Disappearance pattern and the last remaining earliest pulmonary vein potential during cryoballoon ablation in predicting recurrence and conduction gap site of pulmonary veins
概要
【緒言】
心房細動アブレーションにおいて、クライオバルーンによる肺静脈隔離術(PVI)の有効性は広く認知されている。クライオアブレーションによる PVI の有効性の指標として、冷却後から肺静脈隔離が完成するまでの時間(time-to-isolation: TTI)がある。TTIはアブレーション後の心房細動再発の予測因子であり、TTI が短い方が後の肺静脈電位の再発が少なくなる。しかしながら、TTI は肺静脈電位消失の有無のみを評価した指標であり、冷却中の肺静脈電位の消失様式(シークエンス)については評価されていない。今回我々はクライオアブレーション中の肺静脈電位のシークエンスを評価し、再発率や肺静脈電位のギャップ部位との関連について検討を行った。
【方法】
238 人の発作性心房細動患者に対して 28 mm 径の第 2 世代クライオバルーンを使用し肺静脈隔離術を施行した中で、心房細動再発に対して再セッションを施行した 29 人(115 本の肺静脈)を後ろ向きに解析した。全例術後のフォローアップ時の心電図検査およびホルター心電図にて再発が確認された。心房細動再発の定義は 30 秒以上持続する心房細動および心房頻拍とし、治療後 90 日間のブランキングピリオド後の発症を再発症例として定義した。除外基準は、非発作性心房細動、過去の心房細動アブレーション歴の既往、術前心臓超音波検査で左房径 55 mm 以上、中等度以上の僧房弁逆流症を有する症例とした。クライオアブレーション時は、肺静脈内に 20 mm 径のスパイラルマッピングカテーテルを挿入し、カテーテルを出来る限り肺静脈近位側に展開し全周性に肺静脈電位が観察できるように配置した。スパイラルマッピングカテーテルで TTI が観察できた肺静脈に対して、アブレーション中の肺静脈電位シークエンスの変化を評価した。また再セッション時には、3 次元マッピングシステムを使用した電位波高マッピング、およびリングカテ―テル上の電位を指標に肺静脈伝導ギャップ部位を同定し高周波アブレーションを施行した。PVI が再度完成した再セッション時の通電焼灼部位と初回アブレーション時の最早期肺静脈電位部位との関連を比較検討した。
【結果】
115 本の肺静脈のうち初回治療時に TTI が観察できたのは 81 本であり、PVI までの肺静脈電位の消失様式を 4 タイプに分類した(全ての肺静脈電位のシークエンスが変化せず消失; type a, 最早期肺静脈電位部位が変化して消失; type b, 最早期肺静脈電位部位を変えず他の電位が変化してから消失; type c, 最早期肺静脈電位部位を変えず他の電位が先に消失; type d, Figure 1)。各 Type 別の再発率は a = 11%, b = 25%, c = 57%, d = 89%であった(p < 0.001, Figure 2)。再発が確認された 22 本の肺静脈において type c または d の割合は 55%であり、非再発の肺静脈 59 本では 6.8%であった(Table 1)。多変量解析の結果、type c または d の電位消失様式は肺静脈電位再発の独立した予測因子であった(オッズ比 14.4; 95%信頼区間 3.75–55.5; p < 0.001)。
一方、TTI は独立した予測因子とはならなかった(Table 2)。再セッション時に肺静脈電位再発を認めた 22 本中 19 本(86%)において、肺静脈伝導ギャップ部位は初回セッション時における PVI 直前まで残存した最早期肺静脈電位部位と一致していた(Table 3)。さらに、患者毎での type c または d の本数は、肺静脈再伝導を有した患者では平均 0.8 本であったが、肺静脈再伝導の無かった患者においては type c と d は認めなかった(Table 4)。
【考察】
本研究はクライオアブレーション中の肺静脈電位のシークエンス変化と肺静脈電位再発率の関係を評価した初めての報告である。最早期肺静脈電位部位が変化しないにも関わらず他の部位が変化する場合(type c または d)では、最早期肺静脈電位部位の冷却が不十分であることが示唆され、後の伝導再開の要因になり得ることが考えられた。また、初回アブレーション時における PVI 直前の最早期肺静脈電位部位の多くが、後の肺静脈伝導ギャップ部位と一致することが確認された。肺静脈の形状によっては肺静脈とバルーンの接触が不均一となることがあり、接触が不十分な部位では十分な凍結病変を形成することができないため、再伝導の一因になることが考えられる。最早期肺静脈電位部位が変化しなかった type c または d は、全冷却時間で一貫して同部位にバルーンの接触が不十分であった可能性がある。最早期肺静脈電位を注意深く観察し再発部位を予測することで、再セッション時に不必要な通電を避けることができ、過剰な通電による肺静脈狭窄などの合併症を回避できる可能性がある。また、再伝導部位となりやすい最早期肺静脈電位部位へ、予めバルーンを追加で押し付けて治療範囲・深度を増加させることで肺静脈伝導の再発率が減少する可能性があるが、これに関しては更なる検討が必要である。本研究の限界点としては、再アブレーションを行った症例のみを対象としており、再アブレーションを施行していない症例に関しては評価していない。約 30%の肺静脈で初回アブレーション時に TTI が観察できておらず、またスパイラルマッピングカテ―テルを肺静脈に垂直に当てることができない症例もあるため、最早期肺静脈電位部位が厳密に評価できない場合がある。本研究は単施設の少数例での検討であり、今後はさらに多くの症例での評価が望まれる。
【結語】
発作性心房細動に対するクライオアブレーション中の肺静脈電位のシークエンス変化と肺静脈電位再発率は有意に関連していることが確認された。クライオアブレーション中の電位変化を注意深く観察・評価することにより、後の肺静脈電位の再発や伝導ギャップ部位を予測出来る可能性があり、さらなる治療成績の向上が期待できる。