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大学・研究所にある論文を検索できる 「新規マウス静脈血栓塞栓症モデルを用いた静脈血栓と肺塞栓の生体イメージング」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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新規マウス静脈血栓塞栓症モデルを用いた静脈血栓と肺塞栓の生体イメージング

Okano, Mitsumasa 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
深部静脈血栓症 (DVT; deep venous thrombosis)と、それが遊離、飛散して起こる肺塞栓症という二つの連続した病態概念である静脈血栓塞栓症は、心血管死の死因の上位を占める。近年、動物血栓モデルを用いた生体イメージング研究の発展によって、血栓形成初期における炎症細胞の重要性など、新たな知見が得られている。静脈血栓モデルの代表である下大静脈結紮モデルは、ヒト静脈血栓に類似したフィブリン血栓が形成されるが、解剖学的に体内深部に位置することや、血栓サイズの大きさから顕微鏡を用いた生体イメージング研究には適さない。一方、塩化鉄刺激や光レーザー刺激などの血栓モデルは、体表の血管に形成できることから生体イメージングには適するが、強力な内皮障害によって動脈血栓の特徴である血小板血栓を形成するため、フィブリン血栓であるヒト静脈血栓の病態解明に応用するのは困難である。多くの肺塞栓症は、静脈弁を好発部位として下肢静脈に形成された静脈血栓が遊離して、静脈血流によって肺動脈に到達することによって起こることが知られているが、このような静脈血栓塞栓症の病態を再現可能な、かつ生体イメージングにも適した動物モデルは存在しないため、静脈血栓塞栓症の病態解明のために、新規の静脈血栓症モデルの確立が求められる。

【方法】
現在の静脈血栓モデルの代表である下大静脈結紮モデルを大腿静脈に応用して、野生型マウスの大腿静脈を結紮したが、下肢静脈は複数の分枝を有し、更に数日以内に側副血行路が発達するため、血栓形成には至らなかった。既存の下大静脈結紮モデルで報告された、結紮により誘導される炎症細胞の静脈壁への接着が、大腿静脈結紮でも同様に観察可能か否かを検討するために、大腿/伏在静脈を蛍光顕微鏡で生体下に観察した結果、驚くことに、再現性を持って分単位での血栓形成が観察された。大腿/伏在静脈は、呼吸や拍動によるモーションアーチファクトの影響を受けにくく、リアルタイムの血栓形成および器質化の過程の顕微鏡を用いた高解像イメージングが可能となった。静脈血栓形成後に大腿静脈の結紮を解除することで、大腿静脈に形成された静脈血栓が遊離し、肺塞栓症を誘発させた。

【結果】
本モデルで形成された静脈血栓は、既存モデルでは再現し得なかった種々のヒト静脈血栓に類似した特徴を持っていた。一つは、血栓閉塞を伴わずに血管長軸方向に伸展するというヒト静脈血栓に類似した細長い形態を呈した。また病理学的にも赤血球とフィブリン主体の血栓であり、ヒト静脈血栓の好発部位である静脈弁ポケットへの血栓形成を世界で初めて動物モデルにおいて再現することに成功した。また、本モデルにおいては、励起光の光強度を下げることで血栓形成現象は速やかに停止し、血栓溶解が始まるという特徴を持っていた。それゆえ、静脈血栓からの塞栓子遊離の瞬間をイメージングすることにも成功した。静脈血栓形成後に大腿静脈の結紮を解除した結果、大腿静脈に形成されていた血栓は30分後には消失していた。取り出した肺の肺動脈内に、炎症細胞の集積を伴うフィブリン血栓の形成を認めた。実臨床の肺塞栓は下肢静脈に形成された静脈血栓が遊離し、肺動脈に塞栓することが知られているが、その病態の再現にも成功した。

