ASDS マウスではケージ内活動量が健常マウスよりも増加し た一方、探索行動であるリアリング行動は減少していた。ASDS マウスにおける活動量の 増加とリアリング行動の減少は、新たなうつ様行動の指標となる可能性がある。さらにこ のシステムでは、ASDS マウスの巣作りの遅延と ICR マウスへの社会的忌避の間に正の相 関の傾向が見られた。このことから、赤外線深度センサを用いて今回開発したシステムで は、心理社会的ストレスモデルマウスの多様な行動を経時的に評価できるため、モデルマ ウスの新しい行動失調の発見やそれらの失調をレスキューする分子の探索などに貢献でき ると考える。