みどりの食料システム戦略を踏まえた国際共同研究と農学系大学・学部における人材育成
概要
J Intl Cooper Agric Dev 2022; 21: 1
Journal of
International Cooperation for
Agricultural Development
巻頭言
みどりの食料システム戦略を踏まえた
国際共同研究と農学系大学・学部における人材
育成
舟木康郎
国立研究開発法人国際農林水産業研究センター社会科学領域長 / グリーンアジアプロジェクトリーダー
2022 年 12 月に開催された第 11 回 JICA-JISNAS フォーラム「食料安全保障をめぐる世界の動向と農学系大学・学
部における人材育成」において、講演の機会及びパネルディスカッションに参加する機会をいただいた。講演では
2022 年 4 月から国際農林水産業研究センター
(国際農研(JIRCAS))が実施している「グリーンアジア」を紹介した。
「グ
リーンアジア」は、2021 年 5 月に策定されたみどりの食料システム戦略を踏まえて農林水産省が予算化した「みど
りの食料システム基盤農業技術のアジアモンスーン地域応用促進事業」
(実施機関:国際農研)の国際農研でのプロジェ
クト名である。パネルディスカッションにおいては、農学系大学・学部における人材育成の役割を問われ、筆者は
帰国留学生による国際共同研究への参加、及び所属研究機関と日本の研究機関の共同研究実施における橋渡しの
重要性について見解を述べた。これについて筆者が関わった最近の事例を御紹介したい。
「グリーンアジア」では、技術の応用を促すため数か国で応用研究を開始しており、その一つとしてバングラデシュ
稲研究所(Bangladesh Rice Research Institute:BRRI)と国際農研の間で、「イネいもち病抵抗性判別システムを活
用した病原性の評価と育種系統群利用による農薬低減技術」及び「GHG 排出削減と生産性向上を両立する間断灌漑
技術」の2つの応用研究を行うこととなった。2023 年 2 月には、上記の2つの研究に係る両研究機関の連携強化及
び研究促進の観点から、農林水産省幹部及びバングラデシュ日本大使館員の参加を得て BRRI にてキックオフ会合
を開催した。その準備において BRRI 側の窓口・橋渡し役を担ったのが、国際農研とのイネいもち病に関する国際
共同研究に参加している BRRI 植物病理部門 No.2(副部門長級)の Mohammad Ashik Iqbal Khan 博士(Ashik 氏)で
あった。
Ashik 氏は、バングラデシュ農科大学で農学を修めた後、文部科学省の奨学金を得て佐賀大学で修士号、鹿児島
大学大学院連合農学研究科(佐賀大学)で博士号を取得(2009 年)し、2012 年 9 月から 2013 年 2 月まで JIRCAS フェロー
として、更に 2014 年 11 月から 2 年間、日本学術振興会博士研究員として国際農研に在席した。キックオフ会合に
向けて、同氏は自らの専門分野を超えて、間断灌漑研究分野を含めた議題設定や BRRI 所長を含む幹部・研究者の
参加について調整・とりまとめを行った。その結果、同会合の準備は周到に行われ、会合自体も成功裏に終える
ことができた。国内の農学系大学・学部で育成された留学生の一人が時を経て更に経験を積み、今、みどりの食
料システム戦略を踏まえた国際共同研究のパートナーとして大いに活躍している。
最後に、本誌の益々の発展を願いつつ、上記のキックオフ会合開催のために Ashik 氏とやり取りしたメールの中
から同氏のメッセージを本人の許可を得て掲載することにより、巻頭言の筆を擱くこととしたい。 ...