リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「有機触媒を用いたステロイドおよび軸不斉分子の新規高立体選択的合成および固相担持型diphenylprolinol alkyl etherの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

有機触媒を用いたステロイドおよび軸不斉分子の新規高立体選択的合成および固相担持型diphenylprolinol alkyl etherの開発

越野 晴太郎 東北大学

2021.03.25

概要

有機合成化学の発達が⽂明社会の発展に⼤きく寄与していることは論を俟たない。有機合成化学の社会貢献の⼤きな⼀つの形は、社会的な要求に対応する形で⽬的物を合成し供給することである。⽬的の物質が天然から潤沢に得られる場合を除き、有機合成化学は多種多様な医薬品や農薬、光学材料などを⽣み出し我々の⽣活を豊かにしてきた。しかし⼊⼿容易な原料より⽬的物へ定量的に変換できることが理想的ではあるものの、⼀般的に有機化学反応は原料を単に混合するのみで⽬的の反応のみを選択的に進⾏することは少ない。そのため⽬的の反応のみを促進し合成を効率的に⾏うために、触媒の開発と利⽤が有機合成化学における重要な課題として発展してきた。

触媒を⽤いた化学は古典的には⽔素添加における Pd や⽩⾦などの貴⾦属単体の利⽤や Fisher エステル化における硫酸の添加などにあるように触媒、反応ともに単純な系に始まったが、近年では⾮常に複雑かつ精密に設計された触媒を⽤いた化学が科学における最重要領域へと成⻑した。例として Pd を⽤いたカップリング反応はこれまで困難とされてきた多くの結合の⾼効率での形成を可能にした[1]。また、Grubbs 触媒などの Ru カルベノイド錯体はオレフィンメタセシスへの応⽤で開花し、逆合成の多様性を⾶躍的に向上させた[2]。また近年では Ir を中⼼⾦属とした photoredox 触媒系が、これまで他の遷移⾦属触媒では困難であった結合形成を可能にするという点で⼤きな注⽬を集めている[3]。しかし、これらの遷移⾦属は埋蔵量、および毒性の課題が指摘され、またその流通量が政治的状況に左右されるなどの問題も⼤きく、遷移⾦属の供給に依存しない触媒の開発は有機合成化学における重要な課題である。

⼀⽅で、遷移⾦属を含有しない触媒として、有機低分⼦そのものを触媒として⽤いる試みも古くから⾏われている。Hajos らおよび Eder らのグループはそれぞれ独⽴にプロリンを有機触媒として⽤いることでトリケトン 1 の不⻫ Robinson 環化反応が⽴体選択的に進⾏することを報告し、⽣成物 2 は近年でも様々な化合物の全合成に広く利⽤されている (式 1) [4]。この分野は 2000 年の List, Barbas らのプロリンを⽤いた不⻫ Aldol 反応 (3+4 to 5)(式 2)[5]および McMillan らによるキラルイミダゾリジノンを⽤いた不⻫ Diels-Alder反応 (6+7 to 8)(式 3)[6]の開発に刺激され、また有機触媒という名前を得たことにより⼀挙に開花し、現在に⾄るまで爆発的な発展を遂げている (Figure 1)。その過程で、当初のプロリン型⼆級アミン触媒を⽤いたエナミン-イミニウム形式のみならず、相間移動触媒、キラルリン酸や、チオウレアなどの汎⽤有機酸触媒など様々な形式で反応を促進する有機触媒が開発され、広く利⽤されている[7]。

Diarylprolinol silyl ether は上記の背景の中で 2005 年に Hayashi, Jorgensen らによってそれぞれ独⽴に開発された有機触媒である[8]。Jorgensen らは 2005 年、アルデヒド 9 とスルファニルトリアゾール 10 を⽤いた不⻫スルファニル化反応において diarylprolinol silyl ether が⾼収率かつ⾼⽴体選択的に⽬的物を与えることを報告した (式 4)[8a]。本反応はアルデヒド 9 と触媒から⽣じた光学活性なエナミンが⽴体選択的にスルファニル化されることで⾼い⽴体選択性が発現すると考えられている。

