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大学・研究所にある論文を検索できる 「ヒト肝細胞キメララット作成のためのヒト肝オルガノイド作成とマクロファージ制御によるヒト造血幹細胞移植の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ヒト肝細胞キメララット作成のためのヒト肝オルガノイド作成とマクロファージ制御によるヒト造血幹細胞移植の検討

古屋, 欽司 筑波大学

2021.08.03

概要

背景:
臨床応用のみならず、実験動物としての利用など、様々な目的で異種移植の研究が進んできている。肝細胞移植、肝移植の分野においても、異種移植の報告は多いが、その多くはヒト肝細胞キメラマウスに関するものであった。そこで著者は、薬理研究や毒性試験などに利用が期待されるヒト肝細胞キメララットの可能性に着目し、同モデルの作成につながるテーマを設定して研究を行った。第一部では、人工多能性幹細胞や成人/胎児肝細胞に代わる新しい移植ソースとなりうるヒト肝オルガノイドの作成と評価を行った。第二部においては、異種移植の成績向上のための、造血幹細胞移植による免疫寛容誘導を着想し、マクロファージ制御によるヒト造血幹細胞移植を検証した。

<第一部>目的:
ヒト肝細胞キメラを作成するための移植細胞源として倫理的要件、幹細胞の多能性、造腫瘍性、などから羊膜上皮細胞(AEC)に着目した。AEC の特性を網羅的に明らかにするとともに培養方法を工夫し、新たな移植ソースとしての肝オルガノイドを作成することを目的とした。
対象と方法:
予定帝王切開で出生した新生児の胎盤、臍帯から AEC、間葉系幹細胞(MSC)、臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を採取して実験に用いた。最初に、AEC の幹細胞性および肝分化能を、遺伝子発現、フローサイトメトリー、RNAseq を用いたバイオインフォマティックス解析等により検証した。続いて、肝分化誘導プロトコル、三次元培養法、および AEC・MSC・HUVEC の共培養を組み合わせて、肝オルガノイドを作成した。共焦点顕微鏡によってオルガノイドの構造を評価し、遺伝子発現、PAS 染色、インドシアニングリーン試験で肝機能を評価した。
結果:
AEC には、未分化マーカーである EPCAM、E-cadherin などが広く発現し、一部では TRA-1-81、TRA-1-60 の発現も上昇していることを確認した。バイオインフォマティクス解析によって、AEC は、線維芽細胞由来や人工多能性幹細胞由来の肝様細胞と似たプロファイリングを持つこと、複数の幹細胞マーカー(TJP1、KRT8 他)、肝細胞マーカー(MET、IL6ST 他)が発現することが示された。AEC の肝遺伝子発現は肝分化誘導と三次元培養により促進された。さらに、MSC・HUVEC との共培養により、細胞は秩序のある配置をとる細胞塊(オルガノイド)となり、グリコーゲン貯留能、ICG 取り込み・排泄能を獲得した。
考察:
AEC では幹細胞マーカーのみならず、一部の肝細胞マーカーも発現していた。 EGFR/JAK3/STAT3 シグナルに関与する TJP1、肝細胞増殖因子受容体をコードする MET など、肝分化培地の因子と関連する遺伝子発現が上昇しており、肝分化能に影響していると考えられた。また、脂質代謝、胆汁輸送など、まとまって発現する遺伝子もあり、何らかの機能を反映している可能性も考えられた。
オルガノイドでは、実際の組織に近い多種細胞環境、立体構造、微小環境が模倣され、一定の肝機能が獲得されたと推測された。オルガノイドでは一時的に増殖は止まっているが、再増殖が可能で移植に適応できると考えられた。

<第二部>目的:
肝オルガノイドをラットに移植するための、免疫寛容を誘導する方法としてヒト造血幹細胞移植を検討した。リンパ球欠損マウスモデルの検討からは、細胞の生着には SIRPα/CD47 の親和性とマクロファージが関与すると想定されているが、他の動物における報告は限定的である。そこで、ヒト-ラット造血幹細胞移植におけるマクロファージの影響を明らかにし、マクロファージの制御によってヒト造血幹細胞移植モデルを作成することを目的とした。
材料と方法:
第一部と同様に採取した臍帯血から単核球分画細胞(hCB-MNC)を分離して実験に用いた。移植レシピエント動物は、中国科学院上海生命科学研究院で作成した SRG ラット(Rag2、Il2rg、Fah 遺伝子のノックアウトラット)を用いた。
最初に、SRG ラットの免疫不全状態を、末梢血のフローサイトメトリーと脾臓の免疫染色で評価した。続いて、hCB-MNC を SRG ラットへ尾静脈注射で移植する実験系を作成し、マクロファージを除去するクロドロン酸内包リポソーム(CL)の投与による造血キメラ形成への影響を評価した。キメラ率は、末梢血全白血球中の hCD45 陽性細胞の割合とした。
マクロファージのヒト血球貪食の評価は、hCB-MNC の静注モデル、および標識赤血球の腹腔内注入モデルによって評価した。
結果:
SRG ラットの末梢血中には、T、B、NK 細胞がほぼ完全に欠損しており、脾臓においては、リンパ濾胞が欠損することを確認した。hCB-MNC 移植実験においては、CL 投与なし群では移植後 7 時間でほぼすべての hCD45 陽性細胞が除去されたが、CL1 回投与群では、3/6 匹において移植後 1 か月までキメラ率が 0.5%程度で維持された。CL 3 回投与群においては、 5/6 匹で移植後 7 日後までのキメラ形成が確認されたが、2 週間以上のラットの生存は得られなかった。
ヒト血球の貪食試験において、静脈注射の実験では hCB-MNC は血中から急速に除去されるものの、脾臓免疫染色中の hCD45 陽性細胞の頻度は低く、貪食の評価が困難であった。腹腔内注射実験では、ラット赤血球に比べてヒト赤血球において、有意に貪食率が高かった(5.94±6.00% 対 47.9±32.0%、p=0.016)。
考察:
CL のマクロファージ除去は 4 日間程度であるとされるが、CL1 回投与群においても移植した細胞が移植後 1 か月以上維持されており、一時的なマクロファージ除去であっても長期的なキメラ形成に繋がる可能性が示唆された。
既存のヒト-マウス造血幹細胞移植のおけるレシピエントマウスでは、NODか hSIRPαを組み込んだリンパ球欠損モデルが使用され、60-80%のヒト造血キメラも達成されている。ラットにおいても hSIRPα遺伝子導入を含むリンパ球欠損モデルによって 14-27%程度のヒト造血キメラが報告されている。本方法のキメラ率は 0.5%と低く、免疫を模倣するレベルではないが、免疫寛容を誘導のためには 1%以下のキメラ率でも良いとする報告がある。CL 1 回投与による造血幹細胞移植は、簡便に他の細胞移植/臓器移植と組み合わせることができるため、免疫寛容誘導モデルとしての応用可能性があると考えられた。

総括:
新しい移植ソースとしてのヒト肝オルガノイドの作成と、マクロファージの一時的な除去によるヒト造血幹細胞移植の検証を行った。次のステップはヒト肝細胞キメララットの作成であり、薬理研究を始めとした実験動物としての利用可能性がある。また、造血キメラは、同種/異種移植のどちらにおいても免疫寛容を誘導する手法として報告されており、CL 一回投与と造血幹細胞移植の組み合わせによる簡便な本法は、様々な同種/異種移植にも応用できる可能性があり、今後の検討が期待される。

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