本モデルにおける血栓形成機序に関しては、蛍光顕微鏡での観察を行わなければ、血栓形成は認められないため、蛍光顕微鏡での観察に必要な励起光照射が本モデルにおける血栓形成刺激となっていることが考えられた。静脈結紮なしでの蛍光顕微鏡による観察単独では血栓は形成されず、静脈結紮による血流低下と励起光照射の二つが血栓形成に必要であることが示唆された。検討の結果、本モデルの血栓形成は励起光の光強度と血流速度に依存的であり、一方、励起光波長には非依存的であることが明らかになった。

既存の血栓モデルで得られた知見から、血栓形成初期において血小板や好中球の役割が重要とされてきたが、本モデルにおけるマルチカラーによる血栓形成イメージングでは、血小板や白血球の内皮接着に先行した赤血球血栓の形成が見られた。本モデルの手法と類似したレーザー刺激モデルにおいて、内皮障害による活性酸素産生が血栓形成機序として考えられているため、本モデルにおいても評価したが、血栓形成時のイメージングでは活性酸素の集積は認めなかった。更に、活性酸素産生を抑制するN-アセチルシステイン投与下でも血栓形成抑制効果は見られなかった。血小板除去、好中球除去したマウスにおいて血栓形成抑制効果が見られないことからも、既存の理解とは異なり、血小板や好中球、活性酸素に依存しない血栓形成機序が示唆された。

続いて、下肢静脈は体動や動脈拍動によるモーションアーチファクトの影響 を受けにくいという利点を生かして、2光子顕微鏡を用いた血栓の観察を行った。 2光子顕微鏡による高解像イメージングによって、個々の白血球を識別できるレ ベルでの血球成分の可視化や3次元的な静脈弁ポケットの血栓イメージングに成功した。また、4次元的な各血球成分のダイナミックな挙動の観察を可能とし、静脈血栓器質化の過程において、フィブリン血栓への血小板の集積や白血球の浸潤の観察に成功した。

【考察】
実臨床に類似した特徴を持つ新規マウス静脈血栓症モデルの作成に成功した。
本モデルは、下大静脈結紮モデルの短所を克服し、リアルタイムイメージング に適しており、静脈弁を伴う下肢静脈に血栓を形成する。ヒト静脈血栓に近い フィブリン血栓を形成し、好発部位である静脈弁ポケットに血栓形成しやすく、病態生理学的にヒト静脈血栓に近いモデルであると考えられる。また、2光子顕 微鏡を用いた高解像イメージングによって、血栓の器質化過程における、近年 注目されている血小板と白血球の干渉やそれぞれの挙動などを観察可能とした。肺塞栓症は静脈血栓症に連続して起こる最大の致死的な合併症であるが、従来 の肺塞栓動物モデルは、凝固因子の全身投与や体外で作成した血栓の経静脈投 与によるもので、実臨床の病態とは大きくかけ離れていた。本モデルでは、世 界で初めて、下肢静脈に形成されたフィブリン血栓の塞栓による肺塞栓症の誘 発に成功した。微小血栓による肺塞栓を繰り返して誘発することが可能である ため、肺高血圧症の原因の一つである慢性肺血栓塞栓症モデルとしての応用も 期待される。

本研究の限界として、本モデルにおいて光照射が血栓形成を誘導する機序が解明できていない点が挙げられる。血栓形成初期において血小板や好中球に依存しないことから、従来の理解とは異なり、血小板や好中球に依存しない血栓形成機序が示唆された。また、蛍光顕微鏡の励起光照射による血栓形成は、既存のレーザー刺激モデルに類似した手法ではあるが、レーザーと比較して微弱な光強度および大血管を使用していることが影響して、血小板集積の目立たないフィブリン血栓が形成されるものと推測される。

【結論】
我々の新規マウス静脈血栓症モデルは、既存の血栓動物病態モデルと比較して、ヒト静脈血栓症に類似した特徴を持ち、血栓形成および器質化の過程をリアルタイムで生体イメージングするのに適する。本モデルは、分子レベルでの静脈血栓症の病態解明に有用と考えられる。

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