また、林らも同年に飽和アルデヒド 12 とニトロオレフィン 13 間における不⻫ Michael反応において、diphenylprolinol silyl ether が⾼収率、⾼⽴体選択的に⽬的物を与えることを報告した (式 5) [8b]。本反応も同様の光学活性なエナミンを鍵中間体とした反応であると推察されている。

本反応では反応後の中間体としてニトロナートが⽣成するため、これを求核種としてドミノ反応へと展開することが可能である。これを⽤いて Enders らはアルデヒド 12、ニトロオレフィン 13、不飽和アルデヒド 15 の三成分ドミノ Michael/Michael/aldol 反応が
⾼⽴体選択的かつ⾼収率で進⾏し多置換シクロヘキセン 17 を与えることを報告している (式 6)[9]。

また、2007 年林らも同様にニトロナートを活性中間体として⽣じるドミノ反応として、ニトロオレフィン 13 とグルタルアルデヒド⽔和体 18 との不⻫ドミノ Michael/Henry 反応が円滑かつ⾼エナンチオ選択的に進⾏し多置換シクロヘキサン 19 が得られることを報告している(式 7)[10]。

⼀⽅で本触媒はイミニウムを経由する反応にも広く適⽤可能である。林らは 2005 年に本触媒を⽤いた不飽和アルデヒド 15 とニトロメタンとの不⻫ Michael 反応を報告した(式 8) [11]。本反応は不飽和アルデヒド 15 と触媒から⽣じるイミニウムイオンに対し、ニトロメタンから発⽣したニトロナートが⾼⽴体選択的に付加することによって⽴体選択性が発現すると推察されている。

また、Michael 反応後の中間体がキラルなエナミンであることを利⽤し、本反応をドミノ反応に利⽤することも可能である。2005 年、Enders らは不飽和アルデヒド 15 と 2-ニトロメチルベンズアルデヒド 21 との不⻫ドミノ Michael/aldol 反応が⾼⽴体選択的に進
⾏し、光学活性ジヒドロナフタレン 22 を与えることを報告している。(式 9)[12]

上記のように、本触媒はエナミンやイミニウムを経由する様々な反応において、⾼い反応性と⽴体選択性を⽰す。これは触媒のかさ⾼い diarylmethyl trialkylsilyl ether 部位が効率的に基質の反応⾯の⽚側をブロックすることによると考えられている (Figure 2)。

また本触媒は天然のアミノ酸であるプロリンから容易に誘導されるため、安価かつ安定的な供給が可能である。以上の特徴から Diphenylprolinolsilyl ether は様々な全合成へも利⽤されている代表的な有機触媒の⼀つである。また安価かつ安定で取り扱い容易という特徴のため産業界からも着⽬されている。例として Merck は diphenylprolinol silyl etherを⽤いたニトロメタンと不飽和アルデヒドとの不⻫ Michael 反応を⽤いた偏頭痛治療薬 telcagepant の⼤スケール合成を報告している(式 10)[13]。

また本触媒は天然のアミノ酸であるプロリンから容易に誘導されるため、安価かつ安定的な供給が可能である。以上の特徴から Diphenylprolinolsilyl ether は様々な全合成へも利⽤されている代表的な有機触媒の⼀つである。また安価かつ安定で取り扱い容易という特徴のため産業界からも着⽬されている。例として Merck は diphenylprolinol silyl etherを⽤いたニトロメタンと不飽和アルデヒドとの不⻫ Michael 反応を⽤いた偏頭痛治療薬 telcagepant の⼤スケール合成を報告している(式 10)[13]。

前述のように、有機合成化学は単純で安価な原料より有機化学反応を駆使し⽬的の化合物を合成する⼿法を研究する学問である。しかし近年では環境負荷やコストの観点より、⽬的物を合成するのみでなく、いかに効率的に合成を⾏うかという観点で有機合成が評価されることが多くなった。これを受け、合成経路を評価する上で様々な評価基準が提案されている。Trost らは合成における廃棄物量の低減のためには、合成過程で利⽤される原⼦の総数を減らすべきであるという観点からアトムエコノミーの概念を提唱した[14]。また、 Wender らは⽤いる反応が少ない⽅が合成の収率の向上および精製過程などで⽣じる廃棄 物量の低減を達成できるという観点からステップエコノミーの概念を提唱した[15]。当研究 室ではこれらの概念を昇華させ、複数の反応をワンポットで連続的に⾏うワンポット反応 を活⽤することで、合成の効率化を図るポットエコノミーの概念を提唱している(Figure 3)[16]。ワンポット反応においては複数の反応を同⼀容器内で⾏うことで、合成全体の収率 の向上、反応の後処理⼯程と廃棄物量の削減、ならびに作業時間の短縮などの点において 改善が達成できる。しかしその問題点として、ワンポットで反応を⾏うことで反応系内に 前⼯程における残存基質、反応剤および副⽣物が混在することにより、望まぬ副反応およ び反応の阻害などが発⽣する場合があることが挙げられその適⽤範囲は限られていた。

⼀⽅先述した有機触媒 diphenylprolinol silyl ether は官能基選択性の⾼さおよびその反応性の穏やかさから、ワンポットにて続く反応を⾏った際に後続の反応を阻害しない場合が多いことを当研究室では⾒出している。我々はこの知⾒に基づき、有機触媒を⽤いた不⻫反応を⾏ったのち、ワンポットにて連続的に反応を⾏うことにより、これまでにオセルタミビル の 1 ポット合成[17]、プロスタグランジン E1 メチルエステル の 3 ポット合成[18]などを報告している(Figure 4)。

筆者は上記の背景をもとに、有機触媒 diphenylprolinol silyl ether を⽤いた不⻫反応を基盤とし、博⼠課程において以下の三つの研究課題について研究をおこなった。

1. 有機触媒不⻫反応を⽤いたエストラジオールメチルエーテルの効率合成法の開発
第⼀章では有機触媒を⽤いた不⻫ドミノ反応を開発し、ステロイドの部分⾻格である多置換ビシクロ[4.3.0]ノナン 35 の⾼⽴体選択的な合成法を開発した。また、これを⽤いてステロイド・エストラジオールメチルエーテルの全合成を達成した。さらにこれを Pot-Economy の概念に則り再度最適化し、5-Pot での全合成を達成した。

2. 有機触媒不⻫反応を⽤いた軸不⻫分⼦の新規合成法の開発
第⼆章、第三章では有機触媒不⻫ドミノ反応⽣成物の軸に関する⽴体化学に着⽬し、軸不⻫分⼦の合成へと展開した。その結果、中間体の軸に関する⽴体化学情報が完全に反転する系(第⼆章)、および単⼀の不⻫源から軸不⻫化合物の両エナンチオマーをそれぞれ⾼⽴体選択的に合成するエナンチオダイバージェントな合成(第三章)をそれぞれ開発した。

3. ⾼活性かつ再利⽤可能な固相担持型有機触媒の開発
第四章では有機触媒ジフェニルプロリノールシリルエーテルの有⽤性のさらなる向上を⽬指し、ポリマーへの担持によって再利⽤容易かつ⾼活性なポリマー触媒の合成について研究を⾏った。その結果、両親媒性ポリマーPS-PEG にモノマー触媒を担持したポリマー触媒 45 が、容易に回収可能かつ、⽔中で反応を⾏うことによりモノマー触媒とほぼ同等の⾼い触媒活性を⽰すことを⾒出した。

この論文で使われている画像

参考文献

[1] a) N. Miyaura, A. Suzuki, Chem. Rev. 1995, 95, 2457; b) I. P. Beletskaya, A. V. Cheprakov, Chem. Rev. 2000, 100, 3009; c) E. Negishi, L. Anastasia, Chem. Rev. 2003, 103, 1979; d) B. M. Trost, M. L. Crawley, Chem. Rev. 2003, 103, 2921; e) J. F. Hartwig, Acc. Chem. Res. 2008, 41, 1534; f) C. Cordovilla, C. Bartolome, J. M Martínez-Ilarduya, P. Espinet, ACS Catal. 2015, 5, 3040; g) D. Haas, J. M. Hammann, R. Greiner, P. Knochel, ACS Catal. 2016, 6, 1540; h) A. Biffis, P. Centomo, A. Del Zotto, M. Zecca, Chem. Rev. 2018, 118, 2249.

[2] a) T. M. Trnka, R. H. Grubbs, Acc Chem. Res. 2001, 34, 18; b) K. C. Nicolaou, P.G. Bulger, D. Sarlah, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 4490; c) A. H. Hoveyda, A. R. Zhugralin, Nature 2007, 450, 243; d) G. C. Vougioukalakis, R. H. Grubbs, Chem. Rev. 2010, 110, 1746.

[3] a) K. Kalyanasundaram, Coord. Chem. Rev. 1982, 46, 159; b) K. Zeitler, Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 9785; c) A. E. Allen, D. W. C. MacMillan, Chem. Sci. 2012, 3, 633.

[4] a) U. Eder, G. Sauer, R. Wiechert, Angew. Chem., Int. Ed. 1971, 10. 496; b) Z. G. Hajos, D. R. Parrish, J. Org. Chem. 1974, 39, 1615.

[5] B. List, R. A. Lerner, C. F. Barbas III, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 2395.

[6] K. A. Ahrendt, C. J. Borths, D. W. C. MacMillan, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 4243.

[7] Selected reviews on organocatalysis: a) B. List (Ed.), Asymmetric Organocatalysis 1; Lewis Base and Acid Catalysts, Thieme, Stuttgart, 2012; b) P. I. Dalko (Ed.), Comprehensive Enantioselective Organocatalysis: Catalysts, Reactions, and Applications, Wiley-VCH, Weinheim, 2013.

[8] a) Y. Hayashi, H. Gotoh, T. Hayashi, M. Shoji, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 4212; b) M. Marigo, T. C. Wabnitz, D. Fielenbach, K. A. Jørgensen, Angew. Chem. Int. Ed., 2005, 44, 794.

[9] D. Enders, M. R. M. Hüttl, C. Grondal G. Raabe, Nature 2006, 441, 861.

[10] Y. Hayashi, T. Okano, S. Aratake, D. Hazelard, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 4922.

[11] H. Gotoh, H. Ishikawa, Y. Hayashi, Org. Lett. 2007, 9, 5307.

[12] D. Enders, C. Wang, J. W. Bats, Synlett 2009, 11, 1777.

[13] F. Xu, M. Zacuto, N.Yoshikawa, R. Desmond, S. Hoerrner, T. Itoh, M. Journet, G. R. Humphrey, C. Cowden, N. Strotman, P. Devine, J. Org. Chem. 2010, 75, 7829.

[14] a) B. M. Trost, Science, 1991, 254, 1471; b) B. M. Trost, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 259.

[15] a) P. A. Wender, M. P. Croatt and B. Witulski, Tetrahedron, 2006, 62, 7505; b) P. A. Wender, V. A. Verma, T. J. Paxton, T. H. Pillow, Acc. Chem. Res., 2008, 41, 40; c) P. A. Wender, Nat. Prod. Rep., 2014, 31, 433.

[16] a) P. A. Clarke, S. Santos, W. H. C. Martin, Green Chem. 2007, 9, 438; b) C. Vaxelaire, P. Winter, M. Christmann, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 3605; c) L. Albrecht, H. Jiang, K. A. Jørgensen, Angew. Chem., Int. Ed. 2011, 50, 8492; d) Y. Hayashi, Chem. Sci. 2016, 7, 866.

[17] H. Ishikawa, M. Honma, Y. Hayashi, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 2824.

[18] Y. Hayashi, S. Umemiya, Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 3450.

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る